いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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深刻度増す大阪の医療崩壊 体制拡充されず逼迫する現場 新自由主義の犯罪性を暴露

 全国的に新型コロナウイルス感染の「第四波」が急拡大し、新規感染者の8割を感染力の強い変異株が占めるなど、日本国内の感染状況も新たな段階に突入している。なかでも3月末から感染者が急増し、1日当りの陽性者数が東京都を抜いて全国最多が続いている大阪府では、5月1日の新規感染者は過去最多の1262人にのぼり、1日の死者数(発表数)も40人をこえた。昨年から指摘されてきた医療崩壊は想定をこえて深刻化し、重症者病床の使用率は100%をこえ、病院に入れない入院待機者と自宅療養者をあわせると1万4000人をこえている。菅政府と太いパイプを持ち、地元では自民党を差し置いて行政トップや議会多数派を握ってきた「大阪維新」だが、「二重行政のムダ根絶」「身を切る改革」「サービス拡充」などのスローガンとは裏腹に、多くの府民の生活や生命を犠牲にしながら対策は常に後手に回り、いまや変異株の出現を前にしてお手上げ状態に陥っている。「小さな政府」と弱肉強食を推進する新自由主義がもたらした社会崩壊であり、危機に適応した一刻も早い政策転換と国家的規模の対応力が求められている。

 

 大阪府の新型コロナ新規感染者数は、3月後半から東京都を抜いて全国最多となり、3月末からは1日当り1000人以上の高止まりが続いている。4月15日には初めて1200人に達し、5月1日の1262人に至るまで過去最多を更新中だ。第三波のピークが654人(1月8日)であり、第四波は約2倍の勢いで感染が拡大していることになる。1週間に8000人の速度で感染者が増え続け、医療体制はすでに崩壊状況に陥っている。

 

 

 1日現在、大阪府内の新型コロナ重症者(人工呼吸器の装着必須)の病床使用率は157・6%に達している。重症者数(415人)が確保病床数(224床)を大幅にこえ、60人以上が軽度中等症患者を受け入れる病院や他府県の医療機関で治療をしている状況だ。新たに確保した重症病床を含めても使用率は98・3%と満床状態にある。

 

 「酸素吸入しなければ危ない」と判断される中等症や軽症の病床使用率は77%となっているが、患者1人当りのマンパワーがより多く必要な重症者が急増しているため、軽症中等症を受け入れている国公立病院や、急性期診療を担う市中病院では新たなコロナ患者の受け入れができない状態にある。

 

 大阪府は第三波がピークを迎えた昨年末から、それまで重症化リスクのある患者も受け入れてきた重症病床を、人工呼吸器が必要な患者だけに限定するよう医療機関に要請している。そのため中等症患者の受け入れ病院も、いつ重症化するかわからない患者を多く抱えており、院内感染による病院機能の崩壊を防ぐためには新規入院患者を制限せざるを得ない。

 

 重症患者を受け入れるためには、集中治療レベルの人的資源が必要になる。急性期の一般病床では患者7人に対し1人の看護師が付くが、コロナ重症病床では1人の患者に5~10人程度が必要とされる。ICUでは、医療スタッフは防護服や手袋、顔面を覆うゴム製マスクを装着し、人工呼吸器を同期させるための鎮静薬を持続点滴し、血管の点滴ルートや膀胱・胃のカテーテルの管理、こまめな体位変換、清拭や排泄のケアもしなければならない……など、災害医療並みの労力が求められる。コロナ禍に入り1年半が経過するなかで、出口が見えないまま災害対応に追われる医療現場の疲労はピークに達している。

 

 そのうえ現在は、「人工呼吸器の数が不足し、新規購入は2カ月待ち」といわれ、それを装着するための麻酔薬も世界的な需要逼迫で品薄状態にある。患者の治癒を遅らせる変異株の増加で、入院日数が第三波時に比べて3~4日延びている新たな変化も医療現場に危機感を与えており、新段階に適応した医療リソースの拡充は待ったなしとなっている。

 

