いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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揺らぐ土地売却決議の有効性 佐賀空港オスプレイ配備問題 防衛省も介入し権限逸脱や脅しで勇み足 地権者や住民から疑問噴出

 防衛省が進める佐賀空港へのオスプレイ配備計画をめぐり、空港に隣接する配備予定地(33㌶)を含む土地の地権者でつくる「国造搦(こくぞうがらみ)60㌶管理運営協議会」(佐賀県有明海漁協南川副支所内)が1日におこなった臨時総会では、防衛省への土地売却賛成が3分の2を上回った【前号既報】。防衛省と佐賀県、その意を汲んで推進の立場をとる漁協本所は、この議決をもって用地取得の決着を装っているが、この議決の有効性については同協議会の地権者からも疑問の声が絶えず、「共有地の売却には地権者全員の同意が必要」(民法)とする原則から逸脱しているとの指摘とともに、総会や議決の手法そのものの公正性を疑う声も上がっている。

 

防衛省が取得を目指す佐賀空港(手前)に隣接する共有地(佐賀市川副町)

議決過程でなにがおこなわれたのか

 

 臨時総会に出席した地権者の一人は、「4月11日付で管理運営協議会から“防衛省に土地を売却するか否かについて”を議案とする臨時総会を5月1日に開催する通知が届き、“会場の都合上なるべく書面による議決を推奨”すると書かれ、同封されていた議決権行使書に記してある“売却に賛成・反対”のいずれかにマルをつけ、署名・捺印をして漁協支所まで提出するように求めていた。“会場の都合上”といっているが、なぜ全漁業者に関係するこれほど大事な問題を書面決議にしたのかが第一の疑問だ。地権者254人中、すでに漁業を辞めたものが95人おり、“他県に移り住んでいるものがいるから欠席者が一定数いる”という言い訳も聞いたが、それなら委任状を求めればいいだけのことであって、欠席者が多いならなおのこと“会場の都合(広い会場がない)”が理由にはならないはずだ。規約上、総会は全体の過半数が出席しなければ成立しない。いくら委任状を出席扱いにするとしても、実際の参加者が23名で、欠席者が9割をこえているというのは総会の体をなしていないではないか」と拭えぬ疑問を口にした。

 

 別の地権者は、「総会で地権者を同じ場所に集めれば、これまでのように売却反対の意見や疑問点が多数出る。そうなると、防衛省が口先で約束する排水対策や振興策などがなんの裏付けのないもので、基地をつくってしまえばとり返しがつかないことがばれてしまう。反対意見になびく人も出てくる。だから、あえて地権者を集めずに各戸に書面を送りつけ、そこに防衛省職員や協議会執行部が働きかけたり、『勉強会』と称して漁業者を集めて“反対すればろくなことがないぞ”という脅しも含めて、賛成のための宣伝を刷り込んでいった。つまり5月1日の総会は開票セレモニーで、書面を各戸に送りつけた4月11日から総会が始まっており、開票まで3週間かけて防衛省や執行部が直接戸別訪問して個々の地権者が持つ疑問や不安を封じ込めながら票集めをしていったのだ。選挙なら公選法違反だ。公正な総会のあり方とはいえない」と訴えた。

 

 また、「防衛省職員が2人1組で戸別訪問し、総会を取り仕切る執行部が“どちらに入れるのか?”と聞いて回り、“後継者がいるのなら、国と対立するのではなく賛成するべきだ”と脅しのような説得をしていた」「通常の議決なら非記名投票だが、書面議決(記名投票)となれば、どこの誰が反対したかが特定される。あとから国をバックにした執行部から攻撃される可能性まで考える漁師も多かったはず。とても個人の自由意志が尊重されるようなやり方ではなかった」という意見もあった。

 

 さらに総会参加者の一人は、「総会が始まったときには、それぞれの地権者が事務局に提出した議決権行使書はすでに開封されていた。開票作業では、あたかも今封筒からとり出して数えたかのようにいっているが、開票場に到着した投票箱のフタが開いているのと同じ状態だ。総会を取り仕切った執行部(11人)の大半は、総会前から“賛成しろ”と触れ回り、総会直前には“執行部として売却に賛成”(田中会長)と公言しており、そもそも売却決議をさせるために臨時総会の開催を決めている。書き換えなどの不正を働いたとはいわないが、少なくとも総会前に票の中身を見ることができ、それが可能な状態だったではないか。中立公正な管理監督を証明できない議決が有効といえるのか」と語気を強めて疑念を口にした。

 

 本紙が協議会役員に事実確認したところ、「各地権者から送られてきた封筒の開封はしたが、開票は総会でおこなった。事前に開封したのは、総会参加者と重複があってはいけないからだ」「立会人は六人で漁協本所からも来ていた」とのべた。

 

