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住民400人が押しかけた前田建設工業の説明会 地元理解とはほど遠い現実

 下関市の安岡沖洋上風力発電建設問題が正念場を迎えるなか、事業者である前田建設工業(東京)は23日、地元の安岡公民館三階講堂で、低周波音の調査結果について説明しボーリング調査をおこなうための説明会をおこなった。この日、洋上風力発電に反対する安岡・綾羅木地区の住民たち400人近くが時間前から続続と会場に詰めかけ、会場に入りきれず半数以上が廊下や階段にあふれた。住民たちは低周波音の健康被害について「問題ありません」をくり返す前田建設工業に対して、次次と事実をぶつけて問題点を指摘するとともに、「4人の住民を訴えて1000万円以上の損害賠償を請求するような誠意のない姿勢なら、何万回説明会をしても永遠に握手できない!」「下関から撤退してくれ!」と終始厳しく追及した。前田建設工業の説明会は住民の怒りの火に油を注ぐ結果になり、説明会の場はさながら住民総決起大会の様相を呈した。

 

 

会場に入りきれず半数以上の住民が廊下や階段にあふれた

住民相手に訴訟 その企業と握手できぬ

 

 説明会でははじめに、前田建設工業下関プロジェクト準備室の三輪亨氏が、環境アセス準備書に対する経産大臣の勧告が出た後、市内で約90回の説明会をやってきたこと、安岡本町・前田建設工業安岡寮(風車から1・5㌔)での騒音と低周波音の計測を3年半おこなってきたことを報告。低周波音については、現状の低周波音に風車ができたときの低周波音(メーカーからのデータ)を加算しても、現状の低周波音と変わらないとした。そして、6月26日の工事差し止め訴訟の控訴審判決をへて、海上ボーリング調査を実施するとのべた。

 

 これに対して参加した住民は次次に手を挙げて前田建設工業を追及した。

 

 医療関係者は「このような説明会を1000回、1万回やっても、まったく交わることはない。1・5㌔は近すぎる、10㌔以上離してくれと再三要求しているし、デモ行進でも訴えている。三輪氏は環境アセスの山口県技術審査会で、住民の1%に健康被害が出る可能性があると認めた。これは明らかに公害だ。そして実際に地域住民を4人訴えて、1000万円をこえる損害賠償を請求している。こうして主要メンバーを崩し、住民運動の力をそいで、風力を建てるというのが彼らの最初からのやり方だ。なぜ地域住民がここまで反対しているのか、東京ではわからないだろう。しかし住民の風力反対の運動が絶対にブレることはない」とのべた。

 

 安岡地区の男性は「5年前の説明会のとき、風車が建った後に健康被害が出て集団訴訟になったとき、訴訟先は前田建設でいいのかと聞いたら、“うちではありません”といわれた。ということは前田建設は建てた後は関係ない、住民がどうなってもいいということだ。そういう企業の根性が今回の裁判沙汰ではないのか」と追及した。

 

 綾羅木地区の女性は「さまざまに説明されたが、われわれ素人にはこれで本当に大丈夫なのか理解できない。超低周波音の説明もなかった。先日、長周新聞の号外が配られ、裁判結果について愕然とする内容が載っていた。このような裁判をやるということは、住民とあなた方は永遠に握手をすることがないということだ。そういう結果になった原因はなにか、あなた方ならわかるはずだ。もう一度最初から住民が本当に納得いく説明をしてほしい。あなた方のうわべだけの、専門用語で私たちをごまかすような説明会は何千回、何万回やっても理解はできないし、裁判がある以上手を握ることはない」と力強く発言し、会場から割れんばかりの拍手が沸き起こった。

 

 また、前田建設工業の三輪氏が豊北町の例を出すと、豊北町出身の男性がマイクを握り「実家は風車のすぐそばだ。それでも直線距離が800㍍以上あるということで対策はとられていない。そして歳をとった自分の家族に現実に被害が起きている。全国でも起きている。これで影響がないといえるのか。なぜそれをいろんなデータを出して否定するのか。それは水俣病のときの国や企業の対応と同じではないか。豊北町のことを軽く使うな」と厳しく追及した。

 

