いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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「民主主義への挑戦」というすり替え

 「あの男(安倍晋三)はいい死に方をしないよ」――。森友問題で財務省職員の赤木さんが自殺した時だった。反省もなく居直る為政者について、近所の口の悪い婆さんがニュースを見てそう言っていた。国有地を時の首相のお友だちに二束三文で払い下げるために奔走し、疑惑を糊塗するために、あろうことか公文書を書き換えさせられ、狭間で苦しみ、みずから生命を絶った職員もいたのだ。そうした犠牲のうえに議員生命をつないでいた安倍晋三がなんともあっけない形で射殺された。

 

 テレビをつけると「ご冥福をお祈りいたします」「民主主義への挑戦・冒涜だ」の紋切り型のコメントばかりが並び、テンプレでもあるのかと思うほどである。「いい死に方をしないよ」――。何をもって「いい死に方」とそうでない死に方の違いを分けるのかは置いておいて、あのときの婆さんの言葉通りになったような気がしてならない。まことに死に方としては本人はもちろん周囲にとっても最悪の部類であろうと思うのだ。

 

 いかに政治的主張が異なろうと、殺傷すなわち暴力によって相手を封殺するというようなことはあってはならない。議会は「言論の府」といわれるように、政治とは言論勝負であり、いかなる立場であろうと言論によって主義主張を正々堂々と唱えることは保証されなければならない。そのことによって支持されるかされないかは、最終的に有権者によって峻別されるものなのだ。新聞もしかり。言論こそが武器であり、でかい図体をして忖度ばかりしている巨大メディアがほとんどとはいえ、小さくとも言いたいことをあからさまに言い、自由に書きたいことを書き連ねるスタイルを貫いている媒体だってある。これまた、暴力や経済的圧力によって封殺されてはならないものなのだ。気に入らないからといって、その度に殺傷に訴えるような社会など狂気の沙汰であり、それこそ言論を放棄した先にたどり着くなれの果てであろう。

 

 ただ、今回の場合、伊藤博文、犬養毅など明確な政治的意図をもって殺害された歴代の首相と違って、よくわからない動機によっていきなり元首相が射殺されるという前代未聞の出来事である。一部で取り沙汰されているように、統一教会とその分派による内輪もめがかかわっているというのが事実なのであれば、なぜ元首相ともあろう者が射殺されるまでの事態に至ったのか、その関係性や過激な宗教組織の実態解明にも踏み込まなければ、ただ「民主主義への挑戦・冒涜だ」だけを唱えていても話は明後日の方向にすれ違って、頓珍漢なように思う。

 

 「特定の宗教団体幹部を狙っていた」の供述からも伺えるように、動機が宗教絡みの怨念であるなら、その絡んだ糸を紐解かなければ全容解明にはならないのである。岸信介が設立にかかわったともいわれる新興宗教団体と政治家・安倍晋三界隈の関係性を深く洞察することなく「民主主義への挑戦」に話をすり替えていたのでは、事件の動機や背景に迫ることなどできないのである。

 

 「民主主義への挑戦・冒涜」という点で言えば、それこそ安倍政権の8年とは、まさに民主主義への挑戦と冒涜、否定の連続であった。国会で118回もの虚偽答弁をしたり、挙げ句に公文書を書き換えたり、国有地をお友だちにタダ同然で払い下げしたり、モリカケ桜等々、為政者の好き勝手がなんでもありでまかり通り、それに対して是正する力が機能せず、三権分立の建前などあってないような日本社会のぶっ壊れた姿が露呈してきた。法治国家としての体を為さず、権力を握った為政者がなんのためらいもなく公共を私物化し、公安トップを睨みを効かせる地位にすげることで司法も警察権力もメディアも抑え、その度に問題にはなるが嘘と誤魔化しによってすり抜けてきた8年だったといえる。あまりにもやり過ぎで、これが亡くなったからといって民主主義の象徴みたく英雄視することなどできない。なぜなら、事実にも反するからである。

 

 今回の事件について、メディアが岸信介から連なる安倍晋三とズブズブだった「統一教会」の存在をなきものにして、「特定の宗教団体」という表現に徹するというのなら、それ自体がすでに言論が封殺されていることを自己暴露するものでしかない。忖度しまくりなのである。「言論封殺だ!」とことさら巨大メディアが大合唱している光景を見ていて思うのは、すでにみずから口を閉ざしておいて、何をかいわんやなのである。暴力によって弾圧される云々以前に、金銭的な圧力に屈して見ざる聞かざる言わざるをしているくせに、いまさら「言論封殺だ!」「民主主義への挑戦だ」と叫んでいる姿は滑稽ですらある。なぜか? すでに暴力に屈するよりも以前にカネに目がくらんで自己封殺しているからである。それで何も書けない忖度集団が、何を言っておるのかと――。白々しい問題のすり替えが得意技とはいえ、安倍晋三が狙われたのは宗教的怨念であることは疑いないし、「民主主義」云々とはまるで別問題であろう。その特異な政治的つながりや政教分離の現実についてえぐっていくことこそがジャーナリズムの仕事だと思う。

