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気象の凶暴化で危険が増す日本の地滑り 武蔵野学院大学特任教授・島村英紀

 しまむら・ひでき 1941年東京都生まれ。東京大学理学部卒業。北海道大学地震火山研究観測センター長、国立極地研究所所長を経て武蔵野学院大学特任教授。著書に、『「地震予知」はウソだらけ』(講談社文庫)、『人はなぜ御用学者になるのか』(花伝社)、『「地球温暖化」ってなに? 科学と政治の舞台裏』(彰国社)、『完全解説 日本の火山噴火』(秀和システム)など多数。

 

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 大地震もなく、雨も降っていないのに、いきなり地滑りが起きて住宅4棟が巻き込まれて6人が亡くなったことがある。大分・中津市耶馬渓(やばけい)町で2018年4月に起きた災害だった。崩れる前2週間の雨量はたった6ミリで、地盤が緩むほどの降雨量ではなかった。

 

 あまりにも不思議なので県が設置した有識者委員会が報告を出した。「崩落現場一帯は地下水が集まりやすい構造で、固い岩盤の上に堆積した土が長期的に地下水に触れたために風化、崩落したとみられる」との最終報告だった。つまり、もともと地滑りが危ない場所で、地滑りを起こした地下水は地表からは見えない。それゆえ予兆がなく発生の事前予測は困難だったというのが結論だった。

 

 だが、地下水はもともと天水、つまり空から降ってくる雨だ。過去の雨が、のちに悪さをしたのがこの大分の災害なのである。突然の地滑りが起きたところは、過去にたびたび大噴火した阿蘇山から60キロメートルしか離れておらず、阿蘇山からの火山灰が厚く降り積もっているところだ。

 

 同じように各地の火山からの火山灰などに覆われた地域は、九州南部に広く分布するシラス台地をはじめ、日本全国にある。たとえば、2018年9月に北海道地震(胆振〈いぶり〉東部地震)が起きた。現地の震度は七、マグニチュード(M)は6・7だった。多数の地滑りが起きて家屋や道や水田を押しつぶした。数万年前に支笏(しこつ)カルデラから出た大量の火山噴出物が崩れたのだ。

 

 地震後の航空写真を見ると、驚くほど多くの地肌が顔を出している。これらはすべて、地震前には木々で覆われていて、地肌が見えなかったところだ。地肌の上に火山灰が厚く積もっていたところで、その火山灰層が崩壊した。この地震で潰された家屋や41人の犠牲者は、火山灰の地滑りで犠牲になってしまった。

 

 活火山だけでも110もある日本には、火山噴出物が分布しているところが多い。それゆえ、あちこちで地滑りが起きる。

 

 日本史上最大の被害者数1万5000人を生んだ火山災害は、じつは山体崩壊という地滑りだった。これは1792年に雲仙岳で起きたものだ。当時、雲仙普賢岳は噴火していた。だが、この火山災害は噴火による直接の災害ではなくて、普賢岳の隣にある「眉山(まゆやま)」の山体崩壊だった。眉山は雲仙火山群に属する火山のひとつだ。

 

 地震によって起こされた地滑りが火山体である崩れやすい眉山を崩し、それが目の前の島原湾に流れ込んで大津波を起こして、対岸でも多くの被害者を生んでしまった。「島原大変肥後迷惑」といわれている。島原はいまの長崎県、肥後はいまの熊本県だ。

 

 富士山も、地震によって大規模な山体崩壊を起こしたことがある。この山体崩壊を起こしたものは富士山の噴火ではなく、地震だった。2900年前のことだ。いまの静岡・御殿場(ごてんば)市は、この土石流が平らに堆積したところに広がっている。現在の人口は約9万人だ。つまり火山やその周辺は富士山に限らず、噴火がなくても崩れるほど弱いものなのだ。

 

 ちなみに、富士山の山体崩壊は、御殿場に限らず、富士山の山腹の各方向で過去3万年間に6回起きている。富士山では近年、噴火の恐れが無視できなくなってハザードマップが作られるようになったが、しかし、山体崩壊のハザードマップはまだ作られていないし、避難計画もない。

 

 地滑りは自動車よりも速い例が報告されている。とても逃げ切れるものではない。地滑りの発生件数は全国で毎年2000件以上もある。北海道地震のように内陸直下型地震でも起きているが、雨によるものが多い。2000件の9割が豪雨や台風が発生しやすい4月末から10月末に集中している。

 

 山崩れや地滑りなどの可能性がある山地災害危険地区は全国に18万カ所以上もある。なにかあったら滑り出す地滑りの「候補地」はこれほど多い。

 

 崩れやすい火山灰地は日本中に多い。地滑りは、日本のあちこちで、これからもいつ起きても不思議ではない災害なのである。しかも、地球温暖化で「気象が凶暴化」している。そのひとつは、海水からエネルギーを得て大きくなる台風だ。かつては日本近海の海水温が低かったために、弱まってから日本に近づいたが、これからは強いままで日本を襲う可能性が強い。

 

 また、いままでにない大雨や、いままで日本では少なかった竜巻の被害も増えつつある。これらも地球温暖化の影響である。たとえば2014年夏に起きた広島市安佐南区の地滑りも、かつてないほどの豪雨が原因だった。戦後に広島市が膨張して、元は郊外だった安佐南区方面にも新たに住宅地が延びた。そこで60年以上も「無事に」暮らしていたところが、いままでにない豪雨による地滑りが起きてしまったのだ。この災害で250棟以上の家屋が全半壊、77人が死亡という被害を生んでしまった。

 

 もともと地震や火山噴火が多くて災害を受けやすい日本列島が、これからも襲って来る地震や火山噴火だけではなく、「気象の凶暴化」によって、さらに脆弱になっているのだ。

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