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PCR検査 世界158位の検査数が示す体たらく 総力上げた体制整備が急務

東京医師会は怒りの記者会見

 

 世界の新型コロナウイルスの感染者数が1700万人をこえ、死者は67万人にせまろうとしている。日本国内でも5月25日の緊急事態宣言解除後、しばらく落ち着いてきたかのように見えたが、7月に入って感染者数が増加しており、7月29日には1000人をこえる新規感染が確認されるなど、過去最高を更新し続けている。GoToキャンペーンをはじめ経済活動の再開に力が注がれる一方で、PCR検査体制は世界的に見て低水準のまま整備されておらず、実態が把握できず感染拡大に歯止めがかかっていない。専門家や医師らは的確な対策をおこなうためにPCR検査を拡大し、現状を把握することの緊急性を訴えている。

 

 日本国内では7月29日、1260人の感染者が確認され、1日の感染者数が初めて1000人をこえた。愛知167人、岐阜30人、京都41人、大阪221人、福岡101人、沖縄44人と、それぞれ過去最多を更新。そのほか埼玉53人、千葉49人、神奈川70人、兵庫46人、熊本21人など、全国各地で増加し、これまで感染者の報告がなかった岩手県でも陽性者が確認された。日本国内の陽性者数は累計で3万3508人(30日)、死亡者数も1006人(同)となった。28日時点で全国で7063人が入院・療養している。クラスターとは違い、東京都内など都市部のある地域にエピセンター(感染源)が形成されている可能性も指摘されており、予断を許さない状況だ。

 

 もっとも感染が拡大している東京都内の医療現場からは医療現場のひっ迫状況や、これまで踏ん張ってきた医療従事者が持ちこたえられなくなっている状況なども発信されている。しかし、依然として政府の動きは遅く、PCR検査人数は累計で65万7520件、100万人当りで見た検査数は世界195の国・地域のなかで158番目と低水準のままだ。感染状況が把握できない状態で移動制限が解除され、連休期間中などで人の往来が活発化し、感染が拡大している。このまま感染が拡大すれば、中小企業の倒産・廃業も急増することが危惧されており、こうした面からも検査体制の拡充を要望する声が出されている。

 

 30日、東京都医師会は記者会見を開き、新型コロナウイルス感染症への今後の対応について、同医師会のとりくみと国への提言をすると同時に、「このままでは日本全体が感染の火だるまに陥る。今が感染拡大を抑えるための最後のチャンスだ」と危機感を示し、「コロナウイルスに夏休みはない。一刻も早く国会を開き、国ができること、しなければいけないことを国民に示し、国民・都民を安心させてほしい」「これは政治の役割である。国がどういう感染症に立ち向かうのか、日本としての姿勢をはっきりさせてほしい」と国会議員に向けて訴えた。

 

 東京都医師会が提言したのは、①エピセンターに対する施策、②PCR検査の拡充、③コロナ専門病院の設立、④都民へのメリハリある自粛のお願い、⑤介護分野におけるとりくみの5点だ。

 

補償つきの休業要請を

 

 尾崎会長は、7月17日の参院閉会中審査で東大先端科学技術研究センターの児玉龍彦名誉教授が明らかにした「エピセンター化」への対策が必要であることを強調した。4月から歌舞伎町のキャバクラでクラスターが起こるなどしてきたが、協力金50万円で「お願い」するやり方では限界があると指摘。収束に向かわせるためには、無症状者を含めた感染者の積極的な隔離、各地に形成されつつあるエピセンターの徹底的な制圧が必要であり、そのためには都道府県任せの休業要請ではなく、法改正をおこない、補償つきの休業要請を限定地域で期間(14日間程度)を定めておこなう体制を整えること、その地域で民間検査機関や大学、研究機関などにも協力要請をして短期間に多くのPCR検査を展開し、感染状況を把握して対策を練ることが必要だと指摘した。

 

