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『スノーデン 監視大国日本を語る』 自由人権協会監修

 元CIA職員エドワード・スノーデン氏が2013年、アメリカのNSA(国家安全保障局)が一般市民も含め世界中の人人の個人情報を大量に無差別に収集しているという事実を暴露したことは、世界に衝撃を与えた。その後、機密文書を託されたメディアが少しずつその内容を公開している。昨年4月には日本に関する機密文書の一部が明らかにされ、大量監視システム・XKEYSCORE(エックスキースコア)を米国政府が日本政府に秘密裏に提供していた事実が暴露された。本書は、この日本に関する部分をテーマに昨年10月、東京・一橋講堂で開かれたシンポジウムをもとに、スノーデン氏ら6人のジャーナリストや弁護士の発言をまとめたものである。

 

 日本に関する機密文書は次の事実を明らかにした。

 

 NSAが日本の諜報活動を支援するために、スパイのグーグルと呼ばれる大量監視システム・XKEYSCOREを日本に提供した。NSAの日本側パートナーは防衛省情報本部電波部で、傍受施設は全国に6カ所ある。ここで得た情報はアメリカと共有される(つまり日本政府が秘密裏にアメリカの諜報機関を支援しているということ)。

 

 米軍横田基地に通信機器を製造する新たな工場が建設されたが、その建設費のほとんどと年間を通しての人件費は思いやり予算から支出された。その費用によって製造された通信機器は、米軍によるアルカイダ攻撃を支えた。

 

 その後、この事実を追及された官房長官の菅義偉は、イエスともノーとも答えず、「文書は信憑性に欠ける」といって質問の矛先をかわそうとした。文書の流出先である米国政府ですら文書がニセ物だとはいっていないのに、日本政府は同盟国が快く思わないとか、文書が本物かわからないので検討できないといって、いまだに存在を否定し続ける主権放棄の姿勢に終始している。また、これを最後まで追及するメディアはない。

 

 スノーデン氏はシンポジウムでのインタビューに答えて、関連して次の事実を指摘している。

 

 この大量監視システムの目的は、ネット上にある限りのあらゆる人のあらゆる情報を手に入れることだ。従来、盗聴のためには盗聴器を電話回線に設置しなければならず、メールを取得するためにはYahoo!などのプロバイダーに出向いて許可を得ねばならなかったが、そうする必要がなくなった。

 

 安倍政府が強力に進めた特定秘密保護法や共謀罪法は、このシステムの運用のためのものだ。秘密保護法の厳罰化は、大量監視の共謀に日本政府が参加し、より大きな役割を担うための条件として、米国政府が要求した。米国政府は日本の法律を米国内法にあわせるよう要求している。

 

 アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドで構成するファイブ・アイズ(英語を話し、白人系が多数を占め、同じ伝統文化を持つ国国)は、インテリジェンス(諜報活動)で完全に対等なパートナーだ。日本はファイブ・アイズの一員ではない。サード・パーティーと呼ばれるその他の国のグループだ。日本の自衛隊や諜報機関は米国が要求することは何でもするが、米国にとって日本はそれほど緊密ではなく、信頼にも値しないと考えられている。

 

 NSAは日本のダムや発電所などインフラのコンピューターをハッキングし、マルウェア・ソフトを埋め込み、事実上日本のインフラを人質にしている。もし日本が日米同盟に反することをすれば、米国はマルウェアを作動させてコントロール機能を奪い、日本にダメージを与えようとしている。これは本当のことだ。

 

国民が事実を知ること恐れ

 

 安倍政府は秘密保護法や共謀罪法を2020年の東京五輪に向けた「テロ対策」「安全保障」だという。しかし、以上の事実を客観的に見てみれば、個人のプライバシー保護か、それとも国の安全保障かの対立ではない。戦後、米国の属国になってきた日本が、いまや国民のあらゆる情報を米国に差し出すとともに、日本が対中国やロシアのサイバー戦争の最前線基地として組み込まれ、知らないうちに敵対している国からの攻撃対象になるという性質の問題である。加えて米国に逆らえばインフラにダメージを与えるという脅しであり、それは国民の生命や財産を守るという独立国としての統治機能を奪うことにほかならない。

 

 スノーデン氏は「重要で啓示的なことは、必要がないとの理由で国民に事実が知らされていないということです」とのべている。つまり、それほど国民が真実を知ることを恐れているのである。米国ではスノーデン氏の暴露をへて、NSAの監視活動への批判世論が高まり、NSAの情報収集権限を制限する法律が議会で可決されている。日本でも国民の表現の自由や思想信条の自由を奪い、破滅的な戦争に導くような為政者の政治に対しては、真実を知らせ、圧倒的な国民世論と行動でこれを打ち破るほかないことを教えている。
 (集英社新書、196ページ、定価800円+税

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