 

 「いい死に方をしないよ」と話していた婆さん曰く、「死人を悪くいうのははばかられる。ただ、赤木さんだってあの人の犠牲になったことを私は忘れてないよ。人間誰しも悪さばっかりすると必ず罰(バチ)が当たるもんだ。だから、オマエも罰当たりな生き方だけはするな」と説くのだった。黙って聞いていたけれど、言わんとしていることはそういうことなのだろう。

 

武蔵坊五郎      

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この記事へのコメント

  1. 正義の味方 says:

    完全に同感。議会は「言論の府」であるが、その大前提は嘘はつかないがある。安倍はこの基本原則を無視し、嘘をつきまくり、権力の私物化した。つまり民主書義を破壊したのは安倍本人であるのは明らか。大メデイアはこれらを全て忘れて美辞麗句のオンパレード。あきれて物が言えない。法律では被疑者死亡で起訴が行われるように、死んだからといって罪は無くならない。安倍の悪行を無視してはならない。

  2. 緒方恭子 says:

    胸のすく記事をありがとうございます!
    その通りだと思います。民主主義の敵と闘うとは笑わせる、「何をいい子ぶってるんだ」と私も思いました。「しかも、この場合に使う言葉か」と。いかに自分の頭で考えていないかを曝け出して恥ずかしくないのか、見ているこちらが恥ずかしいよと思っていました。
    「特定の宗教団体と深い関係があると思い込み」とNHKのニュースで言っているのを聞き、「その宗教団体の名前を出せ!」「思い込みじゃない、深い関係あるだろう!」とも思いました。
    言いたいことを全部スパッと言ってもらって溜飲が下がりました。やっぱり長州新聞はやめられないです。
    自民圧勝・維新躍進のお粗末はあれど、国会にいてほしい人たちが何人か当選し希望をつないでくれました。倦まず弛まず一歩ずつ進んでいくばかりです。今後もどうぞよろしくお願い致します。

  3. 千葉敦志 says:

    本当に、おっしゃる通りだと思います。

    民主主義の前提は非殺主義です。
    「民を殺さず、殺させず」を実現させる努力をするからこそ政治家は尊敬されてきたのであって、君主のように、貴族のように振る舞わせるために政治家に政権を委ねられていると言う前提はありません。
    私は殺人は許容しません。テロも支持しません。殺す(殺される)前にそれを食い止めるために政治はあるからです。
    厳しい言い方にはなると思いますが、政治家は「命懸けで政治を行っている」ことが前提です。だからSPも付きます。命懸けで彼らを守る人が居ます。政治家が言葉と態度に命を託すからです。そして、彼らの存在は言論の自由を保障するのです。憲法も法律もその事を保障するために作られたものです。
    そして、それを形にした法律があります。その法律は、嘘をついたらいけないと言った小さな事柄から積み上げられています。
    でも、その法律が守られないと受け止められ始めると世の中は荒れます。よもや政治家が嘘や責任逃れ、差別をするなどは許されないわけです。
    それが民主主義の根幹です。政治が政治家の嘘や責任逃れ、差別を許容すれば、それは言論の圧殺に直結するからです。政治が民主主義を圧殺するのです。言ってしまえば民主主義が死んだと判断する人が増えてしまうからです。
    今回は政治の敗北と言っても過言ではないと思います。貴族ごっこ、君主ごっこに興じてきた日本政治の敗北です。
    与野党こぞって「民主主義の根幹を揺るがす大事件」と表現しますが、政治家の皆さんが心ならずも民主主義を否定してきたこの年間のツケを安倍晋三氏は一身に負ったのであると思います。

  4. 元々日本に民主主義ってないですもん。

  5. 浅田政広 says:

    私もTVが特定宗教名を言わないことに違和感を覚えました。長州新聞のさらなる発展を期待しています

  6. 庄司麻美 says:

    全く同感です。安倍晋三が首相に就任してまず手掛けた事はマスコミとの会食でしたね。まるでその後に起こる悪政を考慮しての防御策、記者クラブで流れた記事しか流さない大手マスコミ各社の態勢に亡国日本をみる思いでした。是非これからも胸のすく記事を期待します