 新規感染者の八割を占めるとみられている変異株(英国型・N501Y)は、基礎疾患を持たない若い世代(30~50代)でも重症化する割合が高く、そのスピードが早い特徴がある。そのため自宅待機者の容体が急変する事例が増えているが、救急車が駆けつけても受け入れる病院がない。救急車が駆けつけてから搬送先を決定するまで1時間以上かかったケースは、4月12~18日の1週間で278件(過去最多)を記録し、3月初旬の約5・3倍にのぼった。最長で約2日間(48時間)、自宅待機を余儀なくされた事例もある。

 

 大阪府では宿泊療養のためのホテルの確保も進まず、事実上の入院待機患者(自宅療養も含む)は1万4000人をこえている。3月1日から4月29日までの間、自宅療養・待機中に死亡した人は12人にのぼり、求める治療が受けられず、死に方も選べない確率が高まっており、「医療崩壊ではなく社会崩壊に近い」(北村義浩・日本医科大学特任教授)と指摘する声もある。

 

 収容先が見つからない患者のために、府は4月22日から「入院患者待機ステーション」(大阪市内)を設置。30日までに計55人を受け入れ、医師や看護師ではなく、救急救命士の資格を持つ消防隊員が患者のケアや応急処置をおこなう。最長36時間待ったケースもあった。そのほか、宿泊療養施設にも酸素供給設備を配備するなど、本来は病院で受けるべき医療が受けられない事態が深刻化している。

 

常態化する「命の選別」 年齢で治療に線引き

 

 4月19日、大阪府健康医療部の医療技官トップが府内18の保健所所長宛に通達を出し、重症病床が逼迫し「中等度病床でも挿管事例が40を超えており、さらに高流量酸素を必要とするケースが100例以上」にのぼっている現状をあげ、「入院調整が厳しくなって」いるため、「当面の方針として、少ない病床を有効に利用するためにも年齢が高い方につきましては、入院の優先順位を下げざるをえない」と、年齢によって治療に優先順位を付けることを提案。「特に高齢者施設の入所者の方でDNAR(蘇生措置拒否)の方につきましては、看取りを含めて対応をご検討いただきたい」と、高齢者の延命措置を打ち切ることにも言及した。入院調整をする保健所で「患者の線引きをしろ」という意味であり、「あからさまな命の選別」と批判が殺到した。

 

 そのため大阪府は「府の方針ではない」(吉村洋文知事)として撤回し、通達を出した幹部(医師)を口頭注意したが、「基準を行政が作るのは違う。優先度に応じて医師、医療の専門家が判断すべき」(同)とのべ、その責任を病院側に丸投げする対応を見せている。だが根本的問題は、誰が治療の優先順位を付けるかではなく、「命の選別」をせざるを得ない状況を作り出していることだ。

 

 すでに大阪府内では、がんなどの通常疾患の手術の延期などのトリアージ、新規入院の中止、病棟の閉鎖が広がり、拠点病院でも重篤なケガや急患に対応する第三次救急の受け入れを一部制限している。三度目の緊急事態宣言の発令を受けて、4月28日からは、がん専門病院である大阪国際がんセンター(大阪市中央区、500床)でも新型コロナ重症者を受け入れることになった。

 

 これまで同センターは、免疫不全で感染症に罹患しやすいがん患者への感染や重症化のリスクを避けるために新型コロナ患者を受け入れてこなかったが、今後は大規模な手術が必要な患者や、がん治療中の感染症や合併症を防ぐために使われてきた集中治療部(ICU)をすべて新型コロナ患者専用とし、現在収容している400人の患者はスタッフが少ない高度治療室(HCU)で対応することになる。必然的に予定手術の削減や転院の調整などによってがん治療は縮小する。がんの手術は遅れれば遅れるほど他臓器への転移や死亡リスクが高まることから、患者や家族の不安が増している。

 

 現状では、新型コロナ感染に限らず、すべての患者にとって入院・治療のハードルが上がり、搬送段階で患者の優先順位の選択をせざるを得ず、新型コロナ対応に適応した医療体制が構築できないことが、医療全体の崩壊に繋がっている。

 

 「入院に優先順位を」とした通達を撤回すれば済む話ではなく、進行する医療崩壊に対して有効な手立てを打たず、その責任を現場に丸投げしてきた行政トップの開き直りにこそ最大の問題がある。

