いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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『コンビニ外国人』 著・芹澤健介

 コンビニで外国人がスタッフとして働いている姿があたりまえのようになった。全国のコンビニで働く外国人は大手3社だけで昨年、4万人をこえた。その多くが多額の借金を背負って来日した留学生である。ライターで編集者でもある著者は、各地のコンビニで働く外国人を取材するなかで、彼らが背負う矛盾に迫っている。

 

 アジアなどから日本にやってくる私費留学生は、まず法務省に正式認可を受けた日本語教育機関である日本語学校に籍を置く。交換留学などでいきなり大学に入る場合は別にして、そもそも日本語学校が入学許可を出さなければ、外国人の留学希望者は「留学」という在留資格を得ることができない。

 

 そして「留学ビザ」で入国するために、彼らは1年目の学費やあっせん業者への手数料などあわせて100万円をこえる大金を払わなければならない。富裕層ならいざ知らず、平均月収が2万~3万円というベトナムなどで20代の若者が100万円を作ろうと思えば借金をするしかない。「日本に行けば日本語学校の寮に住んで、勉強しながら月に20万円稼げる」といったブローカーの甘言に乗せられて、田畑を担保に銀行から金を借りて留学資金にする学生も少なくない。

 

 しかし出入国管理法では、アルバイトは「原則的に週に28時間まで」と決められており、それに従っていれば時給1000円としても月に10万円も稼げない。だが、2年目の学費が払えないと、あるいは専門学校や大学に進学できないと、留学ビザでの滞在資格はなくなる。となると、借金を背負ったまま帰国するか、強制送還を覚悟でオーバーワークするか、最後の手段として失踪するかしかない。

 

 こうした留学生を相手にする日本語学校が全国に643校ある。しかも2017年だけで80校、この5年間で200校以上も増えた。年間授業料は60万~80万円、加えて入学金や教科書代が加算されるが、授業は午前中だけ。教員1人当りの日本語が話せない学生が100人をこす(法務省の規定は40人以下)学校もあるうえ、600校の半数がこの数値調査に協力していない。最近は不動産業者や人材派遣会社という異業種からの参入が増えている。留学生からは高い学費をとり、日本語教師の7割は年収100万円程度の非常勤で、一部の経営者だけが甘い汁を吸うブラックなビジネスになっていると著者は指摘する。

 

 そして、この日本語学校そのものが人材派遣業化する例が増えている。

 

 2016年1月、福岡県直方市の日本語学校「JAPAN国際教育学院」の会長、理事長、副理事長が入管法違反で逮捕された。彼らはベトナム人留学生ら約180人に約50社のアルバイト先を紹介し、現場が遠い場合は学校からバスで送り、アルバイトの掛け持ちがバレないよう複数の給与振込口座を作らせていた。そしてそれぞれのバイト先で28時間をこえないように一覧表にして調整し、通帳は授業料などを確実に徴収するために学校が管理していた。

 

ブラックな人材派遣業者化 摘発も氷山の一角

 

 2017年3月、宮崎県都城市で日本語学校「豊栄インターナショナル日本語アカデミー」と高齢者介護施設「豊の里」を経営する経営者5人が、留学生を強制労働させた疑いで逮捕された。彼らは学費が後払いで留学できると宣伝して学生を集め、インドネシア人の学生たちとあらかじめ留学と労働が一体となった契約を結んだうえで、介護施設の賃金から入学金や授業料を天引きしていた。留学生の手取りはわずか月1万4000円程度。マイナンバー通知カードも預かって、バイト先を変える自由も奪っていた。留学生とは名ばかりの奴隷労働である。

 

 著者はまた、留学生を送り出す国には書類を偽造する“偽造屋”がいるだけでなく、現地の留学センターや日本語学校がその片棒を担いでいることが多いと指摘する。たとえばネパールでは、今国全体が日本語ブームのようになり、日本語学校が至る所に建って、「日本に行けば人生が変えられる」「成績が悪くてもノープロブレム(問題ない)」と宣伝している。そして公務員の月収が3万円のこの国で、ブローカーが留学希望者1人当り20万円の仲介手数料をとって日本に送り出していた。

 

 問題は、このような問題の多い「留学」に許可を与えているのが法務省から認可を受けた日本語学校だということであり、政府の「留学生30万人計画」という国策がこれにお墨付きを与えていることだ。昨年8月からようやく法務省が「入学者の半数以上がオーバーステイ、もしくは失踪したとき」などに日本語学校の認可をとり消すことを決めたが、日本語学校の教育の質を一元的に管理する権限を持った機関はいまだにない。

 

 少子化による労働力不足という問題の根本的な解決を避け、外国人を当面の使い捨て労働力としてこき使い、彼らがいなければ生産も流通も回らないようにする政治は、やがてアジアや世界から見放されるとともに、日本の将来そのものを危うくする。本書のなかでネパール人経営者がいっている。「留学生を送る先として、日本はそろそろ頭打ちだ。ピークは5年前に過ぎていて、日本は東京オリンピックまでだ。その後は送り先をオーストラリアや韓国に切り替える」、と。

 (新潮新書、223ページ、定価760円+税

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