  7. 太田 美登里 says:

    狙撃事件が起きてすぐ、NHKニュース見ていたら、「只今、自民党幹部にインタビューしたところ、言論には言論で応ずるべきだ、暴力で応ずるべきではないとコメントが有りました。」と言うアナウンサーの言葉が有りました。まだ、どこの誰が何のために犯行に及んだか、全く分からない時点で!あまりにも、早いコメントに、とても違和感を感じました。プロパガンダの意思を感じました。長州新聞さん、頑張って下さい。カンパ送ります。

  8. 偉くなくても正しく生きる says:

    事件当日から違和感だらけ、ツッコミどころ満載の報道が続き、自分がおかしいのかとさえ思っていたところ、理路整然と完璧な文章をお示しくださり、日本にも同じ考えの報道機関があることに嬉しく思いました。これからも応援させていただきます。

  9. あっくん says:

    つまるところ、安倍氏銃撃事件は「民主主義への挑戦」なんかではなく、「カルトに人生を狂わされた男の、カルトと手を組んだ元首相への復讐」なんですよね。

  10. 金沢朱美 says:

    今回、真のリベラル野党までもが、曖昧、情緒的な国民の同調圧力を恐れてか、民主主義の破壊だ、挑戦だ等と宣いますが、民主主義を葬り去ったのは自民党、特に安倍政治です。フランスは流血革命で民主主義を生み、韓国は現代でさえ、国民の大多数の意思で合法的に悪徳政治家を処刑するなり、収監するなりしています。日本に民主主義が根付いているならば、安倍氏は今頃、収監中でしょう。日本人の曖昧さ、情緒的行動がここに極まれりで、恥ずかしく情けないです。だから、日に日に日本の国力は凋落し、中進国、後進国になっていっている。多くの日本人はそれも見たくない、認めたくない。50年後位に、世界地図を広げて、世界の子どもたちが「極東のここら辺に、昔、日本という国があってね」等と小学校で学ぶのではないかと想像して戦慄を覚えます。長周新聞様、権力に決せず、これからも正論を吐いてください。

  11. 私も、安倍さんはいつかはしっぺ返しが来ると思っていました。
    考えもしない出来事でしかも呆気なく何かが身にのしかかるんではと
    危惧していたら、やっぱりって感じました。
    赤木さんをはじめ安倍さんに泣かされた方々は浮かばれません。
    人を泣かすと自分が泣かされるって幼い頃から祖母に良く言われてました。
    まさにその通りになったんだって一報を聞いたときに感じました。
    物事には限度って物があると思いますが安倍さんは自分の権力の限度を
    超えてしまった行く末を見た気がします。

  12. 京都のジロ- says:

