いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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駅前開発やめ雇用対策に回せ  下関 山銀とJRに貢ぐ中尾市政

 人口減少と少子高齢化が全国の同規模自治体と比較しても突出して進行し、さらに大企業の海外移転や工場閉鎖、中小企業の倒産、経営難による雇用喪失、生活困難がかつてなく深刻になり、大型店も小さな商店もサービス分野も極端に衰退し、市の税収も激減のすう勢となっている。リーマンショックから欧州債務危機と続くなかで、下関の経済情勢は激変の様相となっている。そのなかで中尾市政は、リーマンショック前に計画していた駅前開発や市庁舎、幡生の教育センター、総合支所の建て替えなどのハコモノ利権事業をごり押ししている。特定地域・企業に投下される資金は一年間の市税収入分(340億円)を上回る規模となる。「一体だれの市政なのか」「市庁舎建て替えや駅前開発などやめてしまえ!」「失業対策や市民生活にまわせ」の市民世論は激しいものとなっている。
 
 シーモール既に空洞化 テナントを埋めるのに必死

 下関駅周辺では昨年から目にも見える形で「下関駅にぎわいプロジェクト」が動きはじめた。09年から5年計画で始動し総事業費として150億円、そのうち下関市が負担するのは55億円。現在ケンタッキーや喫茶店が営業している駅東口の手前部分、大丸やシーモール専門店街をしのぐ駅前一等地に、JR西日本が3階建ての駅ビルを建設し、それとは別にシーモールを運営している下関商業開発が事業者となって、現在のJR西日本下関地域鉄道部(旧国鉄病院)がある場所から東大和町に抜けるまでの裏側5100平方㍍部分に、立体駐車場(250台)とシネマコンプレックス(七~八スクリーン)を含んだ商業施設を建設することが目玉になっている。
 下関駅ばかりか下関のどの町もにぎわっていないのは、駅ビルが古くて、商業施設が少ないからではなく、市民の消費購買力がないからだということは子どもでもわかっていることである。事実、駅前のショッピングセンター・シーモールが、新しい商業施設どころか、その前に幽霊屋敷になりつつある。シーモールからは近年、ダイエーが撤退し、専門店街(160店舗)からも店舗が次次と出ていき空洞化が著しい。1月末に東急ハンズが出ていった2階玄関口も、だだっ広い空間となってベンチが置かれた。2階も3階も空きテナントに進出してくる次の店舗が決まらず、休憩所だらけになりかねないと危惧されている。
 専門店街の男性店主は「東急ハンズがいた場所には、上階にあるセガミにフロア移動を促したが断られたようだ」といった。そして商業情勢の厳しさについて、「通常なら冬物の処分セールは2月にやる。ところが売れないから“なんとかしなければ…”と販促の担当者たちが前倒しで企画したのが1月中旬からのクリアランスセールだった。しかし昨年の経験からもうこりごりだ…と参加しなかった店舗も多かった。七割引きとか五割引きをいくら叫んでも売れないからだ。長年商売をしていると、売れるときと売れないときは雰囲気でわかる。意味がないならジッと耐えていた方が無難だと判断した店主が多かった」と様子を語った。
 駅前開発で拡大路線を進むどころか、フロアを管理する下関商業開発はテナントを埋めるのに必死。昔からいる地元の店には十数年前に固定相場から変動相場に切り換えたテナント料が適用されているが、空き店舗に入ってくる店には、はるかに安いテナント料で交渉していることが話題になっている。そうでもしないと埋まらないからだ。みなが同じ基準で家賃を払っているわけではなく、幾通りも計算方式が存在している。
 資産運用していたはずの数千万円がパーになったり、山口に出したパレスが失敗したり、これまでもさまざまあった。しかし最近のテナント撤退ははるかに深刻なものだと、関係する人人は商業開発がおかれている危機的な状況を指摘している。無印良品がイズミに一本釣りされて出ていくだけでなく、昨年には職員も五~六人まとめて他社に引っこ抜かれた。そのうえシネコンを手がけたり、商業施設を増やすなど「なにを考えているのか」とだれもがいっている。
 「駅前開発や拡大路線は山口銀行の福田頭取が尻を叩いているからだ。商業開発からしたら自爆」「隣に別資本が出てこられたら困るという条件もあった。吉田社長も及び腰だったのに、だれかにネジを巻かれて突っ込んでいる。しかし成功するはずがない」と無謀さが懸念されている。
 店主の1人は、「奥田(瑛二)映画館が家賃無料で営業しているが、安倍代議士夫人の友人というだけでテナント料がタダになる。この街は商売に政治が絡まり過ぎている。駅前に巨大なパチンコ屋が軒を構えたり、宗教団体の施設ができたり、銀行や政治家、その周辺が私物化しすぎている」と問題視していた。
 駅前開発について有用性を感じている市民はどこにもいない。商業的に見ても失敗することはわかりきっている。シーモール・商業開発も推進者になっているが自爆行為となるのは明らか。それならいったいだれが得をするのか? 駅が立派になるJR西日本と、駅前バブルで融資が増える山口銀行、それにまつわる政治家ぐらいしかいない。
 
