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ドキュメンタリー『新型コロナが映すいのちの格差』 監督・山口勝則 制作・アジア太平洋資料センター

 2020年に始まった新型コロナ・パンデミックは、これまでに世界全体で6億7200万人以上の感染者と、685万人以上の死者を生み出した。しかし、その対応としての検査・ワクチン・医薬品・医療アクセスは、決して平等ではない。「先進国」も医療崩壊の危機に直面したが、途上国の人々はもっと深刻な事態に直面している。そしてこの格差を放置すれば、より感染力や毒性の強い変異株が世界で猛威を振るうことにもつながる。各国の医療関係者や市民は「すべての人が安全になるまで、誰も安全ではない」というスローガンを掲げて運動を進めている。

 

 「新型コロナに対する公正な医療アクセスをすべての人に!連絡会」はアジア太平洋資料センター(PARC)とともに、ドキュメンタリー『新型コロナが映すいのちの格差 公正な医療アクセスを求める世界の市民社会』(監督・山口勝則)を制作し、7日に完成記念上映会をおこなった。上映後には出演者によるライブトークもおこなわれた。

 

ラテンアメリカ ワクチンなく170万人が死亡

 

 ドキュメンタリー『新型コロナが映すいのちの格差』は前半、コロナ禍が襲った途上国の実情を伝えている。ブラジルでは、スラムでの感染が爆発的に広がった。そこでは、もともと衛生的な水や医療へのアクセスができていなかった。インドでは、ワクチンも酸素吸入器も足りず、死者は公式発表(50万人)の数倍はいるといわれる。

 

 ワクチンが開発された2020年末、ワクチンの争奪戦が始まり、先進国はワクチンを買い占めるために製薬企業と直接交渉を始めたが、途上国はとり残され、その結果、先進国と途上国のワクチン接種率には大きな格差が生まれた。アフリカの人口のうちワクチンを接種しているのは24%で、先進国の3分の1(2021年11月)。ラテンアメリカでは、ワクチンがないために170万人が死亡した。

 

 ドキュメンタリーは、貧しい国々にワクチンが行きわたらない背景に知的財産権の問題があることを強調している。新たな医薬品を開発・製造した企業はその医薬品の特許権を持ち、20年独占的に製造・販売することができる。逆に他者はその間、安価なジェネリック医薬品を製造することができない。

 

 1990年代のエイズ蔓延のさいにも、このことが問題になった。先進国の企業が開発した治療薬は特許権で守られ、1人当り年間200万円以上もしたので、国民皆保険のないアフリカの多くのHIV患者は手に入れることができなかったのだ。そこで世界的に大きな抗議行動が起き、各国の政府の判断で医薬品の特許権を停止する「強制実施権」を勝ちとった。それは、各国が自由に医薬品をつくれるようにするものだった。

 

インドと南ア提案 知的財産権免除求める運動

 

 今回のパンデミックのなかでも、インド政府と南アフリカ政府が2020年10月、WTO(世界貿易機関)の知的財産権協定理事会で、パンデミックの間、新型コロナの医薬品にかかる知的財産権の一時免除を求める画期的な提案をおこなった。当時、そのことを日本のメディアはほとんど報道しなかったが、この提案にアジアやアフリカ、中南米などの100か国以上が賛成した。しかし、米国、英国、EU、日本などが猛反対した。

 

 ドキュメンタリーが伝える「反対理由」は驚くべきものだ。第一に「知的財産権は障壁になっていない」。だが実際には、コロナ感染爆発の下で検査キットや治療器具を増産しようとしたところ、知的財産権を侵害したとして訴訟を受ける事態が発生していたという。当初、品不足でみんなが困ったマスクには多くの特許技術がかかわっており、マスクを増産しようとしてもすべての許可を得るのは困難をきわめた。また、mRNAワクチンには何百種類もの特許がかけられており、そのすべてが免除されないかぎり増産は不可能だ。

 

 第二の「途上国には生産する能力がない」という理由も事実に反するし、第三の「知的財産権による利益は医薬品研究開発の原動力であって、これを免除してしまえば企業は新たな医薬品を開発する意欲を失う」という理由はまったくのウソであることが明らかになる。というのも、先進国政府はワクチン開発を早めるために、ファイザーやモデルナなどの製薬企業に多額の公的資金を投入しているからだ。つまり、ワクチン開発コストのほぼ100%近くは米国政府やEU各国政府が支出している。元はといえば人々の税金であり、その成果としての医薬品は公的に使われるべきだし、世界の人々に分かち合われるべきものだ。しかし、企業は公的資金にただ乗りして成果を独占し、莫大な利益を得ている。

 

 インドと南アフリカの提案を受けて、知的財産権の免除を求める運動が世界に広がった。だが2022年6月にWTOが出した結論は、知的財産権の一時免除の対象となるのはワクチンのみで、治療薬や検査キット、人工呼吸器は除外。期間も5年限定、対象となる国も限られるなど、当初の提案からは大幅に後退したものとなった。

 

 ドキュメンタリーは、製薬企業や先進国政府が命よりも利益を優先していることをあばき、今の経済システムの下では国民の命が守られないことを明らかにしている。次のパンデミックを迎える前に、ワクチンや医療品への平等なアクセスを実現する運動をさらに広げようと呼びかけている。

 

 このドキュメンタリーのDVDがPARCから発売された。(カラー・43分、一般価格2000円+税、図書館価格1万5000円+税)

 

 問い合わせは、東京都千代田区神田淡路町1-7-11東洋ビル内 アジア太平洋資料センター ✆03-5209-3455

 

 DVD注文サイト(PARC) http://www.parc-jp.org/video/sakuhin/inochi.html

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