いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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下関市と豊浦郡4町合併問題 住民が知らぬうち役場つぶす 地方自治なくす強制的合併

 国がすすめる市町村合併は、山口県では県当局の強引な強制のもとで44市町村が10組織の法定合併協議会を立ち上げて、2005年3月末の合併特例法期限にむけて、住民説明も不十分なまま突きすすんでいる。このうち下関市・豊浦郡四町では、合併協議会がすすむごとに下関に吸収されていく中央集権の強権的な姿があらわとなり、郡部の町職員、農漁業者や商工業者のあいだからは、町の産業や生活基盤が衰退していくとの不安と疑問が渦巻いている。市町執行部や職員労組は、住民に具体的問題をよく説明し、地方自治つぶしと行政サービスの切り捨てや新たな住民負担にたいして、はね返す力を結集することが求められている。
 
  豊浦郡4町で反発広がる
 下関市・豊浦郡四町の合併協議会(会長・江島潔市長)では8月28日の5回目までに、合併の方式について確認したほか、農業委員会の定数・任期について、一般職、特別職の身分取扱についてなど確認をおこなった。また地方税は下関市に合わせることとなり、個人町民税は4町の現行2000円から2500円となり、都市計画税、入湯税も同様のあつかいとなった。また小委員会では、新市の名称について「下関」を視野にすすめているといわれ、450億円の合併特例債を集中投下するといわれる新市建設計画について、候補地の選定をおこなっている。
 同協議会の諮問機関である新市まちづくり構想策定委員会(坂本紘二委員長、20人)がおこなったワークショップでは、新下関に新庁舎を建てて、ソフト・ハードを集中させることが効率的などとしている。今後の合併協議会の予定では、住民の関心がもっとも高いとされる地方税、使用料・手数料についてや、国民健康保険料・介護保険料、議会議員についてなど46項目が、合併特例法の期限である2005年3月末にむけて、国・県の後押しを受けた形のもとに、かけ足で協議されることになる。
 これにたいして市、豊浦郡4町からそれぞれ10人ずつ参加している合併協議会の委員のなかから、「下関に引っぱられすぎではないか」「これでは事実上は、敗北してお手上げの吸収合併ではないか」との意見が語られている。
 郡部のある委員は「政治をつかさどるところが下関になるということは、いままで郡部は町を持っていることで、町の政治として町民の声を上げることができたが、1市4町では町の声は届かない。人口比でも議員数はわずかにしかならない。市町村合併は時代の流れというが、ようは国に借金が多すぎて、1人当り何百万円もあるからやっていけなくなり、市町村合併に協力しろといっている」と話す。「合併を押しつけて郡部を虫けらのように考えているのではないか」と語気を荒らげた。別の委員は「合併ありきでは、絶対にいけない。町が合併はしたが人口が流出した、衰退したということがあってはいけない。われわれも町振興の対案を考えなければいけない」と語る。
 
  農協合併も同じ 商工業にも打撃
  住民の疑問と不安も広がっている。新市まちづくり構想策定委員会が1市4町の住民にたいしておこなったアンケートによると、有効回答があった18歳以上の1885人のうち、合併にたいする不安について「税金や公共料金が上がり住民負担がふえる」と答えたものが、五割強にあたる1036票あった。つぎに多かったものは、「区域が広くなるための行政サービスの低下」を心配する意見だった。
 郡部の基幹産業である農漁業者からは、「この10年のあいだに農協にしろ漁協にしろ大きな合併をおこなったが、組合員にとってはいいことはなく、切り捨てられることばかりだった」と経験が語りあわれている。豊関合併をおこなった農協は、人件費を削減してコストを下げるといって、目標の預金額に足らない地域は農協支所を廃止していった。「おじいさんやおばあさんは車も持っていないから、少しのことでもバスを使わなければ農協に行けなくなり、支障が出ている」。また、農地荒廃があちこちで進行しはじめた。
 漁協の場合はもっときびしく、豊北漁協、豊浦町漁協としてまとまったが、この10年間で赤字を圧縮することはできず、「単協でもやっていけたのに、信漁連の大きな負債のために、なりふりかまわずに合併させられ、借金をつけかえさせられて、国や県も支援は切ってしまい、無責任のためにひどい目にあっている」という結果。「合併はしたが、もっとダメになった」と、市町村合併とダブらせてしみじみと語りあわれている。
 商工業者からは「合併で都市部の大きな企業に飲みこまれてしまう」と語られている。郡部のある印刷会社の経営者は、「学校にまで競争入札がはじまり、かつて六人いた従業員もいまは家族で印刷機を回している状況だ。まえには建設業者の印刷も多かったが、倒産したりコスト削減でなくなった。町報がなくなれば、会社をやめるしかない」と話した。
 合併にたずさわる企画課のある職員は、「町民から、“対等合併というが、中味は吸収合併ではないか”といわれるのが一番つらい。福祉にしても地域とのかかわりにしても、これまで町が半世紀以上かかって積み上げてきたものが、消えてしまうということでは、無条件降伏のバンザイと同じだ。下関にボコボコにされるくらいなら、小さい所帯でもいまのままがんばった方がいい。いいかえれば自立のために苦労をする覚悟はあるか。国がつくっている全国的な合併の流れをはねのけて、自立した町をめざすかどうかは、住民自身が決めることだと思う」と、言葉を選びながらもしぼり出すように語る。「合併はしたくないが、できるならわたしも自立を選ぶ」とつけ加えた。
  
