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『魚で、まちづくり!』 著・行平真也

 各地で地元の農林水産業の振興をはかるとりくみが創意的におこなわれている。本書は、大分県の水産業普及指導員だった著者が、2013年から3年間、臼杵市の水産振興にかかわった記録である。著者は現在、山口県の大島商船高等専門学校の准教授。

 

 大分県の南東部に位置する臼杵市は、人口3万8748人(2015年)で、人口約48万人の大分市に隣接している。東に豊後水道という日本有数の好漁場と、農業が盛んな上流の栄養分が流れ込む臼杵湾の2つの漁場に恵まれているが、「関アジ・関サバ」がブランドとなった同県佐賀関と比べ知名度はあまり高くない。臼杵市の漁業経営体は141戸(県全体の6%)、海面漁業生産量は4万1590㌧(同3%)である。

 

 大分県漁協臼杵支店は新しい試みとして、2012年7月から毎週土曜日に「うすき海鮮朝市」を始めた。魚市場で競りが終わった午前7時半頃から鮮魚の販売が始まる。特色は支店女性部がその場で魚を三枚おろしなどにするサービスを無料でやっていることで、消費者に「これは刺身で、これはフライで食べるとおいしいよ」と教えるなど交流の場にもなっている。これに地元の津久見高校海洋科学校(水産高校)の生徒たちもボランティアで参加し、そこで鍛えられて「高校生魚さばきコンテスト」で日本一になる生徒が何人も出ている。

 

 2013年には県漁協臼杵支店が主体になって「海鮮食堂うすき」を魚市場の隣に新設し、とれたての魚を使った海鮮丼が好評を博した。あわせて真空包装機や干物をつくるための乾燥機も備え、加工場機能も持たせた。支店のこのとりくみが基盤となって、著者がかかわるさまざまなチャレンジが展開されることになる。

 

臼杵市特産のカマガリ(写真は本書より)

 その1つは、地元特産の魚カマガリ(クログチ)を売り出す試みである。臼杵市でドウモン縄漁(底はえ縄漁業の一種)で漁獲されるカマガリは、年間20~30㌧の水揚げがあるが、知名度は低く、スーパーで1尾150~200円と安い。ところがある日、著者が関西の寿司屋に入ると、臼杵産カマガリが人気商品の1つで、食べてみるとこんなうまいものはないと衝撃を受けた。

 

地元魚を加工して商品化へ

 

 そこで臼杵支店に働きかけ、カマガリの海鮮丼と加工品をつくることになる。原資は支店から10万円と、県の補助金30万円でスタート。支店女性部の加工グループと協議を重ね、海洋科学校の協力も得た。カマガリの刺身はそのままでもうまいが、味わいが淡泊なので、皮付きの炙(あぶ)りで出した方が脂の乗ったうまみを引き出すことができる。試行錯誤の結果、カマガリ炙り丼と、真空パックにしたカマガリフィレと、カマガリみりん干しが誕生した。

 

 著者らのとりくみはここで終わらない。今度はカマガリのフライをはさんだカマガリバーガーを考案。味付けは、醸造の街・臼杵の醤油メーカーがつくったソースと、臼杵特産のかぼすである。これを持って大分県のB級グルメ大会に出場し、その後地元のパン屋での販売に踏み出した。

 

 さらに給食センターの栄養士からの働きかけで、学校給食で地元の子どもたちに提供することになった。時化の多い冬場、市内の小・中学生3000食分のカマガリの切り身を用意するのは困難をきわめたが、支店運営委員長や著者らが給食に招かれ、そこで子どもたちが大きなカマガリフライに無我夢中でかぶりついている姿を見ると苦労も吹き飛んだ。別れ際、子どもたちが運営委員長を取り囲み、「おじちゃん美味しかったよ」「また食べたい」「ありがとう」といいながら握手攻めをする場面は感動的だ。

 

 こうしてカマガリが臼杵市の魚として定着した結果、以前の平均単価(キロ当り)480・6円が、1割上がって543・6円になった。魚価低迷のおりのこの結果は、漁師たちの意欲をさらに高めたという。

 

 ここですべては紹介できないが、本書ではこの他に12人の組合員から始めたタチウオの共同出荷のとりくみや、冬から春はレースケ(クロアナゴ)、かぼすブリ(餌にかぼすを混ぜて養殖する)、夏はハモと、旬を生かして地元でとれる魚を売り出していくとりくみなどが紹介されている。忘れてはならないのが、魚の目利きの役割を果たしている目の肥えた市内の料亭や料理店の存在で、それによっていい魚が高く評価されることになる。

 

 本書を読むと、漁師や夫人たちの努力はもちろんだが、それとともに地元の水産高校の教師や生徒、料亭や料理人、かぼすなどの野菜を提供する農家、財政的な支援をするとともに市内外でPRに努める行政・観光協会などが力を合わせ、知恵を出しあって追求していることがわかる。水産業の振興のためには、こうした共同のとりくみがぜひとも必要だということを示している。全国各地それぞれにとれる魚介類も対象とする消費者も違うが、創意工夫によってやればできるという勇気を与えてくれる1冊である。

 

 (海文堂出版発行、B6判・108ページ、定価1500円+税

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