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電気料金値上げ強いる再エネ FITと再エネ賦課金の仕組みを解剖

 電気料金が4月から、標準家庭で年間1000円以上値上げされるというので衝撃が走っている。経産省によると、標準家庭(2人世帯で1カ月に260kwhの電気を使用)の場合、電気料金は昨年度と比べて年間1188円値上がりする。原因は、風力や太陽光、バイオマスなど再生可能エネルギーの電気を電力会社が買いとる費用が、電気料金のなかに「再生可能エネルギー発電促進賦課金」(再エネ賦課金)という形で上乗せされており、これが上がるからだ。今回の値上げで、再エネ賦課金は標準家庭で年間1万476円にもなる。風力や太陽光は健康被害や土砂災害をもたらすとして全国で反対運動が起こっているが、その再エネビジネスの利益の元を国民に負担させる仕組みができあがっていることが暴露されている。

 

 政府は再生可能エネルギーを普及するために、2012年に電気の調達に関する特別措置法(FIT法)をつくり、固定価格買取制度(FIT)を始めた。FIT制度というのは、再エネによって発電された電気を、火力や水力、原子力より高値の固定価格で20年間買いとることを、国が電力会社に義務づけた制度だ【図参照】。それによって「再エネはもうかる」ということで、外資を含む大企業や電力会社が再エネビジネスに次々と参入するようになった。

 

 

 そして、電力会社が再エネ事業者から電気を買いとる財源は、「再エネ賦課金」という名前で消費者から徴収する電気料金に上乗せすることが、2012年施行の「電気事業者による再生可能エネルギー電気の調達に関する特別措置法」で決められた。あまり知られていないが、各家庭の電気料金の請求明細に「再エネ発電賦課金」と記載されているのがそれだ。これで再エネの電気を買いとる費用は国民に負担させ、電力会社の懐が痛まないようにしている。

 

 しかも、大企業は一般家庭よりはるかに大量の電気を使っているのに、「再エネ賦課金」の支払いは免除となっている。それは経団連が再エネ賦課金の徴収に反対したからで、たとえば製造業では、売上高1000円当たりの電気の使用量が平均の8倍をこえる事業者は80%もの大幅な減免をすると決まっている。その減免額は2012年から2013年までだけで、鉄鋼、化学、金属加工、鉄道など1916事業者、約244億円となっている。その分を一般家庭や中小企業が負担していることになる。

 

 さらに、この「再エネ賦課金」の1kwh当たりの単価は年々上がり続けている【表参照】。(1カ月に300kwh使用する家庭を想定)。それは風力や太陽光の発電量が増え続けているからで、2021年度の「再エネ賦課金」の国全体の総額は前年度より3200億円あまり増え、約2兆7000億円になった。それだけ各家庭の電気料金に上乗せされる分が増え、値上げになっているわけだ。

 

 

 ただでさえコロナ禍のもと、企業の倒産や雇い止め、バイトのシフト激減などで収入が減っている家庭は多い。また、コロナ感染拡大の影響が深刻な飲食業などで事業者の大きな負担になっているのが、光熱費や家賃などの固定費だ。再エネ事業者のもうけを増やすための電気料金値上げに、厳しい視線が注がれる。

 

 風力発電にくわしい三重県の歯科医師・武田恵世氏に聞くと、経産省は現行のFIT制度を終了し入札制(FIP制度)に移行することについて、今年度中に結論を出し、2022年度から移行するといっているそうだ。だから今、事業者は駆け込みで全国各地でたくさんの風力や太陽光、バイオマスの計画を出している。ドイツではFIP制度に変わったとたん、もうからないから再エネの新設が激減した。だが、その場合でも再エネ賦課金はなくならず(20年間の買取を保証しているため)、電気料金は上がり続けることになる。

 

環境アセスも要件緩和 森林の開発を容易に

 

 現在、菅政府は「2050年までにCO2排出量の実質ゼロをめざす(カーボンゼロ)」といって再エネ推進の旗を振っている。経産省と環境省の合同有識者会議は最近、風力発電の環境アセスの要件を緩和する方針をまとめた。現行では一事業あたり定格出力1万㌔㍗以上の計画にアセスを義務づけているが、それを5万㌔㍗以上に引き上げる。これには環境保護団体から、「住民から苦情の出ている風力の70%以上が5万㌔㍗以下」だとする意見書が出ている。

 

 また政府は、森林法の改定(再エネ事業には保安林指定を解除する)、国有林野法の改定(国有林であっても再エネ事業には土地を貸与する)、農山漁村再生可能エネルギー法による農地の転用規制の緩和などをおこない、事業者が事業を進めやすいように法整備をおこなってきた。最近では地球温暖化対策推進法を改定し、地方自治体に再エネ導入の目標設定を義務づける動きもある。

 

 こうして政府は国策として再エネを進めているが、そもそも風力や太陽光は火力(CO2)を減らさない。また、原発を止めて再エネだけにすることもできない。なぜなら電力は安定供給が必須であり、発電量と使用量をほぼ同じになるように調整しておかないと大停電を引き起こすからだ。正確には3~5%の誤差の範囲に収まるように、各電力会社が10分単位で発電量を調整している。