 

人手が足りない保健所 滞る連絡や検査

 

 大阪府や大阪市は「医療従事者の不足」を訴え、全国に人工呼吸器が扱える高度なスキルを持った看護師の募集をかけたり、医療機関にコロナ患者の受け入れを求めているが、「最後の砦」である医療の逼迫は、その「入口」である保健所体制の麻痺に起因している。

 

 府内の感染者によると、高熱などの症状が出てもPCR検査の対象にはならず、PCR検査で「陽性」の結果が出ても、即日あるはずの保健所からの連絡が来るのは2~6日後という状況だ。陽性者の同居家族は自宅待機になるが、公的なPCR検査を受けるのに1週間以上待たなければならない。無症状者を含む疫学調査どころか濃厚接触者の捕捉もできておらず、クラスター発生に歯止めがかからない。昨年五月段階から保健所の逼迫状況はまったく変わっていないどころか、深刻化している。

 

 感染者の捕捉が遅れれば、入院や有効薬の投与が遅れ、重症化のスピードが増し、その負担は雪崩のように医療機関に押し寄せる。若年層の重症化率が高い変異株に対応するためには、検査や隔離体制を真っ先に確立しなければならない。

 

 大阪府の人口10万人当りの保健師数(2018年度)は、全国ワースト2位の25・9人であり、全国平均(41・9人)の6割しかいない。一連の「行政改革」によって保健所数が削減され、地域担当の保健師は平均1万2000人もの住民を担当しなければならないほど体制が脆弱化していたところにコロナ禍が襲った。「維新」体制の下では、市や府の保健所と連携して公衆衛生業務を担っていた市環境科学研究所と府公衆衛生研究所を統合し、独立行政法人化することによって人員が削減され、PCR検査に対応できない状況にもなった。

 

 コロナ禍での保健所業務は、医師の指示の下で、病状確認、PCR検査の対象か否かの確認、PCR検査を必要とする人の検査日時・場所の確認と連絡、PCR検査の結果説明、陽性と判定された場合は感染経路を調べ、入院や施設・自宅療養の振り分け、濃厚接触者の確認と必要時はPCR検査の勧奨、自宅療養の場合1日2回病状確認の電話等と多忙を極める。ひっきりなしにかかる電話対応も加わり、業務は深夜に及ぶ。

 

 「第三波」の来襲以降、月の残業時間は「過労死ライン」と呼ばれる月80時間を大きくこえ、100~200時間にも及ぶ。「アルバイトを雇用して対応しても、一番大切な感染予防業務が十分できない状況では感染拡大を止められない」「募集ハードルの高いスキルの看護師を集める前に、保健所の人員増員を」との要求は強い。

 

 大阪府の職員労組は1月に保健所職員定数の増員を求める6万人分の署名を府に提出。「単純に増やすことが答えとは思っていない」としていた吉村府政は、4月1日から府は9保健所に各1人ずつ保健師を配置したが、精神疾患や難病の患者支援のほか、児童虐待相談などの専門業務も抱える現場の疲弊は解消されていない。

 

 自宅療養者の病状確認は、電話による患者本人の自己申告制に切り換えるなど、行政の防疫対策は受け身に回り、感染拡大業務逼迫の悪循環が続いている。

 

責任転嫁する大阪維新 無策で迎えた第四波

 

 「大阪維新」が行政トップを握る大阪府、大阪市のコロナ危機への対応には、彼らの政治・行政における優先順位が如実にあらわれており、予測された第四波の到来に備えた対策も放置が続いてきた。昨年7月時点で大阪府医師会は「インフルが流行する寒冷期に向けた対応をしなければ医療崩壊は避けられない」と警鐘を鳴らしていたが、当時、吉村知事は「うそのような本当の話」として「ポビドンヨード(イソジン等)でうがいをすることで、このコロナにある意味打ち勝てる」と大々的に緊急記者会見を開き、世間を唖然とさせた(医師会は科学的根拠はなしと断定)。

 