    小出裕章先生のメッセージを添付いたします。

    アベさんに対する銃撃について思うこと
                 小出裕章

     アベさんが銃撃を受けて死んだ。
     悲しくはない。
     アベさんは私が最も嫌う、少なくとも片手で数えられる5人に入る人だった。
     アベさんがやったことは特定秘密保護法制定、集団的自衛権を認めた戦争法制定、共謀罪創設、   フクシマ事故を忘れさせるための東京オリンピック誘致、そしてさらに憲法改悪まで         進めようとしていた。
     彼のしたこと、しようとしてきたことはただただカネ儲け、戦争ができる国への道づくりだった。
     アベさんは弱い立場の国・人達に対しては居丈高になり、強い国・人達に対してはとことん     卑屈になる最低の人だった。
     朝鮮を徹底的にバッシングし、トランプさんにはこびへつらって、彼の言いなりに膨大な      武器を購入した。
     彼は息をするかのように嘘をついた。
     森友学園、加計学園、桜を観る会、アベノマスク…
     彼とその取り巻きの利権集団で、国民のカネを、あたかも自分のカネでもあるかのように      使い放題にした。
     それがばれそうになると、丸ごと抱え込んだ官僚組織を使って証拠の隠ぺい、改ざん、       廃棄をして自分の罪を逃れた。
    その中で、自死を強いられる人まで出たが、彼は何の責任も取らないまま逃げおおせた。
     私は彼の悪行を一つひとつ明らかにし、処罰したいと思ってきた。
     私は一人ひとりの人間は、他にかけがえのないその人であり、殺していい命も、殺されていい命も、一つとして存在していないと公言してきた。
    アベさんにはこれ以上の悪行を積む前に死んでほしいとは思ったが、殺していいとは思っていなかった。
     悪行についての責任を取らせることができないまま彼が殺されてしまったことをむしろ残念に思う。
     多くの人が「民主主義社会では許されない蛮行」と言うが、私はその意見に与しない。
     すべての行為、出来事は歴史の大河の中で生まれる。
     歴史と切り離して、個々の行為を評価することはもともと誤っている。
     そもそも日本というこの国が民主主義的であると本気で思っている人がいるとすれば、それこそ不思議である。
     国民、特に若い人たちを貧困に落とし、政治に関して考える力すら奪った。
     民主主義の根幹は選挙だなどと言いながら、自分に都合のいい小選挙区制を敷き、どんなに低投票率であっても、選挙に勝てば後は好き放題。
    国民の血税をあたかも自分のカネでもあるかのように、自分と身内にばらまいた。
     原子力など、どれほどの血税をつぎ込んで無駄にしたか考えるだけでもばかばかしい。
     日本で作られた57基の原発は全て自由民主党が政権をとっている時に安全だと言って認可された。
     もちろん福島第一原発だって、安全だとして認可された。
     その福島原発が事故を起こし、膨大な被害と被害者が出、事故後11年経った今も「原子力緊急事態宣言」が解除できないまま被害者たちが苦難にあえいでいる。
     それでも、アベさんを含め自民党の誰一人として、そして自民党を支えて原発を推進してきた官僚たちも誰一人として責任を取らない。
     もちろん裁判所すら原発を許してきた国の組織であり、その裁判所は国の責任を認めないし、東京電力の会長・社長以下の責任も認めない。
     どんな悲惨な事故を起こしても誰も責任を取らずに済むということをフクシマ事故から学んだ彼らはこれからもまた原子力を推進すると言っている。
    さらに、これからは軍事費を倍増させ、日本を戦争ができる国にしようとする。
     愚かな国民には愚かな政府。
     それが民主主義であるというのであれば、そうかもしれない。
     しかし、それなら、虐げられた人々、抑圧された人々の悲しみはいつの日か爆発する。
     今回、アベさんを銃撃した人の思いは分からない。
     でも、何度も言うが、はじめから「許しがたい蛮行」として非難する意見には私は与さない。
     心配なことは、投票日を目前にした参議院選挙に、アベさんが可哀想とかいう意見が反映されてしまわないかということだ。
     さらに、今回の出来事を理由に、治安維持法、共謀罪などが今まで以上に強化され、この国がますます非民主主義的で息苦しい国にされてしまうのではないかと私は危惧する。

  13. 朝野祥雲 says:

    統一教会からオカネをすいあげていたんですね

  14. 浅野 郁代 says:

    民主主義の冒涜、自民党の支持率アップ、国葬?そんなのおかしいでしょ!と思っていたら。テレビでは当然のようにそれを垂れ流すので、ふっと私がおかしいのか?と不安になるほどでした。私は武蔵坊?さんがかいているのとほぼ同じことを羽鳥のモーニングショーにメールで書き続けています。
    今日の最後の方で良純さんが確かに民主主義が危ういとは感じると、大勢よりのコメントを言いました。
    えっ?おかしくない?と思いはするが大勢が正しくて私がおかしいの?と一瞬感じてしまった。そんなはずないと、ネットで調べたら長周新聞武蔵坊さんの記事を発見しました。
    それに続く賛同のメールを見て本当に安心してしまいました。
    今の安倍よりな大勢を認めたらかつて軍部に流された日本の二の舞だと不安にになります。
    そして、今なお日本人の大多数がかつての流されやすい日本人と変わってないことを知り、震えがくるほどショックです。
    なんとか岸信介に始まり、霊感商法、政治への忍び寄り、自己保身の為の弱く真面目な庶民の犠牲の上に成り立つ統一教会への賛同政治などの真実を冷静に分析してこの事件が大勢が言うようなものでないと判断し、殺され方に感情的に反応して再びかつての日本のように、政治家たちの思う壺にハマることは避けなければならない。

  15. 民主主義を壊そうとしたのは安倍であるのでは?
    権力を持った者が自分の都合の良い様に制度を変えるのは民主主義ではない。
    安倍政権ではそれが行われていた。
    以前はマスコミも発信していたが、この事件後変わってしまったことが残念であり今後が不安になる。

  16. 何故、安倍晋三が称賛されるかわかりませんでした。やはり称賛されるべきではありませんよね。北朝鮮拉致問題、最優先事項と言いながら、何一つ進捗していません、北方領土、お金とられてプーチンにやられ放題。アベノミクスは一部の人だけが恩恵を受けて、国会では嘘、八百。国葬するならしたい谷が金をだせ、国の借金どんなけあるか知ってるの?何故税金使うかわからない。森友案件では赤木さんの命がなくなってる。安倍の命と赤木さんの命の重さは違うのでしょうか??

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