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ホルムズ海峡周辺への自衛隊派遣について憲法研究者が声明

 安倍政府が具体化を進める中東への自衛隊派遣計画に関連して憲法学者5氏が1日に国会内で記者会見し、「日本政府は自衛隊を派遣するべきではない」と訴える「ホルムズ海峡周辺へ自衛隊を派遣することについての憲法研究者声明」を発表した。同声明には125人が賛同しており、今後も賛同者が増え次第インターネット上で公表することを明らかにした。

 

 記者会見は稲正樹(元国際基督教大学教授)、清水雅彦(日本体育大学教授)、永山茂樹(東海大学教授)、根森健(東亜大学大学院特任教授、埼玉大学・新潟大学名誉教授)、藤井正希(群馬大学准教授)の5氏がおこなった。8月、9月の段階で危機感を感じていたが中東への自衛隊派遣へ向けた検討が具体的に始まるなか、憲法研究者として看過できない点を声明原案として10月26日にまとめ、現役の憲法研究者や退職した研究者も含めて広く賛同を呼びかけた経緯を説明した。

 

 声明の概要について明らかにした後、出席した研究者が見解をのべた。そこでは「調査・研究は本来は中東に自衛隊を派遣する理由になるはずがない内容だ。それなのに自衛隊派遣をおし進めるのは、国民的な議論もないまま自衛隊を海外派遣する実績をつくり、改憲へ進むための地ならしではないか」「調査・研究で派遣しておきながら何かあった場合は集団的自衛権の行使までできるというのは非常に問題だ」「憲法研究者としては自衛隊の生命を危険にさらすという問題についても指摘していきたい」「自衛隊を海外に派遣することは日本の利益になるどころか危険にさらすだけだ」と強い口調で指摘した。

 

 なお憲法研究者が発表した声明と賛同者名簿は以下の通り。

 

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 、2019年10月18日の国家安全保障会議で、首相は、ホルムズ海峡周辺のオマーン湾などに自衛隊を派遣することを検討するよう指示したと報じられている。わたしたち憲法研究者は、以下の理由から、この自衛隊派遣は認めることができないと考える。

 

 、2019年春以来、周辺海域では、民間船舶に対する襲撃や、イラン・アメリカ両国軍の衝突が生じている。それは、イランの核兵器開発を制限するために、イラン・アメリカの間で結ばれた核合意から、アメリカ政府が一方的に離脱し、イランに対する経済制裁を強化したことと無関係ではないだろう。

 

 中東の非核化と緊張緩和のために、イラン・アメリカ両国は相互に軍事力の使用を控え、またただちに核合意に立ち戻るべきである。

 

 、日本政府は、西アジアにおける中立外交の実績によって、周辺地域・周辺国・周辺民衆から強い信頼を得てきた。今回の問題でもその立場を堅持し、イラン・アメリカの仲介役に徹することは十分可能なことである。またそのような立場の外交こそ、日本国憲法の定めた国際協調主義に沿ったものである。

 

 、今回の自衛隊派遣は、自衛隊の海外派遣を日常化させたい日本政府が、アメリカからの有志連合への参加呼びかけを「渡りに船」で選択したものである。

 

 自衛隊を派遣すれば、有志連合の一員という形式をとらなくとも、実質的には、近隣に展開するアメリカ軍など他国軍と事実上の共同した活動は避けられない。しかも菅官房長官は記者会見で「米国とは緊密に連携していく」と述べているのである。

 

 ほとんどの国が、この有志連合への参加を見送っており、現在までのところ、イギリスやサウジアラビアなどの五カ国程度にとどまっている。このことはアメリカの呼びかけた有志連合の組織と活動に対する国際的合意はまったく得られていないことを如実に示している。そこに自衛隊が参加する合理性も必要性もない。

 

 、日本政府は、今回の自衛隊派遣について、防衛省設置法に基づく「調査・研究」であると説明する。

 

 しかし防衛省設置法四条が規定する防衛省所掌事務のうち、第一八号「所掌事務の遂行に必要な調査及び研究を行うこと」とは、どのような状況において、自衛隊が調査・研究を行うのか、一切の定めがない。それどころか調査・研究活動の期間、地理的制約、方法、装備のいずれも白紙である。さらに国会の関与も一切定められていない。このように法的にまったく野放し状態のままで自衛隊の海外派遣をすることは、平和主義にとってもまた民主主義にとってもきわめて危険なことである。

 

 、わたしたちは安保法制のもとで、日本が紛争に巻き込まれたり、日本が武力を行使するおそれを指摘してきた。今回の自衛隊派遣は、それを現実化させかねない。

 

 第一に、周辺海域に展開するアメリカ軍に対する攻撃があった場合には、集団的自衛権の行使について要件を満たすものとして、日本の集団的自衛権の行使につながるであろう。

 

 第二に、「現に戦闘行為が行われている現場」以外であれば、自衛隊はアメリカ軍の武器等防護をおこなうことができる。このことは、自衛隊がアメリカの戦争と一体化することにつながるであろう。

 

 第三に、日本政府は、ホルムズ海峡に機雷が敷設された場合について、存立危機事態として集団的自衛権の行使ができるという理解をとっている。しかし機雷掃海自体、極めて危険な行為である。また戦闘中の機雷掃海は、国際法では戦闘行為とみなされるため、この点でも攻撃を誘発するおそれがある。

 

 このように、この自衛隊派遣によって、自衛隊が紛争にまきこまれたり、武力を行使する危険をまねく点で、憲法九条の平和主義に反する。またそのことは、自衛隊員の生命・身体を徒に危険にさらすことも意味する。したがって日本政府は、自衛隊を派遣するべきではない。

