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『GE帝国衰退史』 著=トーマス・グリタ、テッド・マン 訳=御立英史

 東芝が事実上破綻の憂き目にあった契機は、金融事業に手を出して破綻寸前の米原子力メーカー・ウェスチングハウス(WH)を傘下においたことだった。また、ゼネラル・エレクトリック(GE)と提携して法外な損失を押しつけられたのは日立である。原発が斜陽産業化するなか、日本の原子力メーカーがWHやGEといった米大企業にまんまとはめられ、巨額の負債を押し付けられたわけだが、そのGEがいまや破綻・解体の危機に直面している。長年にわたってGEの社員たちを取材してきた2人の米国人記者が、本書でその内幕を描いている。

 

 日本にはかつて「鉄は国家なり」という言葉があった。それは日本の戦後復興と高度経済成長を支えた鉄鋼産業を指す言葉だが、GEは1892年の創業以来1世紀以上にわたって「米国そのものを代表する企業であり続けた」。

 

 GE誕生の地、ニューヨーク州スケネクタディは、GEの前身、発明王エジソンのエジソン・マシン・ワークス発祥の地でもある。GEは20世紀を通じて世界最大規模のコングロマリットとなり、火力発電や原発のタービンやジェットエンジンから、テレビやラジオをはじめとする家電製品、胎児の画像を映し出す超音波診断機やMRI、そして戦闘機の機関砲まで、多種多様な製品を生産する企業群を擁してきた。それらは米国中に電力網を張り巡らせ、居間やキッチンを照らし、また戦闘機や旅客機を世界の空で飛ばせた。

 

 GEの研究室からは、何十年にもわたって画期的な研究成果と特許が生まれ、ノーベル賞受賞者が生まれた。GEはまた、数十万人の労働者を雇用し、世界に数百の拠点を有するとともに、労働組合と厳しく対峙し、高い株価と配当を求める投資家を第一にするやり方でも他社をリードしてきた。新自由主義政策を進めたレーガンを「自分たちが育てた大統領」と自負している。そのGEがいまや、誰も想像しなかったほどに衰退している。

 

株価40倍の時代に萌芽

 

 なぜGEは、破綻の危機に直面するようになったのか? 著者は、GE史上最高の経営者とされ、株価を40倍以上にして時価総額世界一にしたジャック・ウェルチ(1981年からCEO)の時代に、その危機は育まれたと評価している。

 

 ウェルチのやり方はこうだ。歴史的にGEの中心部分であった家電事業を売却し、テレビやトースターを売っていた時代に終止符を打った。そして新たな収益源として、金融サービス部門を立ち上げた。最盛期には金融サービスを担うGEキャピタルは、GEの総利益の半分以上を生み出したという。企業を安く買って高く売る企業買収や不動産売買をおこない、カネでカネを稼ぐ財務構造に傾斜したわけだ。米国でもっとも有名な製造企業は、最も大きな銀行の一つに変質した。

 

 もう一つは、「無駄なコストを削減する」といって徹底的な人員削減をおこなったことだった。1980年代には全従業員の4分の1に当たる10万人以上のクビを切り、さらに数万人の雇用を、労働組合がなく賃金が低い海外に移した。さらには社員をランク付けし、下位10%の解雇を進めた。

 

 以上の改革で株価は急上昇した。だがそれは、製造業がかつてのような競争力を失うなか、金融業を巧みに操作することでその穴を埋めることに他ならなかった。

 

 ウェルチは2001年、後任にジェフリー・イメルトを選ぶが、9・11テロ事件後の航空機不況、エンロン破綻でGEの株価は低迷。イメルトはますます金融業への依存を深め、キャッシュをともなわない数字上の会計トリックで10年以上にわたる2ケタの利益成長を装った。ところがそこにリーマン・ショックが起こり、GEキャピタル傘下の住宅ローン会社も破綻。GEは減配となり、トリプルAだった格付けも引き下げられて、米政府が救いの手を差し伸べるなかでかろうじて生き延びる。

 

 それでも株価の下落に歯止めはかからず、2017年にイメルトが辞任してからの1年間で1400億㌦以上の市場価値が消滅した。それは破綻したエンロンの2倍以上で、リーマン・ブラザーズの損失をも上回るほどだった。

 

幹部は平然と巨額報酬

 

 こうして2018年、GEは30銘柄で構成されるダウ・ジョーンズ工業株平均から外された。もはや米国を代表する企業ではないというわけだ。そして、メディア事業部門を売却し、GEパワーのタービン部門は在庫の山となり、石油・ガス事業にも失敗、ついにGEキャピタルも売却となって解体状況になっている。かつて40㌦近くあったGEの株価は7㌦を割り込み、20年前に6000億㌦近い価値があった会社が、いまやそのかけらほどの値打ちもなくなった。

 

 GEは、経営陣が恣意的に決めた1株2㌦という配当を達成することがすべてで、そのためにはなんでもする企業になり、GEキャピタルの巨額隠れ不良債権も発覚している。しかも企業の幹部たちは、会社の経営が傾いているのもどこ吹く風で、自分だけは法外な報酬を受けとり、プライベート・ジェットを乗り回して平然としている。

 

 人々の生活を向上させる生産活動から離れ、カネがカネを生む金融資本主義、株主利益が第一の株価至上主義に傾斜した結果、寄生性や腐朽、モラル崩壊が度外れて進み、やがてみずから崩壊していく――それはアメリカ資本主義そのものを象徴する姿であり、たんに取締役会のガバナンスが不十分だったという問題ではない。そして、日本にとっても他人事ではすまない問題をはらんでいる。

 

 (ダイヤモンド社発行、四六判・494ページ、定価2000円+税)

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