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市場原理で進んだ生産破壊 神戸製鋼や日産…物作り大国の信頼失墜

 神戸製鋼で長期にわたって鉄の強度データを偽る製品偽造が横行し、自動車大手の日産やスバルが新車の安全確認を無資格者に丸投げし、事実上無検査状態で出荷していたことが明るみに出ている。これまでも製造過程で予期せぬトラブルやミスが起き、大量リコールに歯止めがかからない現状が続いていた。人命にかかわる自動車や鉄鋼の製造現場で、意図的なデータ改ざんや検査手抜きが横行していることは前代未聞の事態である。日本の製造業は質の高さから「ものづくり大国日本」「技術立国日本」として世界に名を馳せてきた。その信頼を裏切って欠陥品を垂れ流し、国際競争にも競り負けていく国内製造業大手の末期的な現実が浮かび上がっている。

 

神戸製鋼下関製造所の労働者に聞く

 

データ改ざんについて会見する神戸製鋼(13日)

 神戸製鋼のデータ改ざん問題は、アルミ・銅部門から本業の鉄鋼、ついで原発部品にも波及している。生産現場では「以前から“コンプライアンス(法令)遵守”や“安全第一”は大目標として掲げられ、工場内にポスターまで掲示されていた。でも実行は現場任せで法令遵守などできないような指示が上から下りていた」と話題になっており、手抜きしなければノルマが達成できず、納期にも間に合わない体制に置かれ、ミスが出ればさらに能力給によって給与が切り下げられる状態のなかで呻吟していた。「多かれ少なかれどの工場でも同様のデータ改ざん等がおこなわれていた」とベテラン労働者は指摘している。

 

 神鋼の関係者は「世界的な競争が激しくなるなかで神鋼は短納期を売りにしてきた。現場はノルマとコスト削減に追い立てられ品質維持も難しいのが実際だ」と話す。ノルマは取引先の納期で変化するが、おおむね機械が目一杯動き続けて生産できる限界数量に設定される。途中でミスが出ると納期の遅れに直結するため、機械を止めれば叱責される。始末書を書いたり、給与カットとなることもある。なにも考えず「とにかく出荷に間に合うように仕事を流す」現場になってしまったと明かす。ミスによる遅れをとり戻そうと残業すれば、それも降格要因になり、給与カットにつながる。昨年発覚したJIS規格の試験結果書き換え事件も、こうした異常な職場環境と無関係ではないと話題になっている。

 

 本工の削減と現場作業の下請化も進行した。ある工場では80年代頃まで本工約600人で動かしていたが、現在は出向や配転が進み本工が約360人、下請約250人と労働者の約4割が下請になっている。品質を保証するために重要な鋼材の破壊試験まで9割を下請が担当するようになった。下関では長府製造所の作業員を派遣会社が募集することも多く「下請が作業を請負い、現場作業には派遣社員が入っているのではないか」との危惧も強まっている。

 

 そして毎年コストダウン計画が押しつけられ、各生産部門で数百万円単位のコストダウンが求められる。一昔前の「コストダウン」は設備投資で生産性を上げる内容だったが、近年は設備投資をせずにコストダウンだけ現場に求めるため「どこかで手抜きするしかない」のが現実だ。コストダウン計画のたびに生産工程の「手抜き」が増え続けていったと語られている。2000年代には上からのコスト削減計画に加え、生産現場にもコスト削減計画の提出を求めるようになった。当時を知る関係者は「コストを削りようのない検査部門などでは、切断機の刃を安い会社の物にかえるくらいしか提案できない。でも安い刃にかえると切れにくくなり、まともな製品が作れなくなった」と指摘した。

 

