いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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『スノーデン・ファイル徹底検証』 著・小笠原みどり

 安倍政府のモリ&カケ問題に国民の憤激が高まった2017年は、安倍政府が共謀罪法を強行可決した年でもある。だがこの年の4月、米国家安全保障局(NSA)の元職員エドワード・スノーデンがNSA日本関連文書を初公開し、その内容は当時審議中だった共謀罪法案に密接にかかわったものだったけれども、メディアはこれを無視し、また核心をねじ曲げた。本書は、スノーデンに日本人ジャーナリストとして初の単独インタビューに成功した著者が、日本の将来にとって重要な意味を持つこの日本関連文書を詳細に分析し、国民に届けようとしたものである。

 

 この共謀罪と、2013年の特定秘密保護法、2016年の盗聴法改定は一連のもので、安保関連法の成立と密接にかかわっている、と著者はいう。スノーデンによれば、特定秘密保護法はアメリカがデザインしたものだ。それ自体日本が独立国でないことを示しているが、NSAはすでに日本で暮らす人人のメールや通話、チャット、ネットの閲覧履歴などの無差別大量監視を実行しており、それは違法なので、日本政府に同法の制定を強力に持ちかけたという。

 

 次に盗聴法改定は、これまで違法だった監視の手段を大幅に合法化した。そして共謀罪は、「実行行為がなければ罰せられない」という戦後日本の刑法の原則を覆し、誰かと誰かが相談しただけで刑罰を科すもので、そのためには日常的な盗聴が不可欠だ。つまり共謀罪法は、憲法が禁止していた国家の盗聴・監視を合法化した。

 

 その審議の真っ最中にNSA日本関連文書が発表された。その中には、NSAの防衛省へのエックスキースコアの提供が示されていた。エックスキースコアとは、「スパイのグーグル」と呼ばれる検索装置で、ネット上の個人情報はもちろん、メールなどの非公開の情報も網羅し、為政者が好まない人間をリストアップできるし、共謀罪の捜査に使われればあらゆる人を何らかの犯罪の容疑者に仕立て上げることも可能にするものだ。

 

 多くのメディアがこのニュースを無視した。NHKだけが取り上げたが、肝心の共謀罪との関係には一言も触れず、逆に「テロ対策のための監視強化」という真逆の結論を導き出した。

 

 著者はここに、米メディアにはびこる「暗黙のルール」を見ている。それは、①まず政府に記事内容を注進すること。長い交渉が始まり、報道は妥協する、②政府の使う中道語を使うこと(軍事介入を「積極的平和主義」というような)。それで暴露の効果をみずから弱める、③大スクープは一部で終え、政権に打撃を与えない範囲でとどめること。まさに私たちが日常的に目にする風景だ。

 

米軍の監視活動 日本が巨額提供

 

 さて、著者が暴露している日本関連文書には次のような内容が書かれている。

 

 日本政府は、在日米軍基地内のNSA監視活動に巨額の資金を提供してきた。1996年のSACO合意で沖縄・読谷村の楚辺通信所(象のオリ)を「全面返還する」といわれたが、実際は世界監視網の最新拠点として盗聴アンテナ施設がキャンプ・ハンセンに新設され、費用5億㌦は日本政府がすべて負担した。

 

 NSAは講和条約締結直後から日本で活動を開始し、首都のど真ん中・六本木を拠点に活動してきた。2000年代に入って機能強化のために神奈川県の横田基地(在日米軍司令部がある)とアメリカ大使館に機能を移転した。この横田基地に2004年、米軍はアンテナの生産と修理を担う工学支援施設を建設したが、その建設費と人件費のすべても日本国民の税金から支出している。

 

 三沢基地(青森県)には2010年、NSAがエックスキースコアを導入して地球規模での盗聴を開始し、アフガンやパキスタンで標的となった人物の捕捉や殺害に結びついている。

 

 米国の戦場で、今真っ先に配備されるのがアンテナとドローン(無人機)といった監視機器で、携帯電話の位置情報などから「敵」の居場所を確定し、遠隔操作で爆撃する。監視機器によって集めた情報で急襲する宣戦布告なしのドローン攻撃は、しばしば無関係の市民を殺害することにつながっている。この点で在日米軍基地はアフガン・イラク戦争や中南米の麻薬戦争などに直接関与しており、日本政府が米軍にそのための設備もカネも提供しているのだから、日本がアメリカの対テロ戦争の主要拠点になっていることを示している。

 

 さらに18年に追加公開されたNSA文書からは、民主党政府だった2012年からインターネット大量監視に舵を切り、翌年からNSAの指導の下、防衛省情報本部・大刀洗通信所(福岡県)などでデータ収集を開始したこと、そこで得た大量の盗聴データが米軍にそのまま流れていることがわかるという。この計画を主導したのは内閣情報調査室だが、その過程では「防衛省内保守勢力から相当な抵抗があった」と記されているほど、防衛省内部でも売国的行為に危機感を持つ人間が多かったようだ。

 

 著者はこの大量監視システムが、日本国内の一般市民に対しても、政府に対抗的な市民団体の解体をはかったり、社会的信用を失墜させるためにネット上に偽情報を投稿したりする手段になっていると報告している。さらに、安倍首相が「自衛官募集に都道府県の6割以上が協力を拒否している」と問題にしたように、個人情報の収集は若者の戦争動員にも結びついている。つまり国民の生命や財産を守る方向とは真逆に作用している。それは、日米安保条約と米軍基地の本質を暴露するものだ。

 

 大局から見れば、アメリカはすでに世界覇権を求める力を失い、軍事費負担に耐えかねて中東などから撤退を始めている。国内もホームレスがあふれる貧困大国となり、いかにNSAが大量監視しようと、1%に対する99%のたたかいは押しとどめられない。だからこそ米国支配層は、従属国日本からより多くの富を収奪し、米軍身代わりの肉弾さえ求めてくる。いまや戦後の対米従属の鎖を断ち切ることが待ったなしの課題になっており、著者の批判もそこに焦点を当てているようだ。


 (毎日新聞出版発行、B6判・236ページ、定価1500円+税

 

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