 具体的に、都内の場合では人口1万人当り1カ所(中学校区に匹敵)の計1400カ所、歩いて行ける範囲に検査所を設置し、必要な人がPCR検査を受けられるようにする。現行の保健所中心のPCR検査では限界があり、濃厚接触者の検査や、経済活動を再開するうえで必要なPCR検査にも対応できるよう民間企業や大学、研究機関などを活用して、迅速に多くの検査をおこなう体制整備が不可欠だとした。

 

 都医師会では迅速PCR検査チームを創設しており、エピセンター化している地域やクラスターが発生した場所など、集団感染があった場合、PCRカーを派遣し、迅速に集中的に検査をおこなうモバイルチームを結成している。要請があれば現地に向かい、1台で1日200~300人の検査をおこなうことができるという。一つの問題として、検査場所を確保するさいに、近隣住民の理解が得られない場合があることをあげ、離れた場所にいる人にうつることはないため、都民に理解を呼びかけた。

 

 また、都内に250病院ある二次救急病院にPCR検査分析装置を置くことを進めていることを明らかにした。発熱患者が来院したさい、陽性・陰性の判明までに1日かかり、その間に個室で受け入れざるを得ないことが二次救急医療ひっ迫の原因にもなっているとし、ここにPCR検査分析装置を設置すれば、24時間体制で2、3時間で結果がわかり、陽性の場合は陽性患者として診療することができると訴えた。

 

コロナ専門病院の設置

 

 さらに医療体制としてコロナ専門病院の設置を提言している。新規の陽性患者が200~300人と日々増加するなかで、都庁で入院先を調整するには時間がかかり、限界がある実態を明らかにし、「専門病院が軽症・中等症・重症の判断をすることが都内の病院にとって非常にプラスになる」とした。また、現在114病院で分散型に見ていることが「病院に行くとコロナ患者がいて危険」という受診抑制にもつながっていると指摘し、1週間に1000人の入院患者が出ている現状から、3000床規模のコロナ専門病院を設置する必要性を訴えた。

 

 また、介護分野におけるとりくみについて、「介護崩壊は医療崩壊につながる」と警鐘を鳴らし、態勢整備を訴えている。

 

 総感染者数に占める介護施設における新型コロナ感染者数は、イギリスで36・7%、フランス50・9%、スペインで66・5%、ドイツ37・6%、スウェーデン40・6%となっている。コロナ対策で評判のいい韓国でも34%だが、日本は14・2%、介護施設死者数は0・01%に満たない。これは、介護現場が早期に面会制限、行事制限をおこない、緊張感をもってあたった結果だと指摘した。しかしながら、全国約5カ所の老健でクラスターが発生し、50人以上が死亡している。富山県の場合、4月17日に陽性者の一例目が発生したが、担当する市民病院もクラスターが発生しており、ただちに入院できなかったことが施設内での感染を広げた。札幌市のケースも同様で、職員に感染者や濃厚接触者が出たことで、普段からギリギリの職員体制が、さらに少人数で高齢者を支えることになった。

 

 こうした分析のうえで、一つ目に高齢者施設で陽性者が出た場合、即入院の原則を徹底すること、二つ目にPCR検査を徹底し、新規入所者には必ず検査を実施するとりくみをすること、三つ目は派遣する専門家チームを増やし、今後起こりうる同時多発的な高齢者施設での感染発生に備える必要性をあげた。またそのほか、感染または濃厚接触などで勤務できなくなった職員を補てんするため、応援職員を身近な地域で確保し、介護を止めない体制をつくれば安心して対応できると提言した。

 

国が全力挙げ立ち向え

 