 松井市長も昨年4月、感染者の治療に使う医療用防護服の不足を補うとして、市民に「雨ガッパ」の供出を呼びかけ、何十万着ものカッパが集まったが、実際には使い物にならず廃棄するという珍騒動を演じた。

 

 それでも「大阪モデル」「吉村人気」と礼賛するメディアの力を借り、大阪府市は行政の総力を挙げて「都構想(大阪市廃止)」の住民投票(11月1日)と推進活動に全力を注ぐ一方、10月は対策本部会議を一度も開かず、「個々の意識や努力」など一般市民の自助努力に丸投げを続けた。

 

 気温が下がる11月末から予測された通りに第三波が始まり、年明けには2度目の緊急事態宣言を発令。飲食店には休業や時短営業、感染防止策などの徹底を呼びかけ、2月に感染者が減少傾向に転じると、今度は「マスク会食」を推進し、国に対して緊急事態宣言の前倒し解除を要請。すでに変異株の出現が明らかになっており、医療業界は「再拡大は不可避」と解除に反対したが「経済を回すべき」とし、国は3月1日に解除に踏み切った。案の定4月からは感染者の急増が始まり、わずか2カ月足らずで3度目の緊急事態宣言に立ち至った。

 

 しかも大阪府は、緊急事態宣言の解除にともなって、それまで224床としていたコロナ患者用の確保病床を、元の150床へ減らすように各医療機関に要請しており、それからわずか1カ月後に再び増床を要請。医療機関では、そのたびに医療スタッフを大規模に移動させなければならず、現場の実情を無視した行政判断が混乱を作り出している。

 

 一方、大阪市では4月22日、飲食店に休業や時短などを要求している最中(3月1日~4月4日)に、市職員の1000人以上が5人以上の会食をしていたことが聞きとり調査で明らかになったとして松井市長が謝罪。その市長自身も第四波が急拡大中の4月には「公務なし」が17日間におよんでいる。

 

 府市のトップは「二重行政」のない「バーチャル都構想」を実行中とし、コロナ対応を府に一元化している。二度の住民投票で否決されたものの、いまだに「市を解体する」都構想に執念を燃やしていることも、行政機関の士気低下を促しているとみられている。

 

 そして、一向に拡充されない医療・保健体制とは裏腹に、「大阪維新」が声高に主張してきたのが、コロナ特措法や感染症法の改定による罰則導入や私権制限であり、「陽性とわかりながら感染拡大防止に協力しない人には、罰則はあってしかるべき」(松井市長)、「感染拡大を抑えるために個人に対して義務を課す、個人の自由を制限するのは諸外国ではやっているが、日本はやっていない。…個人の自由を制限してでも、感染対策をできるようにすることが法令上必要」(吉村知事)と厳罰化をくり返し主張してきた。直近では民間に2億円で委託した「見回り隊」600人に飲食店の感染対策をチェックさせている。

 

 これに対しては、兵庫県明石市の泉房穂市長が「大阪府は政府と繋がって、大きな影響とか流れをつくっているが、緊急事態宣言を早期解除といったのは誰なのか? 重症病床の確保を優先し、人が死なないための政策を打つべきであって、暖房と冷房を付けたり消したりの1年前と何ら変わらない政策を続けている政治家が、その責任を国民に転嫁して私権制限するなどというのは主客転倒。国民は法的根拠がなくてもマスクをし、補償がなくても我慢しているわけで、その真面目な国民性に支えられて何とか今の状況がある。感謝こそすれ私権制限を持ち出すことは有害だ」と厳しく批判している。

 

 波が押し寄せる度に感染力が数倍に増し、治療が困難な変異株に置き換わっている事態を迎え、PCR検査の大胆な拡充や、コロナ対応に特化した野戦病院の新設など世界各国が国家レベルでやっている医療体制や補償強化は不可欠となっている。

 

 大阪の窮状は、菅・自民党政府が描く国の姿を先取りして「小さな政府」を標榜し、徹底的な公的部門の切り捨てと民営化を進めてきた新自由主義政治がもたらしたものといえる。コロナ禍が炙り出した現実は、もはやその政治の下ではまともな社会運営は不可能であることを浮き彫りにしている。

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