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独裁vs民主主義でよいか ベネズエラをめぐる二つの見解にみる

 ベネズエラでは、トランプ政府が傀儡(かいらい)のグアイドを担ぎ出し、「チャベスやマドゥロの独裁に対する民主主義、自由主義の運動が弾圧を受けている」とふりまき、経済制裁とともに軍事侵攻をほのめかす緊迫した事態が続いている。これに対してアメリカのこのようなやり方を暴露・糾弾し、ベネズエラの民族主権を擁護する国際連帯の行動が発展している。同時にこれまでベネズエラ政府と民衆のアメリカの干渉に反対するたたかいを支持してきた勢力の間で、明確な意見の相違があらわれている(敬称略)。

 

 日本においては2月、中南米研究者、ジャーナリストら有識者26人が呼びかけて、「ベネズエラ情勢に関する有識者の緊急声明」を発表した【本紙既報】。

 

 有識者の声明は、ベネズエラの状況は「(アメリカの)干渉によって進められた国内分裂を口実に、一国の政権の転覆が目論まれているということ」だと指摘。世界の主要メディアがベネズエラの事態を、「“独裁”に対抗する“野党勢力”、それによる二重権力状況といった構図」で報じていることを批判している。そして、次のように続けている。

 

 「ここ数年の石油価格の下落と、米国や英国が主導する経済封鎖措置や既得権層の妨害活動のため、ベネズエラでは経済社会的困難が深刻化している。マドゥーロ政権はその対策に苦慮し、政府批判や反政府暴力の激化を抑えるため、ときに“強権的”手法に訴えざるを得なくなっている。米国は制裁を重ねてこの状況に追い打ちをかけ、過激な野党勢力に肩入れし“支援”を口実に介入しようとしている」

 

 「それを“独裁に抗する市民”といった構図にして国際世論を誘導するのはこの間の米国の常套手段であり、とりわけフェイク・ニュースがまかり通る時代を体現するトランプ米大統領の下、南米でこの手法があからさまに使われている」

 

 この声明の呼びかけ人の一人、桜井均(元NHKプロデューサー)は会見で、「独裁vs民主主義・自由主義という善悪二元論」では米国の内政干渉を許すだけで、「もっと手前のところから見ていかないと事態の本質はわからない」と指摘した。アメリカが他国の内政に干渉するときには必ずといっていいほど、こうした「単純な図式を用いてきた」からだという。

 

 その根拠として、アメリカが冷戦後の民族紛争や内戦の時期には「独裁政権を倒す」ために「人道的介入」と称する軍事行動をあちこちでおこなったこと、イラク攻撃のときも国連決議の拡大解釈で多くの市民を巻き添えにしたこと、リビアでもシリアでも同様のことが起こったことをあげ、「ベネズエラ包囲もその延長線上にある」と訴えた。さらに、ベネズエラの事態を日本に引き寄せて見れば、「沖縄の米軍基地、地位協定に対する隷属の意味も理解できる」とものべている。

 

 同じく呼びかけ人である山田厚史(デモクラシー・タイムズ)は、『DIAMOND online』(3月1日)で、「一触即発のベネズエラ、“独裁vs民主化”の図式に翻弄される悲惨」と題して寄稿。これまでも、「独裁、非人道的と決めつけられた政権に対して、“倒されて当然”という世論作りが行われ、他国の軍事介入が正当化されてきた」とのべている。さらに、「不都合な政権は武力で破壊する力を持つ国の代表は米国」であり、「介入の後に残るのは、終わりなき内戦と悲惨な暮らし」であった事実から、ベネズエラの事態を冷徹にとらえるよう訴え、次のようにのべている。

 

 「脆弱なベネズエラ経済がマヒする決定打となったのが、米国による経済制裁だ。金融制裁が追い打ちをかける。貿易の資金決済が制限され、日用品や医薬品の代金が支払えず、輸入が止まるという事態が起きている。糖尿病薬のインスリンやマラリア治療薬などが入手できない。貿易はドル決済がほとんどだが、米国の銀行が決済しないためベネズエラは“兵糧攻め”にあっているに等しい」