 下関では北工場が1996(平成8)年に子会社化され、神鋼特殊鋼管(現コベルコ鋼管)となった。ここで5、6年前から重視され始めたのはグループ単位、班単位であらゆる生産工程のムダを探し出す作業だった。ところが毎回、生産工程にかかった時間や生産量を記録する作業、それを報告書にまとめる作業に時間を割かれる。毎月の月末に班長クラスは徹夜で報告書をまとめる状態だった。「ムダをなくす」といって増えたのは「ムダな作業」で、目前の自部署の「効率化」ばかりに関心が奪われ、他部署との連携が断ち切られる効果にもなった。

 

 神鋼は国内鉄鋼3位で1位の新日鉄住金、2位のJFEより生産量が少ないなかで、新製品の開発を重視してきた。だが高度な技術と知識をもった熟練工が退職して新人ばかりになり、製品に見合った工程を組み立てることができず、不良品は増加傾向にある。健康診断で高血圧など肉体疲労の疾患は減少したが、うつ病など精神疾患が増加してきたことも話題になっている。神鋼関係者は「若い社員は三交代で朝から晩まで働いても手取りは20万円もいかない。ネクタイを締めた上層部が報酬をたくさんとり、内部留保だけ増えていることをみれば、末端社員が不正を告発したくなるのは当然だ」と指摘していた。

 

ルノー傘下で解体が進んだ日産

 

無資格検査が発覚した日産自動車九州

 日産は出荷前の最終チェックである完成車検査を無資格者に担当させていたことが国土交通省の立ち入り調査で発覚した。無資格検査は追浜(神奈川県横須賀市)、栃木(栃木県上三川町)、日産自動車九州(福岡県苅田町)など全工場に及んだ。民間車検工場の完成車検査は約6~7年の経験を積んだ検査主任免許取得者が厳格な最終検査をおこなうが、日産はここに無資格で整備経験もほとんどない3カ月雇用の非正規社員を配置し、別人の名前を書類に記入させ「チェック済みの完成車」として出荷していた。

 

 問題発覚を受けて、日産は国土交通省に「ノート」や「セレナ」など計38車種約116万台以上のリコール(自主回収)を届け出た。約2週間の工場出荷を停止し、大量の未検査車を再点検するためだ。しかし検査員をすぐ増やすことなどできない。生産ラインがストップする期間、期間工や派遣労働者が自宅待機に追い込まれ、部品を供給する下請も仕事がない状態に直面している。

 

 日産は「コストカッター」の異名をとるカルロス・ゴーン(ルノー)が乗り込み、外資主導で日本型経営を徹底的に破壊した「リバイバルプラン」(2000年)実行以後、様変わりした経緯がある。ゴーンはまず座間工場など主力5工場を閉鎖し労働者の2万人削減を強行した。経験豊富な熟練工を「給与が高すぎる」といって切り捨て、人件費の安い海外に生産拠点を移していった。

 

 長年取引し続けていた部品供給メーカーも、価格引き下げに応じなければ切り捨て、下請も含め協力して技術開発に当たっていた関係を破壊した。閉鎖せずに残った国内工場は分社化して下請化した。日産自動車九州工場は下請の日産自動車九州となり、給与が大幅に減ることとなった。そして自動車生産ラインに増えたのは派遣労働者や期間工、外国人労働者だった。

 

 さらに同じラインに複数の派遣会社の社員を配置し成績を競わせた。成績が他社より劣れば受け入れ停止となるため、同じ職場で協力しあって製品をつくる風土が崩れたという。外国人労働者が増え、意思疎通が困難になったこともミスや事故の増加に拍車をかけた。一つ一つ確かな製品を作ることができなくなり、欠陥品も含めて大量に生産した後、最後の点検で欠陥品をはねる状態で、すでに生産現場の劣化は進行していた。そのなかで海外から逆輸入される粗悪部品を作り直してラインに供給し、製造ラインを通った欠陥品もチェックし、粗悪品の流出を食い止めてきたのは熟練工だった。だがその熟練工もここ数年で大量に退職した。最後の砦であった検査体制まで崩壊に立ち至るなか、生産現場の危惧が極点に達し、無資格検査摘発の動きになっている。

