いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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米国仕込みの偏向報道に躍るメディア 『ウクライナ・ゲート』(著・塩原俊彦)にみる

 ウクライナ問題をめぐる新聞やテレビの一連の扇情的な報道はおよそ客観的とはいいがたい。それは、ウクライナ現地で記者がみずから調べ歩いて確かめた記事がなく、情報のほとんどがAPやAFPなどの欧米通信社の配信記事の転載、CNNやBBCの画像の横流しで、その発信源はアメリカであることに示されている。

 

 このように、現実にはアメリカによる世界を股にかけた情報統制がやられているのだが、テレビのニュース解説に見るようにロシアの通信社やメディアからの情報は「プーチンの統制を受けた偏向報道」として、端から信用できないと突き放す滑稽な光景がくり広げられている。

 

 ウクライナをめぐる西側のこうした偏向報道は今に始まったものではない。それは東欧政変・ソ連邦解体当時はもとより、以後東欧から始まったカラー革命(ウクライナでは2004年の「オレンジ革命」)や2014年のウクライナ危機の報道でも猖獗(しょうけつ)を極めた。

 

 経済学者の塩原俊彦・高知大学准教授(ロシア経済論)は、『ウクライナ・ゲート――「ネオコン」の情報操作と野望』(社会評論社・2014年)で、当時のウクライナ危機からロシアのクリミア併合にいたる過程で、混乱をもたらしている元凶がウクライナのナショナリズムとその「過激派」を背後で操るアメリカのネオコン(新保守主義者)にあることを具体的な証拠をもとに浮き彫りにしている。そして、ウクライナ危機はオバマ大統領が仕掛けた「ウクライナ・ゲート事件」ともいえるとのべている。

 

 ウクライナの「過激派ナショナリスト」はジョージ・ソロス基金やNGOから資金を受けとる数十のグループを創設し、数百万㌦の資金を流して、インターネットやテレビや無人機といったハイテクを武器に反政府活動をおこなうことができた。その運動にヌーランド米国務次官補や駐ウクライナ米国大使が直接指図していたことも暴露されている。その過程で、アメリカに抱えられた彼ら「過激派」がウクライナ政府に副首相をはじめ複数の閣僚として入りこむことができた。

 

 こうしてもっとも得をしてきたのがアメリカの軍産複合体である。本書から、当時から欧州市場を狙うアメリカのガス会社が「ロシアを悪者に仕立て上げ、ロシアへの過度なガス依存の危険性を欧州諸国に周知させる」という計画を持っていたことを知ることができる。

 

 塩原氏はそのうえで、ウクライナ危機をめぐって「米国を批判する論調はまったく見られない」こと、アメリカのこうした介入に目をつむって平然とウソを書いてごまかし、「ウクライナ危機の元凶はロシアにあるという結論ありきの論調」で染め上げる世論操作を踏み込んで批判している。「エコノミストやニューヨークタイムズといった世界の言論リード機関が米国政府あるいは軍産複合体の意向を強く受け容れているのでないか」と。

 

 塩原氏はまた、「ロシアの言論の自由の欠如を言い立てることで、いかにも自分たちは正しいという姿勢」で身の証をするような風潮の危険性を指摘している。そして塩原氏自身、元『日経』と『朝日』の記者であり、『朝日』のモスクワ特派員でもあった経験をもとに、次のようにのべている。

 

 「社説には政治力学そのものが大きく反映されている。ゆえに本当は各社の外報部とか外信部と呼ばれる直接の担当者が間違えたからというようには思わない。……どこの会社も外報部や外信部の力は弱い。つまり、彼らがウクライナ危機の一端を知りえていたのに、社内力学で政治部の意向が強く働き日本政府よりの社説が書かれることになったのでないか」と。

 

 塩原氏のような客観的報道を求める発言に対して、「親ロシア派」「プーチンに利用されている」などと攻撃する風潮が盛んなこの頃である。だが、同氏の他の著書、たとえば『プーチン20』(東洋書店)などでプーチンとロシアのオリガルヒ(新興財閥)の癒着と腐敗のなまなましい実態を明らかにしていることからも、それはまったくのお門違いである。

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この記事へのコメント

  1. 京都のジロ- says:

    『ウクライナ・ゲート』の本は図書館で借りて読みました。余りにも米国の横暴さに怒り心頭です
    購入して手元に置いて読書会したいのですが、アマゾン、蔦屋、出版元でも品切れ、重版予定無しで
    入手ができません。 購入できる方法がありましたら教らせください。 宜しくお願いします

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