【憲法研究者有志】

 

 愛敬浩二(名古屋大学教授)、青井未帆(学習院大学教授)、浅野宜之(関西大学教授)、麻生多聞(鳴門教育大学大学院学校教育研究科准教授)、足立英郞(大阪電気通信大学名誉教授)、飯島滋明(名古屋学院大経済学部教授)、井口秀作(愛媛大学教授)、石川多加子(金沢大学教員)、石川裕一郎(聖学院大学教授)、石塚迅(山梨大学准教授)、石村修(専修大学名誉教授)、市川正人(立命館大学教授)、井田洋子(長崎大学教授)、伊藤雅康(札幌学院大学教授)、稲正樹(元国際基督教大学教授)、井端正幸(沖縄国際大学教授)、岩井和由(鳥取短期大学教授)、岩本一郎(北星学園大学教授)、植野妙実子(中央大学名誉教授)、植松健一(立命館大学教授)、植村勝慶(國學院大學法学部教授)、右崎正博(獨協大学名誉教授)、浦田一郎(一橋大学名誉教授)、浦田賢治(早稲田大学名誉教授)、榎澤幸広(名古屋学院大学准教授)、榎本弘行(東京農工大学大学院准教授)、大内憲昭(関東学院大学国際文化学部教授)、大久保史郎(立命館大学名誉教授)、大津浩(明治大学法学部教授)、大野友也(鹿児島大学准教授)、大藤紀子(獨協大学教授)、岡田健一郎(高知大学教員)、岡田信弘(北海学園大学教授・北海道大学名誉教授)、岡本篤尚(神戸学院大学教授)、奥野恒久(龍谷大学教授)、小栗実(鹿児島大学名誉教授)、小沢隆一(東京慈恵医科大学教授)、小野善康(岩手大学名誉教授)、金澤孝(早稲田大学教員)、片山等(国士館大学大学院法学研究科教授)、金井光生(福島大学准教授)、金子勝(立正大学名誉教授)、彼谷環(富山国際大学教授)、上脇博之(神戸学院大学法学部教授)、河合正雄(弘前大学講師)、河上暁弘(広島市立大学広島平和研究所准教授)、川畑博昭(愛知県立大学教員)、菊地洋(岩手大学准教授)、北川善英(横浜国立大学名誉教授)、木下智史(関西大学教授)、君島東彦(立命館大学教授)、清末愛砂(室蘭工業大学准教授)、清田雄治(愛知教育大学特別教授)、倉田原志(立命館大学教授)、倉持孝司(南山大学教授)、小池洋平(信州大学助教)、小竹聡(拓殖大学教授)、小林武(沖縄大学客員教授)、小林直樹(姫路独協大学教授)、小松浩(立命館大学教授)、木幡洋子(愛知県立大学名誉教授)、近藤敦(名城大学教授)、齋藤和夫(明星大学講師)、斎藤一久(東京学芸大学准教授)、斉藤小百合(恵泉女学園大学教員)、坂田隆介(立命館大学法務研究科准教授)、笹沼弘志(静岡大学教授)、佐藤潤一(大阪産業大学国際学部教授)、澤野義一(大阪経済法科大学法学部教授)、清水雅彦(日本体育大学教授)、菅原真(南山大学教授)、鈴木眞澄(龍谷大学名誉教授)、芹沢斉(青山学院大学名誉教授)、高佐智美(青山学院大学法学部教授)、高作正博(関西大学法学部教授)、高橋利安(広島修道大学教授)、高良沙哉(沖縄大学教授)、高橋洋(愛知学院大学教授)、竹内俊子(広島修道大学名誉教授)、竹森正孝(岐阜大学名誉教授)、田島泰彦(元上智大学教授)、多田一路(立命館大学教授)、建石真公子(法政大学教授)、館田晶子(北海学園大学教授)、千國亮介(岩手県立大学准教授)、長利一(元東邦大学教授)、塚田哲之(神戸学院大学教授)、土屋仁美(金沢星稜大学経済学部講師)、常岡(乗本)せつ子(フェリス女学院大学名誉教授)、寺川史朗(龍谷大学教授)、徳永貴志(和光大学教授)、内藤光博(専修大学法学部教授)、仲哲生(愛知学院大学客員教授)、長岡徹(関西学院大学法学部教授)、中川律(埼玉大学准教授)、永山茂樹(東海大学教授)、中里見博(大阪電気通信大学教授)、中島茂樹(立命館大学名誉教授)、中富公一(岡大名誉教授)、長峯信彦(愛知大学法学部教授)、成澤孝人(信州大学教授)、成嶋隆(新潟大学名誉教授)、西嶋法友(久留米大学法学部特任教授)、丹羽徹(龍谷大学教授)、根森健(新潟大学・埼玉大学名誉教授)、畑尻剛(中央大学教授)、廣田全男(横浜市立大学名誉教授)、福嶋敏明(神戸学院大学教授)、藤井正希(群馬大学准教授)、藤野美都子(福島県立医科大学教授)、古川純(専修大学名誉教授)、前原清隆(元日本福祉大学教員)、松原幸恵(山口大学准教授)、水島朝穂(早稲田大学教授)、三宅裕一郎(日本福祉大学教授)、村田尚紀(関西大学法学部教授)、本秀紀(名古屋大学教授)、森英樹(名古屋大学名誉教授)、安原陽平(沖縄国際大学准教授)、山内敏弘(一橋大学名誉教授)、横尾日出雄(中京大学教授)、若尾典子(元佛教大学教員)、脇田吉隆(神戸学院大学准教授)、和田進(神戸大学名誉教授)、渡邊弘(鹿児島大学准教授)一二五名(11月3日現在)

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