 いずれにせよ臨時総会の実態は、開催も議決方法も含めて地権者の多くが知らない「臨時総代会」(協議会の定款にも存在しない)で、防衛省側の意を受けた一部の執行部が決定し、全地権者が公正に判断するための材料や議論の場もないまま個別判断を求め、それも防衛省が直接介入した力ずくの脅しがまかり通る状況でおこなわれており、公正な手法とはかけ離れた乱暴なものであったというのが多くの当事者の実感だ。

 

規約にもない売却権限 全員の同意もなく

 

 また、地権者でつくる「国造搦60㌶管理運営協議会」の事業は、土地の管理運営に限定されており、土地そのものの売却は「協議会がもつ権限の範囲をこえている」との指摘も地権者のなかから上がっている。「本来、規約にないことを決定するのなら、その議決方法や選挙の体制も含めて全会員の合意を図らなければならず、漁協役員(地権者でないものを含む)と混同した“総代会”で決めること自体おかしい」と語られている。

 

 総代会が決定した「出席者の3分の2による多数決」という決議要件についても、執行部は「平成26年度の佐賀空港駐車場用地売却のさいにおこなった議決方法を踏襲した特別議決であり、前例がある」としているが、このときの売却面積はわずか3㌶であり、地権者個人の持分は減らず、協議会が所有する土地(個人から協議会が買った持分面積から)の提供であったこと、決議でも賛成が99%であった事実が指摘されている。「今回は個人が所有権を持つ広大な土地(共有地)の売却であり、まったくの別物だ。そもそも民法の規定上、共有地の売却は地権者全員の同意が必須で、多数決で決めるものではない」という声は強い。協議会の規約にもない土地売却を議決にかけ、個人財産を本人の同意もなく第三者が勝手に処分することが道義的にも、法的にも認められるのかが問われている。

 

酷かった各戸への圧力 「漁業できなくなる」?

 

 地権者の男性漁業者は、「総会開催が決まると、各部落で話し合いが召集され、執行部から“賛成してくれ”というお願いが執拗におこなわれた。説明会や勉強会もすべて賛成させるための会合だ。オスプレイ配備計画が出た当初は、執行部も賛成と反対が半々だったが、国や県をバックにした圧力に押し切られたのか、最後には中立といっていた田中会長が“執行部として賛成”と明言させられ、総会前から賛成を既定路線とするレールが敷かれた。“賛成すればすべてうまくいく”“川副の発展のためだ”と、まるでなにかにとり憑かれたようにくり返すので、“覚書きも契約書もないのに信用できないではないか”といっても聞く耳はもたれず、逆に“地域振興の邪魔をするな”と犯罪者のような扱いを受けるようになった。漁業者は海上で働いているので、何かあったら助け合わなければならず、争いや対立を好まない。あそこまで責められたら、いくら疑問があっても反対しづらい。私は後継者はいないが、孫たちのためにもオスプレイ配備は絶対に反対だ。現在でさえノリ漁は年ごとに厳しくなっている。若いノリ漁師にとっても負の遺産になってしまうことは目に見えており、有明海全体への影響を考えても、佐賀の責任が問われることになりかねない」と、今後を心配する胸中を語った。

 

 別の地権者は、「執行部のなかには、経営が厳しい漁業者に金を貸し、その借金のカタに共有地の持分をとりあげているものもおり、土地が売れたら億の金が入るという話もある。多くの地権者(ノリ漁師)は、防衛省が示した価格で土地が売れたとしても600万円程度だ。それでも基地整備のため干拓地にコンクリが流し込まれて海に影響が出たり、墜落事故などで油が流出してノリに被害が出れば、廃業においこまれるほどの大ダメージを被る。いくら防衛省が“被害は出ない”“被害が出ても補償する”といっても、諫早干拓の被害についても国は動かなかった。漁師のなかにも不安や異論はあるが、防衛省に丸め込まれた一部の執行部の力業で漁師の意見をねじ伏せた格好だ。漁業者にも、地域にも、あつれきや禍根を残す進め方ではないか」と憤りをこめて語った。

 

 賛成票を投じたという地権者からも「佐賀空港にオスプレイや軍用ヘリが70機も配備されれば、有明海漁業やこの地域全体がどうなるのかという不安は当然ある。だが県や市が早々と賛成を表明し、“川副の地権者だけが反対していたら不利益を被る”“国と対立して予算を減らされたら、ますます漁業者の個人負担が増す”“港湾工事の予算も付かなくなる”といわれ、その空気に圧された人が多い。不安が払拭されたわけではない」と語られていた。

 

