いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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日本の大学を買収する米軍 資金提供し軍事研究促す

 日本国内の大学や研究機関に対し、米軍が直接研究資金を提供している実態が明らかになっている。それは安保法制を成立させた安倍政府が学術分野にも介入し、大学を軍事研究の場にする「軍産学協同」を具体化するなかで露骨さを増しており、日本の学問研究を直接に買収支配して軍事研究の下請化をもくろむアメリカの意図をむき出しにしている。アメリカの戦争に日本を丸ごと動員する「日米安保」体制の姿が浮き彫りになり、全国的な平和と独立世論が高まるなか、「学問の自由」を踏みにじり、大学を侵略戦争に動員する介入に対して、知識人の積極的なたたかいが求められている。
 
 はした金に身を委ねるな

 このたび明らかになったのは、2000年以降、米軍が日本国内26の大学などの研究者に150万㌦(1億8000万円)をこえる資金を提供したことを公表し、そのうち国内12の大学がそれを認め、公表されていない資金も含め総額2億2646万円が支給されていたというもの。内訳は、東京工業大学が05年から、炭素繊維複合材などに関する11件の研究に対して87万㌦(1億680万円)を受けとったのをはじめ、埼玉大学が2177万円、横浜国立大学が1835万円、金沢工業大学が6万5500㌦(804万円)、福井大学は717万円、長岡技術科学大学は7万4800㌦(920万円)、名城大学250万円、京都府立医科大学は164万円。山口大学は244万円、徳島大学には536万円、また、「スタップ細胞」で物議を醸した理化学研究所は非破壊検査などに関連する技術、レーザー加工技術の基礎研究の2件で4798万円を受領。産業技術総合研究所(49万円)、物質産業研究機構(392万円)などの国立研究機関も提供を受けた事実を認めている。
 これらは氷山の一角にすぎず、米軍はすでに数十年前から日本の研究者に対する「買収」ともいえる資金提供に水面下で力を入れており、安倍政府の安保法制や大学改革による国の研究費削減のなかで資金源が先細る研究者の足下を見て、さらにおおっぴらなものとしてあらわれている。
 80年代以降、世界の学術研究の成果(論文の発表)におけるアメリカ国内の割合は下降線をたどっており、米軍は年間8000億㌦(約7兆円)もの軍事研究開発費の一部を使って世界の研究者の「青田買い」に力を入れてきた。日本、韓国、中国、豪州などアジアと太平洋地域向けに資金を提供する空軍の下部組織「アジア宇宙航空研究開発事務所」(AOARD)は湾岸戦争翌年の92年に開設された。日本への助成件数はこの10年で3倍に増え、金額も10倍に膨れあがっている。
 税関も入国審査もなく日本に入国できるヘリポートを持つことで知られる東京六本木の「赤坂プレスセンター」(在日米軍施設)に米陸・海・空軍の各研究開発事務所が置かれ、アジアの研究者や研究内容の情報を集めて資金提供がおこなわれている。研究者への資金提供には、研究開発費(研究助成)、会議運営費(会議助成)、米国などへの渡航費(旅行助成)の3種類があり、めぼしい研究者に対してAOARDが直接打診し、資金を提供するかわりに、その研究の成果を報告書にまとめて提出を求める。なかには、論文に資金提供者名を明記するだけで特許は研究者が保有できるとか、使い道が比較的自由などの恩恵があり、厳しいチェックを受ける国の助成金よりも「おいしい資金源」として人脈をつくるための「撒き餌」のようにばらまかれているものも多い。
 戦後日本では、学者や文化人を米国留学させるための「フルブライト資金」など知識人の買収構図がつくられてきたが、近年は直接米軍マネーを使って、先の大戦の反省から日本の学術界で戦後一貫して否定されてきた「軍学協同」に対する嫌悪感を払拭するとともに、日本の先端技術をそのまま米軍の軍事技術に転用する意図をむき出しにしたものとなっている。