 

 この事情はトヨタも似ている。トヨタは2003~2006年に「中国コストに勝つ」と称して「総原価30%のコストダウン」を実施し、その後は「非常識への挑戦」と叫んでコスト削減に駆り立てた。そして国内の新モデル開発に平均約18・9カ月かけていたのを、06年に12カ月間に短縮した。新車製造は企画、設計ののち試作車を何台も作って不備を解決して量産するが、試作車費用を削るため「試作車レス」を実行した。パソコン上で安全確認するだけで量産するため、設計ミスのリコールが急増した。トヨタ車のリコールは2001年段階は4万6000台(6件)だった。それが05年には193万台(11件)に増え、16年度は520万台(20件)になった。トヨタのリコール台数は15年で113倍に達している。

 

産業資本の劣化と金融への傾斜

 

 もともと日本は資源が少ないという事情も作用し、鉄鋼石などの原料を輸入して加工技術が発展した。高い技術力、とりわけコンピューターに真似のできない優秀な人材と世代をこえたチームワークを強みにして、「技術立国日本」「ものづくり大国」として世界市場を牽引していた。だが近年、日本の強みである人材や技術をみずから破壊し、株式や投機での利潤追求に傾斜した結果、鉄鋼も自動車も家電メーカーも軒並み凋落の一途をたどっている。

 

 鉄鋼業界を見ると世界第1位の鉄鋼メーカーは、アルセロール・ミタル(ルクセンブルク)で粗鋼生産量は9809万㌧(2016年)である。2位が新日鉄住金で4930万㌧だがアルセロール・ミタルとは大きな差がある。3位以下の生産量は新日鉄とほぼ同じで河鋼集団(中国)、宝鋼集団(中国)などトップ10社のうち6社を中国勢が占めている。その特徴は鉄鉱石や石炭など原材料を産出する中国が鉄鋼生産量を急速に伸ばしていることだ。合併を繰り返して生産量を維持する日本の鉄鋼メーカーにかわって新興国の鉄鋼メーカーがメインプレーヤーとして台頭している。

 

 自動車メーカーもずっと販売台数世界1を維持してきたトヨタ自動車が昨年、2位に陥落した。トップに躍り出たのはフォルクス・ワーゲン・グループだった。自動車業界も電気自動車(EV)開発で日本勢は遅れをとっている。すでにフランスやイギリスは、2040年にガソリン車やディーゼル車の販売を禁じる方針をうち出している。大市場の中国も追随する方向だ。このなかで電池メーカーからEVメーカーに変わった中国のBYDが急成長し、EVのテスラ(アメリカ)が時価総額でゼネラルモーターズ(GM)を抜くなど、自動車業界の再編が過熱している。だがEVの業界リーダーを自任してきた日産は無資格検査問題で明らかなようにまともな製品を作る体制すら整っていない。トヨタも独自開発する力が弱体化し、フォード傘下のマツダと提携して活路を模索する事態となっている。

 

 もっとも深刻なのは電機メーカーである。シャープが台湾企業に身売りし、東芝も米ウエスチングハウスに押しつけられたアメリカの原子力事業の失敗で大赤字を出して破綻した。かつて半導体部門で世界トップ3を独占していた日本企業が後退を続けている。半導体メーカーの世界売上高を見ると、1986年は1位=NEC、2位=東芝、3位=日立、7位=富士通、9位=松下電器、10位=三菱電機と世界の10大企業に6社が名を連ねていた。だが2016年の順位を見ると1位=インテル、2位=サムスン電子、3位=クアルコム(米)、4位=ブロードコム(米)、5位=SKハイニクス(韓国)で、日本企業は東芝が8位で入っただけだ。スマートフォンの薄型化・軽量化を実現する有機ELの技術も韓国のサムスンディスプレイとLGディスプレイの二強から大きくとり残されている。日本側の日立、ソニー、東芝の3社によるJDI(ジャパンディスプレイ)は「周回遅れの開発」と揶揄されるほどになっている。