 7月16日にあった参院予算委員会の閉会中審査で、参考人として発言した東京大学先端科学技術研究センターの児玉龍彦名誉教授も、「きわめて深刻な事態を迎えつつある東京のエピセンター化という問題に関して、全力を挙げての対応をお願いしたい」と強い危機感を示した。この場で同氏は、第一波の中国の旅行者が持ち込んだ武漢型は自然に消え、第二波の欧米からの帰国者を通じた感染拡大も緊急事態宣言を発する前に消え始めていたことを明らかにし、現在「ゲノム配列の報告を見ると、東京型・埼玉型になってきている」との見解を示した。

 

 空気感染のようになる確率は、感染者の数と感染者が排出するウイルスの数によって増加するという。エピセンター化すると、空気感染と思われる感染が広範に起こり、止まらなくなる。第一波、第二波のときに無症状者も含めた対応がおこなわれないままウイルスが残った結果、東京のなかにエピセンターが形成されたとし、「エピセンター化してしまったら、劇場も電車も危険になってしまう。これを国の総力を挙げて止めないと、ミラノ、ニューヨークの二の舞いになる」と危機感を示した。

 

 東アジアの国々が大量のPCR検査をおこなっているのは、このエピセンターの制圧のためだ。韓国は宗教団体20万人のPCR検査をおこない、シンガポールは外国人労働者30万人に、また6月に北京の食品市場で感染が発生したさいに中国は22万件のPCR検査をおこなった。同教授はこうした事例をあげ、今対策を打たなければ、「来週は大変になる。来月は目を覆うようなことになる」と警鐘を鳴らした。同教授の指摘どおり2週間が経過した現在、感染者数は急増している。

 

 東大先端研でも1ユニットで1日5000件の検査をおこなうことができる機器があり、計測を短くするキットなどもできている。検査費用もスワブで2456~5887円、唾液PCRで2160~5591円と、健康保険にもとづく測定の4分の1~5分の1でできることなど、具体的な対応も提言したうえで、「こうしたものを総力を挙げて一気に投入し、一挙に、責任者を明確にして前向きな対策をする」こと、「政治が意志を持ってやれば感染を抑えることができる」ことを訴えた。医療費は受益者に支払うのが原則だが、現在起こっているのは社会全体の安心安全の対策であり、予備費なども含め投入することの必要性をとき、「国会をただちに開き、今週投入することが1カ月後の100倍の価値がある」と訴えた。

 

 児玉名誉教授をはじめ、医療界や感染症専門家などのあいだで検査拡大を求める声があいついでいる。感染集積地と非感染集積地を明確にわけ、感染の度合いによってガイドラインを変更するといった対応が必要であり、全国一斉休校や全国一律のステイホームは誤りであるという指摘だ。感染状況にもとづかない全国一斉の自粛は経済的な打撃も全国に広げている。

 

 「世界に誇れる日本のコロナ対策」などといっているあいだに、時々刻々と事態は深刻化している。このなかで7月22日にはGoToキャンペーンが開始され、感染拡大を恐れる地方自治体のなかには観光施設の閉鎖に踏み切る動きもある。感染封じ込め、経済の再開の両面から、検査の拡充をはじめ科学に基づいた対策が待ったなしとなっている。

 

世界の感染者1700万人を突破

 

 世界の新型コロナウイルス感染者は7月30日時点で約1711万人。死者は66万7000人をこえた。感染者は23日に1500万人に達し、そのわずか3日後の26日には1600万人となり、30日に1700万人と増え続けている。WHOによると、24日に新型コロナウイルスの1日当りの新規感染者数が世界全体で28万4196人となり、最多を更新した。7月に入って新規感染者が20万人をこえる日が続いている。感染者の多いアメリカ、ブラジル、インドの上位3カ国が全世界の感染者数の5割を占めている。感染上位国では、感染者が増えているだけでなく、ここへきて死者数が増えているのが特徴となっている。

 

 アメリカでは29日の死者が1461人となり、1日当りの死者数としては、1484人だった5月27日以来の高水準となった。アメリカ国内での死者数は累計では15万人を突破している。さらに、アメリカの回復率は32・9%。感染者数上位の他国と比較すると、ブラジルの69・3%、インドの64・5%、ロシアの74・8%と比べてもきわめて低い水準となっている。

