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アマゾン森林火災を印鑰智哉氏(日本の種子を守る会アドバイザー)の発言から考える 

印鑰智哉氏

 ゲノム食品や種子法などの問題で発言を続ける印鑰(いんやく)智哉氏(日本の種子を守る会アドバイザー)が最近、ブラジルのアマゾンの森林火災の実態についてブログやネット動画、講演などで活発に論じている。印鑰氏はブラジルでの研究経験もあり、アマゾン開発をめぐる問題にくわしい。とくに、日本の政府・商社のブラジル開発への参入がアマゾン火災に深くかかわっていると指摘している。いくつかの発言から、問題点を要約して紹介したい。

 

 アマゾンの大半はブラジルが占めるが、実際には南米九カ国に広がっており、パラグアイ、ボリビア、アルゼンチンでも大規模な森林火災が起きている。だが、その情報は日本では誤って伝えられている。「いつも起きている。今年は特別ではない」「農民の野焼きで火災が起きている」「他の地域でも起きている。気候変動が原因」というものだ。

 

 実際には、2019年に入って火災は急増し、300万㌶をこえる地域で発生し、少なくとも64万㌶の森林が焼失した。昨年9月は前年比96%増となっている。地元農民の野焼きは大規模火災を減らす作用がある。おもな原因は、大土地所有者やアグリビジネスがアマゾン流域で放牧するために、火を放っていたことにある。

 

 ブラジルの主要輸出品目となっている牛肉と大豆は、アマゾン流域を開墾した大規模なプランテーションで栽培される。かつて放牧が盛んだったアマゾンに隣接するセラード地方で大豆が栽培されるようになり、牧草地が大豆畑拡大のためにより奥地のアマゾンへ追い出されるようになったからだ。

 

 この破壊が急速に高まったのはボルソナロ大統領就任が決まって以降のことだ。火災の発生件数は労働党政権のもとで2017年、18年と少し減ってきたのだが、ボルソナロ大統領は憲法で禁止されたアマゾンの開発を公言し、アグリビジネス(大土地所有者、遺伝子組み換え企業、穀物商社など)や鉱山開発企業の利益を優先する政策に転換した。

 

 大豆や肉の輸入先をアメリカからブラジルに転換し、最大の輸入国となった中国の責任を指摘する向きもある。部分的には当たっているが、中国の輸入の相当の部分が日本の食品企業であり丸紅などの商社がかかわっている。そもそも日本の商社がアマゾン開発に歴史的に深くかかわっていることにはまったくふれないことが問題だ。

 

60年代からアマゾンに進出

 

 日本はアマゾン開発に古くからかかわってきた。1960年代にブラジリア遷都とともに、おもに日本の資金・技術提供によって内陸部(セラード)の開発が進んだ。とくに1974年、当時の田中角栄首相がブラジル政府とセラード開発事業に合意して以後、日本のJICAと商社があいついで広大な地域を開発し、ビジネスを展開してきた。その対象品目は大豆からユーカリ、サトウキビ、コーヒー、鉄鋼、ボーキサイトなど多岐にわたる。

 

 一方で鉱山開発も進めてきた。JICAがマスタープランを作成した大カラジャス計画では、鉄鉱石の開発、ボーキサイトの採掘・製錬がおこなわれた。鉱山開発の結果、金採掘にともなう水銀汚染が広がった。日本のアルミ工場に電力を供給するため、東京23区がすっぽり入る巨大なトゥクルイダムが建設された。しかし、電気は地元地域の住民に供給されていない。アマゾンでは、鉱山開発のエネルギー源として、140ものダム建設が計画されている。これはアマゾン破壊のダムとしかいえない。

 

水のゆりかごを焼き払う

 

 セラードは生物多様性が世界一豊かなところで、「水のゆりかご」と呼ばれておりアマゾン、ブラジル・南米の水源である。セラードの樹木は地下40㍍まで根が到達し、深い地中から水を吸い上げることができる。しかし、そのセラードの森を燃やして根を引っこ抜き、大豆畑(今は遺伝子組み換え作物、除草剤を使ったモンサント農業)にしてしまった。

 

 大豆の浅い根では水や土を保持できず乾期には水が枯渇するようになった。これを放置するとアマゾンがサバンナ化し、さらには砂漠になっていくだろう。しかし、日本政府は「不毛の大地を穀倉地帯に変えた奇跡のプロジェクト」として評価している。

 

 大豆は石油に次ぐ戦略物資といわれる。日本で消費される大豆は、第二次大戦前は8割が中国東北部(満州)などで生産されていた。戦後はアメリカに依存していたが、1973年のニクソン大統領による大豆禁輸声明以降、ブラジルに目をつけた。大豆の75%は飼料として使われ、家畜の餌になる。南米はすでにアメリカをしのぐ大豆生産地域となっている。

 

 日本は新たなODA農業開発計画で、大豆輸送のアマゾン縦断道路建設にもかかわり、森林破壊を拡大している。田中角栄当時、アメリカに逆らってJICAが開発した大豆だが、それを日本のものにできず、カーギルなどのアメリカ企業に渡した。JICAはそれを「多角化してこそ大豆市場が安定する。国益のためだ」と正当化していた。しかし、最近になって豊田通商、三菱商事、三井物産などの日本の商社があいついでブラジル商社を買収し、大豆を獲得しようとしている。そして、その地が火災の発生地と重なっている。

 

 アマゾン森林火災はまったく他人事ではない。私たちの税金や日本からの投資でおこなわれる大規模な農業開発はアマゾンの破壊と地元住民の生活、権利侵害をもたらす一方で、日本の食料自給率をさらに下げ、日本の農業に深刻な影響を与えている。また、遺伝子組み換え作物の大量生産は現地の環境とともに、それを食べる私たちの健康と直結している。税金の使い道を国会で追及し、問題ある企業に投資引きあげを要求する必要がある。

 

※印鑰智哉氏のブログはこちら→ http://blog.rederio.jp/

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