   郡に回らぬ特例債 条件は過疎債以下
 下関市の関係者はどのように見ているか。ある幹部職員は、「市長は大型公共事業をたてつづけにやって、基金も底をついてしまった。郡部四町を吸収することで、合併特例債の限度枠の450億円を、新庁舎と周辺整備に新たに集中投資ができると考えているのだろう。執行者は新市の市長1人のみであり、合併特例債を郡部に使う気はないと見るのが普通だろう」と語る。行くあてのない4町を引きとってやるという大きな態度に、関係者も怒りを腹に抑えているといわれる。
 現在、1市4町には首長5人、市・町会議員107人が在任しているが、豊関合併で人口30万人になったとして、首長は1人、市議会議員は定数46人以内と半分以下になる。町役場はなくなれば、災害など緊急時や小さな相談でも、本庁に行かなければ決裁権を持っている市長の許可はもらえない。住民は言う場がなくなる。
 憲法ではどの市町村に住んでいようが、最低限の文化的な生活を営む権利が保障されている。僻地から食糧供給をおこなっている農漁村であろうと、国、県、市町村にはつぶすことはできず、最低限の生活は保障されなければならない。関係者によると、地方交付税は大幅にへらされたが、へった分か近くまで臨時財政対策債がふえているし、郡部にしか使えない過疎債は、国の支援である充当率は100%で、合併特例債(同95%)より条件はよい。うまく使えばインフラ整備はいまからでも、単独で十分におこなえるとも語っている。

  「町解消」を企み脅迫する国 
 市町村が合併にかりたてられるきっかけは、二井県政が強力におしすすめているためであり、「全県で83%の市町村が法定協に参加しており、割合で全国6位まですすんだ」(7月末時点)と、総務省にゴマをする関係となっている。昨年11月に強制合併をすすめる「西尾私案」を、地方制度調査会が提出したことからいっきに加速した。同調査会が今年4月末にとりまとめた中間報告によると、基礎的自治体について法律で町村の最低人口規模は定めなかったが、新たに合併推進法をつくり「必要に応じて都道府県が市町村に関する構想を策定し、合併に関する勧告や、合併にとりくむ市町村間のさまざまな合意形成に関するあっせん等」にかかわることをして、強制合併と押しつけ合併をすすめている。
 つづいて9月13日には、片山虎之助総務相が町村の最低人口規模について「自民党がいっている1万人をひとつの目安として努力するやり方はある」とのべた。新たな合併推進法に、「1万人未満の町村は合併によって解消を目指す」との努力規定を盛りこもうとしている。これにあてはまる菊川町と豊田町、人口が1万人強の豊北町にとっては、合併してもしなくても「おらが町」を解消させるという国からの脅迫となっており、合併推進へと追いたてるもとになっている。
   
  福祉切り捨てに危惧 高齢者が多い郡部
 高齢化率の高い郡部では、とくに福祉サービスの低下が心配されている。郡部の高齢者福祉にたずさわる管理職は、独居老人などへの配食サービスをつうじて、どんなに山奥の僻地であっても、高齢者の安否を確認する制度をつくりあげてきたと胸をはる。「配食サービスで必要な人にたいして、社会福祉協議会やボランティアに委託して、食事を持っていくことによって健康など状況を知っていく。配食も高齢者の方たちが、家庭的な雰囲気でいただけるように、弁当ではなく容器にひとつひとつ盛って届けている。1~2時間後には、食べ終わったところを見はからって容器を下げにいく。そうすることでなにを食べたかわかるし、古くなったものを誤って食べる心配もない」。
 別の町の福祉にたずさわってきた管理職も、「うちも配食サービスを隔日でおこなっていたものを、毎日おこなうようにかえた。独居老人がお風呂で亡くなっていたことがきっかけで、少しでも早く発見できなかったかという教訓から、いまの制度になった。これは小さな自治体だからこそ、できるサービスだと思う」と、合併によって山間部のお年寄りがとり残されはしないかと心配している。
 郡部四町と下関市の1人当りの国民健康保険料、介護保険料を比べると、下関市の方が高くなっている。施設などに違いはあるものの、介護保険がねらいとする在宅の高齢者にとっては、低料金の郡部の方が、広域であるがサービスは厚くなっている。以下は国保料と介護保険料の比較。
 国民健康保険料(2001年度、1人当り)
  下関市 7万9748円
  豊田町 6万4837円 
  菊川町 6万8538円 
  豊浦町 7万4448円
  豊北町 6万6984円
 となっている。下関市は豊田町に比べて、1万5000円(19%)も高くなっている。
 介護保険料(2003年度、同) 
  下関市 4万7760円
  豊田町 4万1520円
  菊川町 4万1520円
  豊浦町 4万0440円
  豊北町 3万9000円
となっている。下関市と豊北町との差は、8760円(18%)も開いている。「下関と郡部の福祉についてのとらえ方の違いは、施設をつくって高齢者を入れるという政策に違いが出ている。在宅でどう元気になってもらうかという考え方だ。加えて下関では施設が多いうえに、一般会計からも入れないから、保険料が高くなるのではないか」と、ある郡部の職員は下関市の高い保険料が、郡部にかぶせられたのでは実際に合わないと訴える。
 合併のさいには、よく国保料や水道料金の格差が問題になり、はじめは低い方に合わせるという措置がとられても、2年目から引き上げられて、高い方に合わされていくことが多いという。「この地域には、この地域で積みかさねてきた福祉のやり方が、一番合っていると自負している」と、ある管理職は話している。
 ゴミ袋にしても、燃えるゴミ大袋で豊北町、豊浦町は25円、菊川町は30円、豊田町は31円となっており、下関の半額~6割ほどの価格である。すでに下関市に合わせることが決まった地方税と合わせて、成り行きが注目されている。

  自治体労働者の緊急な課題 住民の利益守る為に 
 とりわけ自治体労働者は、地域住民の利益を守るために、市町村合併の行く末を住民に知らせていくことが求められており、地方自治を守るために住民とともに奮斗することが緊急の課題になっている。

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