 

 世界市場で競り負けていることもさることながら、日本の製造業の劣化はなぜここまで進行したのか。その要因の一つに米ソ二極構造以後の国や財界あげた経済戦略、労働法改悪などが絡んでいる。米ソ二極構造が崩壊する以前、財界や大企業は「長期的視野に立った経営」「人間中心の経営」を建前にしてきた。公益に基づいて手厚い社会保障のある社会主義国が世界に複数存在し、アメリカなどの資本主義国と対峙していたからである。日本では終身雇用制と年功序列型賃金制度を維持し、巨額な利益のなかから微微たる額だが賃上げも実施していた。

 

 ところが91年にソ連が解体し米ソ二極構造が崩壊すると終身雇用制、年功序列賃金の解体に着手し、営利優先・市場原理の本性をむき出しにした。中国やロシアが市場経済になだれ込み、グローバル経済の競争は激化した。

 

 このなかで労働者のたたかいで勝ちとられた労働基準法による規制をみなとり払った。「国際競争力に打ち勝つ」といって過労死を防ぐための安全衛生基準をなし崩しにし、女子の深夜労働を禁じた女子保護法撤廃などを強行した。国内労働力保護のために規制されてきた外国人労働を無制限に拡大した。戦後一貫して禁じてきた「ピンハネ稼業」の派遣労働を製造業にも解禁し、大企業のみ利益を得ていく、あからさまな搾取を強行した。

 

 しかし大企業は巨利を手にし内部留保を積み上げたが、国民は貧困化し、消費や売上は落ち込む一方だった。少子高齢化も進み内需が縮小するなか、現実社会で投資先を失う事態となった。このなかで財界が編み出したのは、内部留保で有価証券を購入し、財テク(財務テクノロジー)で利益を上げることだった。財テクは企業が本業以外に株式・債券・土地・不動産・外国為替取引などに投資し資金運用を多様化してもうける方法だった。株高や為替政策によって大企業の帳尻が黒字に傾いたり、あるいは赤字になったりするのも今日的な特徴だ。

 

 そうした金融依存体質は、リーマンショックのように歯車が狂うと脆く破綻する。そして一層の混乱を実体経済にもたらすのだった。08年のサブプライム危機から続く今日の金融危機は、80年代からアメリカが主導してきた新自由主義・グローバル化がすっかり破綻したことを如実に暴露している。その内実は金融詐欺師を中心とする強欲な大資本が、一切の社会的な規制をとり払って、好き勝手に利潤追求をくり広げる自由を得て、世界中の働く者を人間生活ができない奴隷状態におくものでしかない。その結果、産業資本の上に金融資本が君臨し、利潤は人に役立つ製品を作り出し、それを販売して得るというよりも、証券投資や株投機で荒稼ぎしていく構造ができあがった。

 

 こうして「社会のため」にある労働の有用性や役割を否定して、ひたすら私的な利潤を追い求める市場原理が野放しになったために、労働だけでなく医療や福祉、学問、国政にいたるまでが強欲資本のもとに私物化され、製造現場においては、適正強度のない製品のデータを偽造して何十年も出荷しつづけたり、欠陥品が出るのをわかっていて最終チェックの検査を無資格者に任せるなどといった本末転倒が横行している。リコールや偽造品が最終的には経営に跳ね返り、信頼が失墜することはわかりきっているのに、目先の効率経営のために製造現場を劣化させる。これは自滅でもある。日本の製造大手に失望し、あるいは引き抜きによって韓国や中国の新興企業に技術者が移っていくケースも増えている。

 

 「後は野となれ」で社会を劣化・崩壊させていく市場原理の構造にメスを入れ、全社会で市場原理に対置する生産原理を回復することがまったなしの課題になっている。

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