 核兵器関連の実験にも

 09年、千葉大学では、野波健蔵工学部教授・副学長を代表とするチームが米豪両軍が主催する賞金78万㌦(約9000万円)の「軍事ロボットコンテスト」にエントリーして物議を醸した。「市街地で戦斗員と非戦斗員を識別する自動制御の軍事ロボットの能力を競う」という極めて実戦的なもので、アフガンやイラクなどで実戦投入されている無人ロボット開発の一環だった。「戦争に手を貸すもの」として批判が高まるなかで参加を辞退したが、研究助成費として5万㌦(約600万円)を両軍から受けとっている。アメリカからロボット開発コンサルタント会社の経営者を特任教授として招いて進めたプロジェクトだった。
 米政府の「連邦政府調達実績データベース」によれば、米軍横田基地を介して国内外の大学や研究機関と結ばれた契約は2010年までに200件以上にのぼる。東京工業大5万㌦(09年)、理化学研究所6万㌦(06年)、大阪大9万5000㌦(09年)、筑波大3万㌦(05年)、東京大7万500㌦(05年)、北海道大2万500㌦(05年)、宇宙航空研究開発機構5000㌦(05年)、名古屋大5000㌦(04年)、京都大5000㌦(05年)、東北大2万500ドル(09年)など数百~数千万円レベルだが、使途については公開されていない。主要大学や独立行政法人のほか、愛媛大や福井大、徳島大、山口大、東北学院大、名城大といった地方の国立大や私学も含まれており、非公開のものも多い。
 米軍は「支援対象は直接軍事応用に繋がらないものに限る」としているが、兵器や軍事システムに転用可能な物理化学の分野への提供が多く、滑走路の材料となる耐爆風性の高いジオポリマーなどの素材開発、自走式ロボットや無人機などの電源となる小型ガスタービン技術をはじめ、日本でも「最先端の科学技術分野」としてもてはやされる情報通信・メカトロニクス(機械工学と情報通信工学の融合)が、ドローンなど機械兵器の無人化を進める技術として重宝されている。
 また、広島大学先進機能物質研究センターと、原爆開発を進めるマンハッタン計画のもとで設立されたロスアラモス国立研究所が「エネルギー蓄積分野の共同研究をすすめる」ための部局間交流協定を締結(09年)したり、大阪大学レーザーエネルギー学研究センターが、核兵器研究所であるローレンス・リバモア国立研究所の「国立発火施設」が募集した共同実験に応募するなど、核兵器開発を進めてきたアメリカの研究機関と被爆地・被爆国の大学が結びつくという屈辱的な事例も生まれている。これらは、両学とも「平和利用が前提」(広島大)であり、「基礎的な物理研究」(大阪大)と弁明しているが、いずれの実験も「おもに経年劣化した核兵器の爆発性能を確かめる実験」に使われることとなった。
 これら研究機関の米軍マネーの流入は、安倍政府が進める安保法制、武器輸出の解禁、さらには学問研究に市場競争を持ち込む大学改革と連動して露骨さを増しており、日本の最高学府から「学問の自由」を奪い、軍事資金に依存させ、戦争の下請機関とするアメリカ方式へと誘導するものとなっている。それは、かつての戦争の反省を根底から覆して、日本をふたたびアメリカの戦争に動員する戦時体制づくりの一環にほかならない。