 150億円も注ぎ市内業者は追い出し JRの開発ビルテナント

 150億円も注ぎ込んで、いったいなにがやられるのか。下関市が議会に明らかにしているところでは、メインの①開発ビル、②商業施設と立体駐車場、③東口駅前広場、④西口駅前交通広場、⑤南口駅前交通広場、⑥高架下中2階の自由通路、⑦高架下1階北側自由通路、公衆便所、駐輪場といったものが列挙されている。
 「旧暮らし・にぎわい再生事業」の対象になっているのが、JR西日本が施工する①開発ビル(敷地面積約3200平方㍍)と下関商業開発が手がける②集客施設・立体駐車場。民間事業に対して市と国が調査設計費や建築費のうち3分の2を補助し、事業者が3分の1の負担で済むというもの。
 ①開発ビルは1、2階部分を商業施設として運営し、JRがテナント料を得ていく場所になる。駅内で営業していた市内業者を追い出して、広島駅の業者を連れてくるといわれている。3階部分は「次世代育成支援拠点施設」を整備するのを理由に下関市が買いとる計画。ビル所有者はJR西日本不動産開発(JR西日本が100%出資。兵庫県尼崎市)で、市が設計業務の費用まで税金から拠出し、委託業務として請け負っているのも同社。商業施設を運用するのは中国SC開発(JR子会社。広島市)。
 商業開発が請け負う②集客施設・立体駐車場には、シネマコンプレックス(7~8スクリーン)が計画され、立体駐車場は約250台規模。施設の1階部分を南口駅前広場として市が整備することになっている。
 「旧まちづくり交付金事業」になっているのが駅周辺の公共施設で、こちらは市が担当する整備事業になっている。補助率が通常なら40%のところ、国から中心市街地活性化計画の認定を受けたことで45%に5ポイントアップしたのを「有利な財源」と位置付けている。
 駅入り口を東口、西口の2カ所だったのから、新たに南口を設置する予定になっている。東口駅前広場ではサンデンのバス停を拡張。西口駅前広場もJR西日本から市が土地を買いとって整備。タクシー乗り場として整備し、彦島住民が利用していたバス停は撤去される。東口については市とJR西日本が管理協定を締結して共同管理し、西口、南口は市が管理するとしている。人工地盤から開発ビル二階、駅の中二階を抜けて西口広場につながる自由通路も市が整備することになっている。さらに高架下北側の現在JRのトイレがある場所には、市が駐輪場を整備し、公衆トイレを整備する。この管理も下関市が引き受ける。
 西口周辺の用地買収に続いて、下関市は南口交通広場のための用地としてJR西日本が所有する5094平方㍍の用地を5億3247万円で購入した。平米あたり10万5000円だった。南口は安倍事務所の側になるが、海側で人通りは少なく有用性は乏しい。そこにはJR西日本の下関地域鉄道部、鉄筋コンクリート4階建ての施設があり、移転補償もともなった。漁港ビル側の通りに、JRは車掌たちの新たな宿舎を建設している。
 市はプロジェクトに関連する債務負担行為として46億円を見込んでいるが、移転費用や用地買収、さらに施設内の買いとりまでやることで、いったいどれだけの金額が最終的に下関市からJR西日本に渡るのか、総額は明らかになっていない。もともと国鉄所有の国有地だった土地が民営化によってJR西日本という私企業の所有物になり、逆に地方公共団体に売りつけてもうけていく。労せず手にした資産によってJR西日本だけが丸もうけしていく仕組みが暴露されている。
 にぎわいプロジェクトでJR西日本が民間事業としておこなうのは、既存の下関駅名店街などの駅高架下の店舗のリニューアル。さらに駅ホームから中2階までのエレベーター設置工事もJR主体の事業であるが、これには鉄道局の補助や県、市の補助も注がれている。JRは下関市に補償させて、新たにつくった駅ビルでテナント商売も本格的に開始する。来年度から開発ビル、商業開発の集客施設の建築工事がはじまる予定で、再来年度に工事を完了する計画になっている。

