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『経済的徴兵制をぶっ潰せ!』 岩波ブックレット

 東京大学で非常勤講師など有期雇用の教職員4800人を雇い止めにしようとしていることが大きな問題になっている。早稲田大学でも2013年来、同様の策動が強まり、それに対する「早稲田紛争」と呼ばれる教職員のたたかいが発展した。昨年3月、その全面的勝利を報告する「早稲田ユニオン臨時総会」で、シンポジウム「戦争と学生   経済的徴兵制をぶっ潰せ!」が開催された。

 

 本書はその場での発言をもとに編集構成したもので、学生の貧困問題にとりくむ6氏が執筆している。そこから、大学教職員の教育・研究条件の劣悪化が、高い学費と「奨学金」という学生ローンで多額の負債を背負わされ、アルバイト、就職活動に明け暮れる学生・院生の学業生活の破壊とつながった現実が浮かび上がってくる。

 

 70年代初頭、国立大学の学費は年間1万円台、私立大学でも十数万円であった。だが、新自由主義大学改革のもとで「高等教育は受益者負担」「学生はお客様」という「大学=企業」論理がまんえんするなかで、今では国立大学の初年度納入費は80万円、私立では200万円にまで高騰してきた。そのもとで、大学進学を希望する多くの学生が「奨学金」に頼らざるをえなくなっている。だが、その「奨学金」もかつての貸与型は消え失せた。「奨学」とは名ばかりで、実際は高金利の借金である。

 

 多くの学生たちの頭には、卒業後の300万円をこす奨学金の返済が常にのしかかり、学業よりもアルバイトや就活が第一とならざるをえない。学生生活独自の学問のための時間や自由時間が保障されない状況に追いやられている。在学中はいわゆる「ブラックバイト」で搾取され、卒業後の就労も非正規・有期雇用が待ち受けている。そうなれば、ローンの返済が遅れると督促に追われ「延滞金」が重なってくる。そのもとで、卒業後も借金奴隷に繋がれる若者が大量に発生している。

 

 シンポジウムの発言者は口口に、OECD加盟国では最低水準という日本の教育予算のもとで、悪質な「国営闇金」がのさばっていることを批判している。そして、学生が置かれたこうした状況が、大学の非常勤・パート講師の平均年収が200万円にも達しない現実と同じ根を持つことを確認しあっている。安倍首相が「教育の無償化」を「憲法改悪」「大学の軍事化」に誘うエサのように扱っているように、それは若者をアメリカの戦争に狩り出す現実的な条件となっている。

 

 ジャーナリストの布施裕仁氏は、最近の自衛隊が募集のシフトを、アメリカのように貧困や格差、セーフティネットの欠如を利用した「経済的徴兵制」へと変化させていることを明らかにしている。たとえば、自衛隊員の出身地は東北、北海道、九州に偏っているが、それは所得が低く貧困率の高い地域と重なっている。

 

 また、これまでは高卒者がほとんどだった1~2年限定の「任期制自衛官」や一般曹候補生に大卒者が入り込んできたという。布施氏はその根拠の一つに「奨学金問題」をあげている。就活がうまくいかなかった大学生が、奨学金返済のことを考えて自衛隊に志願するというケースが増えてきた。さらに、「奨学金」のリスクを避けるために、まず自衛隊に入隊して給料を学費に充てて、夜間大学に通う事例も少なくない。

 

 自衛隊のリクルートの誘い文句も、「自衛隊は国家公務員で安定している。衣食住もタダであり、余裕をもって奨学金を返済することができる」というものになっている。さらに、親への仕送りや貯金もでき、病気になれば部隊内の病院や医務室で治療が無料で受けられるという宣伝もおこなわれている。募集パンフレットにも、「再就職率100%! 自営隊経験者は規律や礼儀がしっかりしているから大企業からも引っ張りだこ」「高校から入隊して2任期で辞めると、次の就職先の給料は大学新卒の初任給と同じ」という言葉が躍っている。

 

 「自衛隊退職後の再就職もサポート」「再就職に必要な技能や資格を取得できる」ことも強調するようになった。資格は普通免許や大型免許のほか、フォークリフトやクレーン、危険物取扱者、パソコンなどである。最近の特徴として、女性自衛官募集に力を入れるなか、「“女性限定”でブライダルプランナーやネイリストの講習を受けることができる」などの宣伝がやられるようになったことも紹介している。

 

週に20時間以上働く学生が3割

 

 高橋若木・大正大学専任講師は、ほとんどの学生がバイトをしているが、そのうち3割近くが週に20時間以上働いており、そのうち67%の学生が労働条件で不当な扱いを受けている現状を批判している。そして、「公的な学生ローン制度」のもとで若者が「借金を負わされることや、大学教育を受けてすっからかんになることと、個人の内面や人格まで労働市場に使われることが、セットになっている」社会そのものを根本から批判するよう訴えている。

 

 さらに、かつてのような成長型社会ではなく、学生が卒業後も借金奴隷に縛り付けられるという社会の現実に立てば、教育費を個人に負担させる制度は最初から成り立たないことは明らかだ。「若者、労働者は無罪」であり、「ただ生きているだけで債務者のように感じさせられる社会はおかしい」という認識を共有すること、社会的な運動を通して、若者をそのような「運命的な負債感」から解き放つ意義を強調している。(一)
 (岩波ブックレット、660円+税)

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