 

 その結果、アメリカでは「感染している人」の数が突出している。この数は累計感染者から回復者と死者を引いたものだ。世界最多の米国は7月19日に250万人をこえ、その後も増え続けており、28日時点で300万人に達しようとしている。ブラジルは50万人台で推移し、増加傾向にあるインドは40万人を上回っている。

 

 アメリカに次いで二番目に多い感染者・死者数がいるブラジルでは、直近1週間で状況が急速に悪化している。29日、新規感染者が6万9074人と1日当りで過去最多となり、累計で250万人を突破した。また、1日の死者は1595人と、こちらもこれまでの最多を更新し、累計の死者は9万134人となっている。ブラジルでは先週1週間で7677人が新型コロナ感染によって死亡し、週間の死者数としては、過去最多を記録した。

 

 だが、これほど国内の感染状況が悪化しているにもかかわらず、同日ブラジルでは3月から禁止されていた海外からの観光客受け入れに踏み切り、国際空港を再開した。政府は、渡航期間中に健康保険を掛けていれば、すべての国から観光客が渡航できると説明しているが、この決定の理論的根拠は示していない。ボルソナロ大統領が感染防止のための経済活動制限に反対していることから、ブラジル国内では保健当局がロックダウン(都市封鎖)緩和に動いている。

 

 インドではこの数日、急速に感染が拡大している。1日当りの感染者数は23日から7日連続で4万人をこえており、とくに貧困層で深刻な蔓延を招いている。地元当局と医療機関が今月上旬、無作為に抽出した6900人以上を対象におこなった抗体検査によると、西部の都市ムンバイのスラム街で陽性率が57%にのぼり、他の地区では16%だったという研究結果が28日に明らかになった。だが、米ジョンズ・ホプキンス大学の集計によれば、インドでは人口10万人当りの死者は2・47人と、米国の45・24人、英国の68・95人と比べてはるかに少ない。

 

 ヨーロッパでは、スペイン、フランスとドイツで再び新型コロナウイルスの感染者が急増している。

 

 スペインでは、6月21日に非常事態宣言を解除し、欧州連合(EU)加盟国と、欧州域内の自由な移動を認めるシェンゲン協定の加盟国からの入国を認め、スペイン国内でも国民の自由な移動を認めた。そこから約2週間後の7月上旬から再び感染者が増えている。

 

 同国では7月18~24日の1週間だけで、新たに1万2039人が感染。ヨーロッパ各国から多くの人々が訪れるバルセロナやサラゴサ、首都マドリードで感染者が急増。前週の感染者数(6347人)から90%近く増加した。

 

 スペインは非常事態宣言を解除する前までの約3カ月間、ヨーロッパでもひときわ厳格なロックダウン(都市封鎖)を実施してきたが、解除後に人々の動きが活発化したのに比例して感染者数が急激に増えている。

 

 このため、イギリスでは、7月10日からスペイン、フランス、ドイツ、イタリア、日本など59カ国から帰国しても2週間の自己隔離を不要としていたが、26日から、再びスペインからの帰国者と渡航者を対象に2週間の自己隔離が必要となった。

 

 フランスでも18日~24日の1週間で新たに5854人が感染し、前週から50%近く増加した。ドイツでは18日~24日の1週間で新規感染者は3615人。前週の感染者2757人から30・7%以上の増加だ。

 

 オーストラリアでは感染第一波については迅速な封じ込めに成功したといわれていたが、先月ビクトリア州で感染の第二波が発生。オーストラリア国内は4日前に1日当りの死者が10人で過去最多といわれていたが、30日には過去24時間の感染者数が約750人、死者は少なくとも13人といずれも最多を更新した。ビクトリア州都のメルボルンではロックダウンが再び導入され、感染はシドニーなど他の地域にも広がりつつある。

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