 横野の会の男性たちは「はじめは風力発電はいいものだと思っていたが、あるとき豊浦町で運転していたとき、急にムカムカし始め、激しく動悸がするし吐き気がする。驚いて車から出てみたらゴーッという音をたてて風車が回っていた。低周波による健康被害は現実にある。風力がだんだんどんなものかがわかってきて、地権者組合の総会で送電線敷設を断ろうと全員一致で決めた」「そこから横野の会を立ち上げ、毎月第一土曜日に街頭活動をおこない、この9月で丸5年になる。去年から唐戸でも始めた。参加者はのべ1万5000人になる。なぜ反対するのかというと、自分はあと20年も生きないし我慢できる。ただ子どもたちや孫たちのため、20年も健康被害にあわせないために、雨の日も風の日も雪の日も反対を続けている」と口口にのべた。

 

次々と発言に立ち前田建設工業に意見をぶつける住民

 安岡本町の自治会長は「安岡本町で3年余り計測をしているというが、一度も私に連絡がない。普通、すべての工事は自治会長のところに連絡がある」と指摘した後、「2014年に安岡5300世帯のアンケートをとり、73%が風力反対だった。ある自治会長があなた方と手を組んでアンケートをやり直せといったが、次には82%が反対になり、安岡の住民の猛反対がますます盛り上がっている。私は歳をとって医者によくかかるが、どの先生に相談しても風力の今の計画はダメだという。綾羅木・安岡に44ある病院・医院の医者が全員風力反対だ」とのべた。

 

 富任町の男性は「これだけ住民が反対するなかでボーリング調査はやるべきでない。住民の意志を尊重すべきだ。それをしない前田建設の進め方に問題があった。裁判で住民を訴えるようなことをするから、住民は前田建設の誠意などわからない」とのべた。

 

 このような発言があいつぐなか、今回初めて参加したという横野町の住民は「これまでデモにも出られなかった。この場を借りて、みなさんご苦労です」と断りつつ、「みんなが求めているのは安全安心の生活だ。バックになにがあるのか知らないが、これだけみなさんが反対しているのに、なんでそこまで強引にやるのか。自然の豊かな山口県は今ではメチャクチャだ。祝島は原発問題で何十年やっているか。岩国の騒音だってすごい。そして萩のイージス・アショアだ。首相も知事もなにをしているのか。豊北町ではみんなが反対して50年前に原発を止め、自然を大事にした町作りをやったから角島が人気だ。これだけ反対があったらやめた方がいい」と発言した。

 

 同じく初めて参加した若い父親は「健康被害が100人に1人であれ、1万人に1人であれ、26万人に1人であれ、僕の子どもが健康被害になったら耐えられない。もしそうなった場合、誰が補償してくれるのか。下関のために、また地域のためにその確率なら目をつぶるというのならまだしも、なぜあなた方一私企業の事業のために私たちが目をつぶらなければならないのか」と率直な疑問をぶつけた。

 

 最後に安岡地区の男性は「今日の前田建設の説明にはウソが多い。画面に映し出した風車建設後のシミュレーション写真は、県の技術審査会で風車を意図的に小さく見せていると指摘されたものだ。また、風車騒音の調査結果も、風速七㍍以上の定格運転になると騒音は一定だといっているが、風速が早くなると音は大きくなる」と、専門的な見地から事業者の説明のウソをあばいた。

 

 前田建設工業は、「健康被害が絶対にないといえるのか」と追及されると「3年半の計測結果から、風車が稼働しても現状の低周波音と変わらないというデータが出た。もし健康被害が起きるのであれば、今でもおきているはず」といったり、さらに追及されると「医者ではないのでわからない」といったりした。また、住民を訴えたことについて追及されると、「裁判は本位ではなかったが、社会通念をこえる事態が起きたのでやむなくそうした」といい、「1・5㌔の所にあるうちの家に住んでくれ」といわれると「住みます」といいながら「そのときは私は退職していないかもしれない」といって、ますます住民の不信を買っていた。

 

 前田建設工業は「漁業補償交渉は県漁協との間で終わっている」といったが、住民から「下関ひびき支店は反対している」との声が上がった。

 

 2時間の間、風力に賛成する発言は一つもなく、400人近くが住民の発言に真剣に耳を傾け、強い拍手を送り続けた。横野町の男性が前田建設工業の社員に「これだけの住民が反対している。風力発電はもうやめよう。前田建設は撤退しよう」と呼びかけると、ひときわ大きな拍手が送られた。説明会終了後、反対する会にカンパする住民が幾人もあらわれた。

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