 

 風力や太陽光は、自然条件で発電量が変化するきわめて不安定な電源だ。風力発電が定格出力、つまり5000㌔㍗の風車が5000㌔㍗の発電を実際にできるのは、風速12~25㍍という強風時だけだが、そうした風はめったに吹かない。そして風車は風速25㍍以上になると自動停止する。太陽光も、夜間とくもりや雨の日は発電できない。

 

 だから、風力や太陽光の電気を電力系統に入れるには、火力発電をバックアップ用として、常に低出力で蒸気を沸かして待機させておかなくてはならない。もし風力や太陽光が電力系統の誤差の範囲をこえる発電をしたら、電力会社は電力系統からその発電機を切り離す「解列」という処置をする。風力の多い北海道電力や東北電力では、とくに真冬に何度か解列をしている。

 

 アメリカのエネルギーコンサルタント会社、ベンテック社の調査によると、風力発電の出力変動にあわせて火力発電所の出力を調整した場合の方が、火力発電だけの場合よりもCO2排出量が増えた。急停止や急発進をくり返すと車の燃費が悪くなるのと同じ原理だ。

 

 風力の先進地といわれるヨーロッパでは、全域で周波数が50ヘルツで、ポルトガルからロシアまで送電線がつながっているので、電力系統の規模がものすごく大きく、したがって誤差の範囲も大きい。たとえばデンマークは、国内の電力の約50%を自国の風力発電約3000基でまかなっていると発表しているが、実際は同量の電気を周辺諸国から輸入し、風力の電気は大きな送電網の誤差の範囲に雲散霧消させている。周辺諸国からは「デンマークは本当に必要な電気は輸入して、我が国のCO2排出量を増やしただけだ」といわれている。

 

再エネ100%のトリック ベースは火力発電

 

 政府が旗を振る「カーボンゼロ」というのも、その実態を見てみると驚くことが多い。

 

 『日本経済新聞』が2日付夕刊1面トップで、「2050年までのカーボンゼロを宣言する自治体が急増している」「3月上旬には300をこえた」と報道した。だが、実態はどういうものか。

 

 そのなかで先進例としてあがっているのが横浜市のとりくみだ。横浜市は「ゼロカーボン・ヨコハマ」を掲げ、東北の13市町村と「再生可能エネルギーに関する連携協定」を結んだ。そして、とりくみの第一弾として、青森県横浜町のよこはま風力発電所(2300㌔㍗×14基。日立サステナブルエナジーが76%を出資)の電気を買い、市内6企業で使うと発表した。よこはま風力発電はFITで東北電力に売電しているが、その電気を「特定卸供給契約」を結んだ小売業者が仲介して横浜市に届けるという。将来的には横浜市の年間消費電力約160億kwhをすべて東北の再エネでまかなうという。

 

 だが、ここで疑問なのは、東北の再エネで発電した電気は横浜市まで送電線を使って送るしかなく、そうすれば火力や水力、原子力の電気と混じってしまい、区別することができないことだ。ただ、仲介業者が紙の上で「産地証明」をするだけだ。横浜市のCO2排出量は変わらず、東北で再エネを増やす後押しをする効果しか期待できない。

 

 武田恵世氏は「再生可能エネルギー100%の現実」として、次のような内容を発信している。太陽光発電で再エネ100%を実現した大学(千葉商科大学など)があるというので、それはいいな、晴れの日の午前10時から午後3時くらいしか講義がないのか? と思ったら、そうではなくて、普通の電気を普通に使っていて(つまりほとんどが火力発電の電気)、屋根や空き地に並べてある太陽光パネルの発電量と差し引きするとほぼ相殺できるというだけのことだった。太陽光と風力で再エネ100%の工場、企業というのも同じで、晴れの日の昼間か風の強い時間帯しか仕事をしないのか? と思ったら、やはり、主に火力発電の電気を使っていて、売電量と消費量でトントンというだけのことだった。つまり、相殺して再エネだけを使ったことにする数字のトリックにすぎない。お天気次第の電気だけで再エネ100%は無理だ。地熱発電や中小水力発電なら、天候に左右されずに電気を安定供給できる。

 

 また『日経』は、カーボンゼロを宣言する自治体のもう一つの先進例として長野県をとりあげ、「再エネの生産量を3倍以上にする工程表を策定した」と紹介している。だが地元の住民に聞くと、県は各家庭の屋根に太陽光パネルを設置することや、河川や農業用水を使う小水力の導入は奨励しているが、メガソーラーに対しては逆に規制を強化しているという。

 

 長野県は2016年、太陽光発電を環境アセスの対象にする改正環境影響評価条例を全国で初めて制定した(それまで太陽光はアセスの対象ではなかった)。また昨年4月、太陽光発電の林地開発について、「原則、尾根の森林は残す」と規制を強化した。それも県内住民のメガソーラー反対運動が大きく広がったからで、昨年6月にはループ社(東京)が同県諏訪市四賀の霧ヶ峰高原に計画していたメガソーラー事業(太陽光パネル31万枚を敷き詰める全国最大規模の計画)からの撤退を表明している。