 

 「“子どもに薬を”などと人道支援を訴える記事が日本の新聞に載るが、医薬品不足の根っこには米国による経済制裁があることを忘れてはいけない」「今のベネズエラの状況は、米国にとって首尾上々だろうが、これは“焦土作戦”ではないか」「ベネズエラで、無名のグアイド氏に正当性を付与するには“独裁者と戦う民主化のヒーロー”に仕立てるのがいい、ということなのだろう」

 

際立つ「日共」の隷属的姿 危機の根源を隠す

 

 一方、「日共」委員長の志位和夫が有識者の声明と同日付けで、「弾圧やめ人権と民主主義の回復を--ベネズエラ危機について」と題する声明を発表し、有識者のよびかけに冷水を浴びせたことが、良識ある人人の憤激を買った。志位はチャベスとそれに続くマドゥロ政権の「失政と変質」によって、「市民の政治的自由と生存権に関わる人権問題が深刻化している」と、ベネズエラの危機の根源がマドゥロ政府にあると非難。抗議運動に対する抑圧・弾圧を「ただちに停止」し、「極度に欠乏している食料品や医薬品を早急に提供すること、国連や国際赤十字など外部からの国際人道支援物資を拒否するのではなく、受け入れる」よう問い詰めた。さらに、翌日には緒方某(副委員長)らがこの声明を持ってベネズエラ大使館に出向くことまでやっている。

 

 ジャーナリストの太田昌国も雑誌『世界』4月号に、いかなる理由があろうとも独裁と民主主義の対立項を第一に据えるべきだとの立場から、「マドゥーロ政権の在り方を見ると、その独裁・権威主義路線には看過しがたいものがある」「マドゥーロ政権の独裁主義とさまざまな理由に基づいて抗議活動を行なう民衆への弾圧政策を認めるわけにはいかない」との一文を寄せている。

 

敗戦後の自発的隷従の結末 世界から噴激

 

 こうしてみると、ベネズエラ情勢をめぐる見解の対立の根底には、現実の民衆の生死に関わる政治局面をどのような観点から把握し真実に迫るのかという重要な問題が横たわっているようである。それは、「独裁vs民主主義」という短絡的な図式に当てはめて論じるのか、今の現実を歴史的に調査研究したうえで、「対立はベネズエラ国内にあるが、それを根底で規定する対立はベネズエラと米国の間にある。チャベス路線(ボリバル主義)と米国の経済支配との対立である」(有識者の声明)と突き止め、その根源に向かって打開の道を探るのかの対立となっている。それはまた、「“民主化”や“人道支援”の名の下での主権侵害が、ベネズエラの社会的亀裂を助長し増幅している」として、アメリカの「民主主義」「人道主義」の凶暴性を現実からあばくのか、それにひれ伏すのかの根本的に異なる対立だといえる。

 

 有識者声明のもう一人の呼びかけ人、西谷修(立教大学特任教授、当時)も、かつて『世界』(2013年9月号)の対談で、日本の首相は「基本的には“戦勝国アメリカの代官”のようなもの」だと語っている。また、それが「敗戦後の日本では、戦前の戦争指導者やその取り巻きがGHQにすり寄り、引き続き日本を統治することになった」ことに起因することを明らかにしたうえで、そうした「典型的な自発的隷従」の構造が「日米安保や沖縄統治の構造、米軍基地への思いやり予算」などに見られることを明確にしている。

 

 こうしたことも含めて、ベネズエラをめぐる国際的な連帯行動の高揚は、「共産党」や「進歩的」といわれる知識人が第二次世界大戦を「ファシズム(独裁)vs民主主義」の戦争ととらえ、日本でもアメリカ占領軍を「解放軍」と歓迎し、アメリカ民主主義を手放しに賛美してきた致命的な誤りをあぶり出すことになっている。そして今や、アメリカが「自由、民主、人権」を掲げて世界の市場を奪い、民衆のたたかいを抑圧、破壊する手助けを、進歩的な装いで欺瞞的に担ってきたことがすっかり暴露されている。

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