いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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「広島国税の意向」を掲げた祝島への恫喝

 上関原発の漁業補償金の受け取りを祝島が拒否していることで、上関原発計画は終わりになろうとしている。このなかで、県農林水産部や県漁協が広島国税の意向といって、「受け取って配分すれば税金はほとんどかからない」が、受け取らなければ「3億8000万円の税金がかかり、祝島支店に負担してもらう」などというウソをいって、なんとか補償金を受け取り、漁業権放棄をやらせようとしていることが暴露されている。県農林水産部と県漁協が、水産業を振興させるのではなく、中電という私企業の代理人となって県漁業をぶっつぶすために動いているのである。瀬戸内海漁業を守ることは祝島の生活問題だけではなく、全海域の漁民の生活の問題だけでもなく、魚食を守る国民全体の根本利益である。これら全世論を結集して、二井県政の山口県破壊政治を打ち負かさなければならない。
 
 魚食守るのが国民全体の利益

 祝島では11月末に、県農林水産部の梅田審議監、柳井水産事務所の仲野所長に連れられた県漁協の森友専務ら幹部が、補償金受け取りに誘導する説明会を開いた。
 その内容は、第1回目の5億4000万円は旧107共同漁業権管理委員会から法務局に供託されており、来年5月までに受け取らなければ没収となること、第2回目に支払われた5億4000万円については県漁協が管理しており、国税から「このままにしておくと、実際に補償金を受け取っていようが、いまいが、収益補償金部分については、今年度の所得として、法人税を申告する必要がある」と指導されたと説明。
 配分すればほとんど税金はかからないが、埋立免許交付(昨年10月)から3年間配分されなかった場合には「祝島支店の所得として法人税の申告が発生」し、「このままでは祝島支店が補償金を受け取ってもいなくても、法人税を納めなければならず、祝島支店に負担していただくしかない」と強調した。税金として巻き上げられる額、すなわち祝島に負担させる額が「約3億7822万円」になると具体的数字まであげている。
 国に没収された供託金にも法人税がかかるという、ウソ八百が、監督官庁が見守るなかでやられた。「今日は専門分野の職員が来ているから、何でも質問してくれ」といい、祝島漁民に“その道のプロ”を印象付ける手法だった。
 このことについて県庁10階の梅田審議監をたずね、水産部が作成した文書及び内容なのか問うと、「(不在状況の)運営委員の問題解決のために県として参加したのだ。補償金問題について県は第三者で、税金についての資料はあの場ではじめて見た」と否定した。
 県漁協が農林水産部にお伺いもせずに、二井県政の命運がかかる祝島の補償金問題で、先走ることは絶対にない、むしろ農林水産部か中電が作成したと見るのが漁業関係者の常識である。
 広島国税に直接取材すると、「誰が書いた文書ですか」と驚いてコピーを取る対応。「こんな文書は初めて見るし、国税局のだれがこんな見解を伝えたのかもわからない」と困惑した様子で、「一般論として、補償金のような営業外の収益は“収益が実現したとき”に計上するのが原則。それには、お金が振り込まれたというだけでは不十分で、漁業権について当事者同士が合意し、完全に契約問題が解決したという段階でなければ“実現”とは判断されない。金が振り込まれても係争中であったり、契約問題が解決していなければ、それは宙に浮いたお金であり、決着するまで収益金とは見なされない」「このようなケースは珍しく、事実関係や諸事情をよく調査したうえでなければ判断できるものではない」というものであった。
 要するに県漁協が配った文書は国税の名を語ったウソであった。漁業補償交渉が完全に成立したという前提があること、つまり祝島の漁協総会で3分の2による漁業権放棄の議決をとり、受領して初めて「収益」と見なされ、課税が発生する関係なのだ。
 二井県政と中電は、「漁師はウソをいってだませばよく、金を見せれば飛びつく」という姿を暴露したのである。

 原発推進で動く県漁協 全県漁民の同意なく

 さらに県漁協に取材して確かめると前田宏総務部長が対応。国税からは「今年度の所得として、法人税を申告する必要がある」と言われた部分は事実だとし、それ以外の数字等については「国税ははっきりとしたことは言わないが、その要旨に基づいてわれわれが想定したことを示した」と弁解していた。
 ちなみに、2回目に支払われた5億4000万円はなぜ供託されずに県漁協の口座で管理されているのか問うと「例えば夫婦間で、奥さんが受け取りを拒否したからといって法務局に供託しないのと同じ。同じ漁協内の103管理委員会から祝島支店に払われたものなので、供託金にはならない」と言っていた。祝島の漁業権については、梅田審議監と同じく「最高裁判決に準じる」との見解。
 最高裁判決は、「共同管理委員会の議決に祝島も拘束される」といっているが、7漁協の漁業権放棄が有効であることを祝島も認めなければならないという意味ではあるが、祝島が有する漁業権が無効になったとはいっていない。祝島の漁業権を変更できるのは最高裁ではなく、祝島の漁協総会だけだからである。
 さらに対応した前田部長は「県漁協は7漁協の意志を総意として動く」との見解を示していた。県漁協は内海漁業を壊滅の危機にさらす問題を、全県の組合員の総意を代表する必要はないという姿勢を示した。本店の事務職員が、原発推進を「県漁協の総意」もなくやるというのである。
 現在でも周防灘、伊予灘海域に伊方原発をはじめ、ぼう大な火力発電所ができて、海水温は上昇し、海の生態系は大異変が起きており、全海域の漁業者への補償が重大問題になるべきところにきている。その上の上関原発であり、全県漁民の同意なしに推進に動く県漁協は、協同組合の態をなしていないといえる。推進するにしても、全漁業者が廃業にさらされるような問題で、補償金も問題にしないというのである。最悪の「中電組合」である。
   
