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『大量廃棄社会』 著・仲村和代・藤田さつき

 恵方巻きに象徴される「食品ロス」はよく知られるようになったが、日本で市場に供給される衣服の4枚に1枚が新品のまま捨てられているという「洋服ロス」はあまり知られていない。本書は2人のジャーナリストが、アパレル業界とコンビニ業界を対象に、隠された大量生産と大量廃棄の問題点を読者に提示している。

 

 2017年の1年間を見ると、衣料品の供給量約38億点に対して、消費量は約20億点で、売れ残った物のうち再販売される一部を除き、ゴミとして廃棄処分にされる衣料品は10億点(供給量のおよそ4分の1)と推計される。

 

 なぜこんなに売れ残るのか? 衣服は各アパレルメーカーが半年から1年前に流行の見込みを立てて発注するが、外れることも多い。アパレル業界は「商品を陳腐化する」(いかに前のシーズンの商品の価値を下げて新商品を売るか)をビジネスモデルの中心に据えており、業界として今年の流行色をうち出したりして去年の色は価値を失ったとアピールし、消費者を最新の商品に誘導する。しかも売れる数の予測は困難だから各社が多めにつくる。流行に外れると売れ残るし、暖冬になると冬物のアウターは大量に売れ残る。そして廃棄のコストは価格に上乗せされ、消費者に転嫁される。

 

 なかでも高級ブランドは、売れ残ったときに安売りすればブランド価値が傷つくので、処分費用をかけてでもすべての商品を破砕して焼却し、横流しされないようにしてしまう。

 

 さらに驚くことには、バブル崩壊後のこの20~30年間で、衣料品の供給点数はそれまでの倍以上になっている。消費量はほぼ横ばいなのに。なぜ売れないことがわかっていて生産量を増やしたのか?

 

 著者によれば、この時期、H&Mなどの海外のアパレルメーカーが世界的な分業体制を進めて大幅な価格引き下げを実現し、「安くて質もそこそこよい」ファストファッションで日本市場も席巻した。その影響を受けた日本のアパレルメーカーも、賃金の安い途上国で大量生産して原価を引き下げようとした。つまりグローバリズムによる価格競争と出店ラッシュが、ますます廃棄処分にされる衣料品を増やしているという。

 

 影響をもろに被ったのが、アパレルの下請である国内の零細業者だった。これまではアパレルメーカーが企画・デザインをし、下請である家族経営の零細業者が裁断、縫製、穴かがり、プレス、検品などを分業して担ってきたが、生産拠点の海外移転のなかで次次と倒産・廃業を強いられた。残った業者も低い工賃で受注しなければならないため、外国人の技能実習生を受け入れて回していかざるをえない。

 

 もう一つは移転した先の途上国で、メーカーはより安い賃金を求めて中国→ベトナム→バングラデシュと渡り歩いていった。その行き着く先が2013年のバングラデシュでの縫製工場ビル崩落事件で、それによって1134人の死者が出た。経営者が違法な建て増しを続け、労働者が壁や柱に亀裂が入っていることを訴えたが、経営者が職場に戻れと指示した後の大惨事だった。バングラデシュはH&Mやユニクロをはじめ、世界のアパレルメーカーの生産を引き受ける「世界の縫製工場」と呼ばれたが、グローバリズムの下、途上国の労働者がいかに劣悪な条件で働いているかをその事件は暴露した。

 

 それほど衣料品があまっているなら、古着をリサイクルしたら…と思う。中古衣料の輸出先としては、かつては中国が大口で、冬物衣料も引く手あまただった。ところが経済成長を遂げた中国は、今では古着の排出国となり、十数年前から中古衣料の輸入を禁止している。フィリピンなどのアジア諸国やアフリカでも輸入規制を始めるようになった。世界的に飽和状態なのだ。

 

 戦後も70年余り経ち、人類が生きていくうえで不可欠な衣・食・住の物資をありあまるほど生産できるまでに、世界の生産能力は格段に高まった。しかしそれが一握りのグローバル企業の利潤追求という目的の下におこなわれるために、労働者の生活はますます苦しく、日日の生活の糧もままならない一方で、毎日大量の食品や衣料品が廃棄処分にされている。大量生産・大量消費・大量廃棄のシステムを変えない限り、人類に未来はない。

 

 本書のなかで、衣料品や食品の流れを追って、ある日は羽田空港そばの廃棄物処理工場へ、またある日はバングラデシュの農村へと追究をやめない著者の姿勢は、読む者をひきつける。
 (光文社新書、318ページ、定価880円+税

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この記事へのコメント

  1. Film Photography says:

    いつも記事を拝見しております。権威に屈しない数少ないジャーナリズムの牙城たる存在に敬服しております。
    ご存知かもしれませんが、東京新聞が先月来、東京オリンピックに関連した商標(マーク)をスポンサー企業が使用することは商標法違反であることを伝えています。在京の弁理士が果敢にもこの「不都合な事実」を世に問い、国会でも参議院法務委員会(2018年3月20日)で小川敏夫議員が取り上げ、政府側参考人は答弁に窮することになりました。そして、今般、かかる弁理士が国際オリンピック委員会(IOC)バッハ会長宛にこの「不都合な事実」「違法ライセンス」を公開書面(英文)として送り、国際社会に問うに至りました。「スポンサーには大手報道機関も名を連ねているが、この「不都合な事実」を報道するだろうか」(東京新聞デスクメモ)とあるように、東京新聞に続いてこの問題を取り上げる報道機関は一切ありません。法を破ってまでも挙行するオリンピック、法律上の諸問題について日本政府はIOCに政府保証を行っています。このまま違法ライセンス活動が続けば、当然その責任は日本政府に問われることになります。貴誌にどうかこの問題に着目していただきたくご一報差し上げた次第です。
    公開書面:
    https://drive.google.com/file/d/1-b762Myg4849WtZ1tm4fDfy_G5fuvVr6/view

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