 預金やめ懲らしめるか 税金にたかる山銀 

 一連のプロジェクトに首を突っ込んで山口銀行が色めきたっているのは、地場産業の世話をするどころかつぶしてしまい、徴税権を持った地方公共団体がおこなう箱物事業への融資は「リスクゼロ」で損がないこと、さらに周辺一帯の不動産バブル等への波及効果を狙ったものだと見なされている。「さっそく下関駅弁の息子(山口銀行幹部)が東急イン裏の建物を解体して、そこにマンションが建ち始め、早くも完売した」と話題になっている。
 150億円の駅前開発にしても、200億円を投じる新市庁舎関連事業にしても、山口銀行は下関市役所の指定金融機関として莫大な金利収入が見込めるほかに、自治体資金の管理を独占するだけでも大きな利権となっている。銀行は利息は実質ゼロで集めた人のカネで、市民にとっては不要な大型投資を中尾市政にそそのかして、5%以下というわりと高利で貸し付けて市民の税金を巻き上げる。
 山銀が栄えて市民は滅ぶ、というのではたまったものではない。子や孫が職がないのに頭を痛める年寄りたちのなかでは、銀行が中尾市長を使って好き放題をしているといっても、人のカネで商売しているのであり、みんなが預金をやめて懲らしめるか、との話も弾みつつある。

 工事も市外発注ばかり 地元に金回らず 

 下関市内では近年、無人駅でホームだけ置かれている梶栗駅が5億円もかけて新設されたり、長府駅が29億円かけて整備されたり、JR西日本への利益供与が目立っている。工事を請け負うのはいつも広成建設(広島市、JR西日本の関連会社)で、「鉄道に関係する」ことを理由に仕事を独占的に受注してきた。駅前開発も大林組や広成建設のような企業が仕事を請け負うことが確実視されている。国鉄は、「親方日の丸」だから民営化してJRになったといわれてきた。民営化したあとの方がよっぽど「親方日の丸」になっている。
 関係して、社会教育複合施設(62億円)を広成建設が手がけた際には、建設工事に参加した全115社(1次下請~4次下請)のうち、市内企業は9社のみ。施設内の機械・空調・電気設備など内装部分にかかわった全51社(1次下請~5次下請)のうち、10社しか参加できないという、寒気がするような市外発注が繰り広げられた思い出が、地元の土木建築業者の脳裏をよぎっている。「街作り交付金」とか「合併特例債」といって、だれかが外側から引っ張ってきた企業ばかりまぶりついて、地元にはちっとも金が回らないのである。
 「新庁舎は建て替えません!」と叫んで市長になった中尾市長は、任期終了となる来年度は駅前開発のほかに200億円規模の新庁舎関連事業を本格化させ、埋立地への消防庁舎建設も強行しようとしている。16日には市民サービス棟(新市庁舎)の実施設計を議会に提出し、来年度以降急いで工事にとりかかる予定。さもしい「駆け込み利権」をやろうとしている姿が浮き彫りになっている。
 多くの市民が働く場所を失い、日銭に困るような実情が決して珍しくない厳しい経済情勢のなかで、差押えを強化したり、老人福祉や教育予算を切り捨て、学校や保育園の統廃合といった「効率化」が横行している。一方で、大盤振舞の開発や散財が繰り広げられ、「あるかぽーとに観覧車をつくる」といった能天気な別世界で、行政や議会がたかり商売に明け暮れている異様さを問題にしないわけにはいかない。
 下関の現状は、リーマンショック以前に計画されていた大型ハコモノ利権事業をやっている場合ではない。150億円をドブに捨てるような駅前開発をはじめ、一連の大型箱物事業は緊急見直しをしてストップさせ、その資金を緊急雇用の創出や、市内の中小零細企業が請け負えるような業務を発注したり、下関に根付いた地場産業の育成をしたり、下関が良くなるためにまともな使い方をすることが待ったなしの課題になっている。

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