 漁協合併も同じ 悪事のつけを漁民に回す 水産振興せぬ県

 県の水産行政や県漁協本店が、平気でウソをついて漁民をだまし、金で脅し、金で踊らせて漁民を痛い目にあわせるというのは、漁協合併でも痛いほど県下の漁協が味わってきた経験だ。「アイツらいつも平気でウソをつく」が定評になっている。
 祝島の補償金受けとり工作は、二井県政が強制した漁協合併の過程で仕かけが施された。漁協運営のあらを探して山戸組合長を解任させ、元反対派で推進派に転じた勢力に権限を持たせた。そして表では、二井知事の埋め立て許可、中電の補償金の残り半金の支払い、そして最高裁判決とすすんだ。裏では上関の大西運営委員長などが柳井などで、飲ませ食わせの接待攻勢をかけて側面作戦を展開。祝島の反対派が崩れたと思ったが、逆に拒絶された。泡を食ったのが二井県政と中電であり、そこで国税や最高裁判決などをふりかざし、県農林水産部が県漁協を引き連れて、行政権力によるウソと脅しで乗り込んだ経過となっている。
 県内の沿岸地域ではこの間、祝島が補償金受けとりを拒否したら上関原発は終わりになるという情勢、また発電所乱立による瀬戸内海全域の生態系の異変などを伝えた本紙が広範囲に配布された。どこへ行っても「上関原発は絶対につくらせるな!」「伊方原発に加えて上関が稼働しはじめたら、瀬戸内海漁業は終わりだ」と漁業者は危機感を募らせている。同時に、漁業を振興すべき二井県政の水産行政や県漁協が、中電という一私企業のために漁業をつぶすために奔走していることへの怒りは尋常ではない。水産県と呼ばれた山口県において、漁業が壊滅状態に追いやられた経験とかさねて思いが語られている。
 二井県政は3年前に県一漁協合併をごり押ししたが、その結果山口県の沿岸では、漁業破壊が一気に進んだ。合併に伴って、100億円を超える信漁連の負債が、県下漁民に押しつけられただけではなかった。80万~100万円もの増資を強要され、途方に暮れる組合員が続出。借金させた金を集めて「増資達成!」と万歳していたのが県漁協本店で、その裏側では6割の組合員が辞めていった豊北町のように、大量の組合員が脱退していった。4、5年前と比較して組合員が半減した支店(旧漁協)は一つや二つではない。
 漁港には片隅でロープを垂れ、放置された漁船が続出。脱退した組合員の漁船がたくさん売りに出される事態にもなった。3000万円かけてつくった船を150万円で売ったとか、ただ同然で譲ったという話は少なくない。萩では「フィリピンやインドネシアに売られていくんだ」と悲しそうに語る人もいた。愛着と思い入れのある船を手放すのは、漁業との決別を意味するものだった。
 怒濤の逃散劇(脱退騒動)は、漁協運営を逼迫させるものとして跳ね返り、経営基盤はまぎれもなく衰弱化した。そんなことを心配する県漁協ではなくなっているのである。残る負債は四億円余りと自慢しているが、林派や信漁連の側が“基盤強化”した分、漁業者の側は“基盤崩壊”したのである。
 二井知事などは、漁師が悪いことでもしたような印象で「支援はこれが最後だ!」などといい放ってきたが、真相はまったく逆で、知事の所属派閥である自民党林派がマリンピア・信漁連でつくった悪事のツケを、漁師はさんざん面倒見てきた。他人の負債を、汗水流した稼ぎを拠出して世話してきたのである。いまなお、支店経営から利益を「献上」させられている。そして、林派の二井知事の周辺では、上関原発の知事同意と引き替えに親戚が筆頭株主の山口県を代表して中電取締役に付き、今度は瀬戸内海漁業を潰すというのである。

 漁業守る共同の斗いへ 上関原発断念の力

 県の強権で発足した県漁協は、漁民の協同組合ではなく、組合員が負担倒れしても容赦しない、漁民を食いものにする漁協というほかない。采配を振るっているのが旧信漁連・県漁連の幹部職員であって、最近では「本店主導」と盛んに連呼して人事権を振り回しはじめているのも特徴だ。
 信漁連の欠損金を利用して漁協をつぶし、とりわけ漁業権を奪って、沿岸漁業をつぶす性質が暴露されている。有明海をつぶし、瀬戸内海をつぶし、沿岸を開発し尽くして、漁業者が悲鳴を上げるまで輸入魚介類を溢れさせた挙げ句に、意図的に廃業に追いこむ政策である。漁業をつぶし、農業もつぶすような国が成り立つわけがない。工業優先といってきたが都会は大量の失業者が溢れ、「金融立国」だといって製造業もつぶしてきたが、いまや金融も破産して社会の立て直しが現実問題になっている。世界でも有数の瀬戸内海漁場を電力会社の都合で壊滅させるわけにはいかない。
 山口県漁業をめぐっては、自民党林派がつくった203億円もの負債を抱えた信漁連の再建を「支援」すると称して、米軍岩国基地拡張や上関原発、下関沖合人工島建設などの沿岸開発を漁民に認めさせ、県一漁協合併で残りの100億円の尻拭いをかぶせたり、すさまじい漁業破壊が実行されてきた。しまいには上関原発まで金をもらって建設させようとしている事について、沿岸漁民の怒りが高まっている。
 祝島の補償金受けとり拒否のたたかいは、全瀬戸内漁業を守る国益にたった、デタラメ国策に反対するものである。この漁業の危機に際して、全県の漁民が、二井県政と県漁協の腐敗幹部を縛り上げる、共同のたたかいを強めることが祝島のたたかいを支え、上関原発を断念させる力となる。

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