 ある年配の漁業者は、「筑後大堰や諫早干拓などの国策事業でも、国は工事着工まではいくらでも口約束をするが、できてしまえば何もしないことをみな経験している。だから国への信用はない。それでもオスプレイを受け入れなければ、漁港がある早津江川の浚渫(しゅんせつ)工事の予算も減らされ、船を買い換えるさいの補助金(上限1500万円)が打ち切られるかもしれないとまでいわれた。早津江川は川底に土砂が堆積し、筑後大堰からの放水量が減ると浅くなって船が動かなくなる。物価高で設備投資の値段も上がり、補助金がなければノリ養殖は続けられない。受け入れても地獄だが、受け入れなかったらもっと地獄という状況で選択を迫られた」と胸の内を語った。

 

 若手漁業者の一人も、「当初、総会議決の条件を2分の1にするか、3分の2にするかで揉め、3分の2に決まった直後から、“オスプレイを受け入れなければ補助金や予算が削られる”という噂が一斉に流れた。執行部が防衛省にいわされたのだろうが、これではやり方がヤクザと同じではないか。防衛省の勉強会の場でも“県も市も賛成し、反対しているのは川副だけだ”“土地代(1平方㍍当り6031円)も反対すればどんどん下がっていく”といって若手を揺さぶった。“執行部が責任をとる”などというが、10年後に影響が出たとしても今の執行部はみな退いている。防衛省も担当者がかわれば、口約束など“ゼロ”と同じだ」と話していた。

 

有明海でのノリの養殖作業

地権者だけの問題か? カヤの外の地元住民

 

 オスプレイ配備の影響を受けるのは、地権者の漁業者だけでなく、近隣にも多大な影響が出るため周囲の視線は厳しい。また漁業者だけではなく、農家や地域の自営業者からは、「これは漁業者だけの問題ではない。県と漁協幹部が勝手に見直した“佐賀空港を軍事利用しない”という公害防止協定(1990年)は、当時の川副町長(後に佐賀市に合併)も調印し、地域住民との約束として結ばれたものだ。それなのにそれを削除するときに私たち住民はカヤの外だ。県知事は住民の前で説明すべきではないか」「オスプレイや軍用ヘリが70機も配備されたら、1日中畑で働く私たちの頭上を飛ぶことになる。防衛省は今年一月、やっと住民説明会を開いたが批判意見や疑問が噴出したので、“また説明会を開く”と約束して打ち切った。その約束も果たされていない」「漁業者でも地権者以外は反対が多い。地権者だけで決めて強行することにも腹が立つし、私たちの疑問や要求はいったいどこに訴えればいいのか」など、各所で激しく語られている。

 

 元行政関係者は、「土地売却にあたっては、事故時や被害補償など細部にわたって国と結ぶ公害防止協定の締結が必須だが、それらをすっとばして売却契約をするのなら、それは漁業者や県民、市民に対する背信行為だ。土地を売ってしまえば交渉のカードをみずから捨てるようなものだ。行き場のないオスプレイの木更津駐屯地(千葉県)の暫定配備期限が2年後の2025年7月に迫っており、それまでに佐賀配備の基盤をつくるために防衛省は焦っている。だからこれだけ強権的な進め方をしている。漁業者だけでなく、県民や市民、それから有明海全域の問題として県や漁協の責任を問う声は強くなるだろう」と話した。

 

 配備用地の取得を急ぐ防衛省は、漁協本所との間で売買契約を早期に締結する動きを見せているが、反対する地権者の間では「共有地の売却は地権者全員同意が必須」として議決の無効を訴える声や法的措置をとる動きもあり、とても決着済みといえるものではない。防衛省による恫喝じみた買収手法が明らかになるにつれ、およそ民主主義とはかけ離れた不当な土地売却議決の法的有効性を問う声が地域住民や市民のなかからも上がっている。15日におこなわれる佐賀県有明海漁協本所の理事会で防衛省との土地売買契約の方向性が出されるとみられ、その動向に厳しい視線が注がれている。

 

◆熊本一規・明治学院大学名誉教授のコメント

 

熊本一規氏

 佐賀空港へのオスプレイ配備計画にともなう土地売却問題に関し、漁業権に詳しい明治学院大学名誉教授の熊本一規氏が以下のコメントを本紙に寄せた。熊本氏は有明海の諫早湾干拓事業での漁業者の運動にかかわった経験もある。

 

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 国造搦干拓地は、国造干拓事業にともなう補償として当時の漁業者各個人に配分されたものであり、現在争点となっている約31㌶の土地は、有明海漁協南川副支所の組合員(現役漁師)159名及び非組合員(廃業者)95名、計254名の地権者の共有地となっている。


 共有物に変更を加えたり処分したりするには、共有者全員の同意が必要である(民法251条)。したがって、254名の地権者の共有地を売却するには、254名の地権者全員の同意が必要であり、国造搦60㌶管理運営協議会が決められることではない。


 254名の地権者全員の同意をとることなく、共有地売却に関して何の権限もない管理運営協議会の決議に基づき、共有地の売買契約を交わすことは違法であり、254名の地権者全員の追認が得られない限り、無効である。

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