 

原発に依存させる構図 進む大規模自然破壊

 

 最近、自動車を1台生産するさいのCO2排出量を調べたら、電気自動車の方がガソリン車の2倍以上も多かったというニュースが話題を呼んだ。再エネというけれど、CO2を排出する化石燃料を大量に使わなければ、つくることも稼働させることもできないのが実際だ。

 

 アメリカの映画監督マイケル・ムーアが総指揮した映画『プラネット・オブ・ザ・ヒューマンズ』が、この問題をとり扱っている。ミシガン州で稼働している高さ150㍍の巨大風車は、タワーの部分に大量のコンクリートと銅が、巨大なブレード(羽根)にはグラスファイバーとバルサ(木材)が使われており、製造する過程では大量の化石燃料が燃やされ膨大なCO2が出る。そしてこの巨大な機械がわずか20年でお払い箱になり、金属の残骸の山となる。太陽光にしても、ソーラーパネルの主成分はシリコンだが、そのためには高純度の石英が必要だ。鉱石から石英をとり出すためには、石炭を使って大型の電気オーブンで1800度まで熱しなければならず、ここでも膨大なCO2が出る。

 

 また、「排気ガスを出さない」と宣伝される電気自動車は、バッテリーとしてリチウム電池を搭載している。そしてリチウム電池をつくるには、リチウム、コバルト、ニッケルという三つの希少金属が必要だ。そのうちコバルトはアフリカの中央部のコンゴ盆地に偏在しており、しかも森林地帯の地下にある地下資源であるため、欧米の多国籍企業や中国の企業が森林を根こそぎ伐採して掘り起こしている。

 

 ニッケルは、同じ熱帯のフィリピンやインドネシア、ニューカレドニアの森林を破壊して調達している。フィリピン・バラワン島のニッケル鉱山開発現場では、鉱山が水質汚染防止対策を怠っていたため、汚泥が川に流れ込んで汚染を広げ、皮膚病で苦しんでいる子どもたちがいる。インドネシアのスラウェシ島では、鉱山の汚染水が水田も海も汚染し、沿岸漁民のナマコ漁や魚、海藻の養殖が壊滅的な打撃を受けている。また、鉱山開発のための森林の皆伐によって、洪水や鉄砲水、崖崩れが多発している。

 

 バイオマスはどうか?東南アジアの森林破壊の最大の原因といわれるのがアブラヤシのプランテーション(単一栽培)農場の開発で、そこで生産されるパームオイルの世界第8位の輸入国が日本だ。パームオイルはポテトチップスなどのスナック菓子、フライドチキンやドーナツの揚げ油、その他洗剤やシャンプーにも使われ、スーパーやコンビニに並ぶ商品の約半数に含まれているといわれる。

 

 そしてバイオマス発電は、このパームオイルを大量に使う。バイオマス発電は、間伐などで山に放置されている未利用材を有効活用する地産地消の電力だとされ、FITで高い買取価格が設定されている。しかしそれだけでは火力が弱いため、大量の木質ペレットとパームオイルを輸入して燃焼に使っている。2019年で見ると、日本は木質ペレットをカナダやベトナムなどから約161万㌧、パームオイルをインドネシアから約128万㌧、マレーシアから約36万㌧輸入している。

 

 こうして再エネをつくればつくるほど、アフリカの熱帯林や、アジアやアマゾンの森林を破壊し、自然の生態系を破壊し、そこで暮らす人々を生きていけなくするという本末転倒の事態が起こっている。それは国内でも同じだ。

 

 太陽光発電について見ると、林地開発許可を受けた全国のメガソーラーの7%で土砂流出が起きている。宮城県丸森町では2019年の台風19号で、森林を伐採して丸裸にする皆伐の跡地から土砂崩落が次々に起こり、11人の死者・行方不明者を出した。そのなかに町外の事業者がメガソーラーを計画し、森林伐採後に逃げていった場所があった。

 

 風力発電についても、北海道小樽余市風力発電事業は、尾根沿いに山を削って風車を建てるものだが、計画地の九割が国有林内で、水源涵養林に指定され、土石流危険渓流にも指定されている。ところが2016年に建築基準法が改定され、再エネは「建築物」でなく「工作物」となって規制が緩くなり、以前なら北海道が規制をかけることができていたのに、それができなくなった。

 

 結局、菅政府の「カーボンゼロ」のかけ声のもと、CO2は減らず(逆に増える)、風力や太陽光、バイオマス発電所だけは全国各地に増え、再エネ事業者はもうかり、「再エネ賦課金」という国民負担はますます重くなるうえ、国民は風力の低周波音による健康被害や再エネ建設による土砂災害の危険にさらされることになる。再エネは原発の代替にならないし、それどころか政府のエネルギー基本計画は原発再稼働を前提にしていることも明らかになっている。全国各地の住民が横につながって、再エネビジネスにストップをかける運動を強めることが切望されている。

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