 防衛省に研究本部設置

 安保法制の下で「軍産学協同」の具体化に拍車をかけているのが安倍政府で、国立大学の人文系廃止を打ち出す一方で、アメリカ国防高等研究計画局の方式をとり入れ、年間1700億円を投じて防衛省技術研究本部を設置。「効率的な装備品」(兵器)の研究開発につながる大学や民間機関との共同研究を開始した。空気圧計測制御の技術情報交換(東京工大)、無人小型移動体の制御アルゴリズム構築等(横浜国立大)、赤外線センサー技術(JAXA)、爆薬検知技術(九州大)、水中音響信号処理技術(水産工学研究所)、ロボット技術(千葉工大)、自律型水中無人探査機(海洋研究開発機構)など、「防衛にも応用可能な民生技術の開発」と称して積極的に働きかけを開始している。
 また、今年からは大学や研究機関に対して「安全保障技術研究推進制度」の募集を開始し、3億円を計上した。「超高速の航空機エンジン開発」「ロボットや無人車両技術」など28分野を対象にして研究資金(最大で年間3000万円)を支給しており、無人飛行機にレーダーを搭載する研究(東京電機大)、海中で電波を送る研究(パナソニック)、海中で光通信をおこなう研究(海洋研究開発機構)、超小型バイオマスガス発電(東京工大)、防護マスク素材(一橋科学技術大)、光を吸収する見えない素材(理化学研究所)、新型トランジスタ(富士通)、極超音速飛行エンジン(JAXA)などを採用した。かつての戦争で軍需産業として国の予算をつかみどりして財を成した大企業をはじめ、「平和と福祉の理念に基づいて」設立されたはずの国立研究機関まで軒並み軍事動員されている。大学に対して経常研究費を削減し、研究者はみずから競争資金を獲得しなければ研究ができない状況に追い込みながら、「鼻先ニンジン」のようにカネをぶら下げて軍事動員するやり方もアメリカ直輸入の方式である。
 これらの研究内容がそのまま米軍に提供されることはいうまでもない。安保法制を先取りした自衛隊と米軍の一体化、日本全土の米軍基地化と同じく、学問分野もアメリカが直接支配する道にほかならない。権力から独立して社会進歩のために真理真実を探究する場であり、「知の拠点」を謳う最高学府が、この権力の介入とたたかって「学問の自由」「学問の良識」を守るのではなく、カネが入るなら大量殺戮兵器の開発にでも甘んじて手を貸すというのは、学術研究本来の目的からはかけ離れた堕落の道といわなければならない。
 また、安倍政府は「自分の国は自分で守る」と豪語して安保法制を強行しながら、日本から米軍への貢ぎ物である「思いやり予算」を過去五年間の平均1866億円から今後5年間で100億円規模で増額する約束を交わすなど、「国土の防衛」どころか米軍の盾となって国益を売り飛ばす隷属ぶりを見せつけている。

 被爆国の使命に立って

 日本の大学人や科学者たちは、戦時中の深刻な痛みと教訓から、学問研究の軍事利用との決別を戦後出発の柱に据えてきた。物理学における爆弾の開発、医学における血液や薬品の研究、数学における暗号解読など、科学のあらゆる分野で多くの科学者が戦争に動員され、人殺しと破壊のための研究に従事させられた。国の制度として研究動員会議がつくられ、各大学には「科学報国会」がつくられて学者は監視され、軍事協力をすれば資金が優先的に配分されたり、若手研究員も徴兵が免れるなどの抑圧のもとで、多くの学徒を生きては還れぬ戦場に引きずり出し、320万人もの膨大な犠牲を強いて敗戦に至った痛恨の教訓を忘れることなどできない。
 こうしたかつての侵略戦争に加担した反省から、1949年に「科学者の国会」として創立された日本学術会議は、総会決議として「戦争を目的とする科学の研究には絶対に従わない決意表明」を内外に発した。六九年には日本物理学会が開催した半導体国際会議に米軍から資金提供を受けていたことが問題視され、物理学会として「今後内外を問わず、一切の軍隊からの援助、その他一切の協力関係をもたない」と決議し、以降、学会プログラムの冒頭に掲げてきた。それは一握りの支配者の利益のための侵略戦争に動員され、負けるとわかりきっている破滅的な戦争に突き進み、2発の原爆によって虫ケラのように親兄弟を殺された被爆国として、二度と戦争を許さないと誓った日本人民のたたかいとともにあったからにほかならない。たかだか数百万円のカネで売り渡せるほど軽薄な決意であってはならず、大学の自治、学問の自由を守る側から、日米政府が進める戦争政策に対する全国的な大衆運動と切り結んで、すべての科学者、大学人が団結してたたかうことが求められている。

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