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阿武町で始まった海山交流 イージス・アショア反対の思い訴え 福賀地区の住民ら町内にお願い

下から町民の結束作り出す

 

山あいの集落の農業者に訴える(阿武町宇田)

 陸上自衛隊むつみ演習場にイージス・アショアを配備する計画が浮上して1年余りが経過した。この間、演習場に隣接する阿武町福賀地区の住民たちは、農事組合法人や自治会、女性グループが反対の要望書や請願書を町や議会に提出し、郷土の未来を揺るがすこの計画に対して粘り強く配備反対の運動をおこなってきた。2月には福賀地区の20歳以上の住民の72・9%にあたる380人が会員となって「イージス・アショア配備に反対する阿武町民の会」(吉岡勝会長)を結成した。会の役員には福賀地区の農事組合法人の関係者や女性グループのメンバー、子育て世代でもある40代の農業者など幅広い年代の住民16人が名を連ねている。会の設立当初から「会として反対表明をしている町長をどうしたらバックアップできるか。また町全体として反対していくために、純粋な気持ちを奈古、宇田地区に伝え反対の会を広げていきたい」という具体的活動を提示しており、さっそく5日には女性の役員4人が宇田地区の住民を一軒ずつ訪ねて回った。イージス・アショア配備反対の住民一人一人の意志を束ねていく地域交流が始まっている。

 

 今回、宇田地区を訪れたのは福賀地区で農業組合法人の活動や町づくりの中心を担ってきた女性たちだ。「これまで阿武町は人口減少や後継者不足等が深刻化するなかで、地道に“選ばれる町づくり”を推進してきたが、イージス・アショアの配備はあまりにも大きなリスクであり、防衛省の説明は、住民の思いに寄り添わない一方的な押しつけに過ぎない」「私たちは、この地を愛し、この地を次世代につなぐ使命がある。それは、農地を耕し、今日まで努力し続けてくださった先人たちに対する私たちの責任でもある」「そのため、地方創生の根底を揺るがし、故郷を次世代につなげていくための妨げの要因となる、イージス・アショアの陸上自衛隊むつみ演習場への配備計画の撤回を強く要望する」との思いを広く訴えてきた。

 

 この日のために作成した町民の会のチラシには「今あなたの賛同と協力が是非必要です」「希望のもてる地域づくりと、美しい故郷を次世代につなげていくために『阿武町民の会』を設立致しました」とあり、設立の趣旨が書かれている。

 

 宇田地区は定置網が盛んな漁師町。国道を隔てて山側にも集落が点在している。女性たちは山側の集落を担当し、宇田地区の世話役の女性の案内で山側の葛篭(つづら)、郷、平原の三集落を一軒ずつ訪問し、「阿武町民の会」への入会を訴えて回った。ちなみに海側の漁師町は後日、男性役員が回ることになっている。

 

 車で入るのが困難なほど急傾斜の山間の集落もあったが、女性たちは一軒一軒地道に訪ね歩き、「私たちは福賀から来ました。イージス・アショアに反対しています。福賀では七割の方が町民の会の会員になっております。この会を奈古や宇田にも広げたいと思って、今日みなさんを訪ねています。ぜひ協力よろしくお願いします」「花田町長さんが全国に向かって反対の声を上げました。町長さんの後押しをするためにも、町民みんなの力が必要です。ぜひ町民の会に入会していただきたい」と訴えた。

 

 住民たちは訴えにうなずきながら、「町長も反対してるもんね」「ご苦労さま」「協力するよ」といって署名した。70代の女性は、「テレビでいつもあなたたち宇生賀(福賀地区)の人たちの反対の活動を見ているよ。防衛省がいくら説明しても、電波調査や水質調査をしても住民は納得しないよ。ご苦労さん。頑張ってくださいね」と声をかけ、女性たちは「私たちの気持ちがわかってもらえて嬉しい。一緒に頑張ろうね」と握手を交わす場面もあった。

 

 宇田地区は地域コミュニティが強く、さまざまな寄り合いが頻繁におこなわれる地域でもある。3月3日のひな祭りの寄り合いの場でも、イージス・アショア配備について論議になったといい、「3日に話を聞いたよ」といって協力する住民もいた。また、ちょうどこの日は宇田八幡宮の地下祭りがおこなわれており、集会所の寄り合いに十数人の住民たちが集まっていた。女性たちはそこにも訪れ「町民の会」への入会を訴えた。阿武町の海側に位置する宇田地区と、山間部の福賀地区の住民同士の日常的な交流はあまりないが、地域の祭りや町の行事を通じて互いに知った顔もあり、「お久しぶりね」「お元気にされていましたか」と再会を喜びあい、「うちの孫が宇生賀でほうれん草を作っているよ」「あなたたち頑張っているね。あんなものを作らせたらいけない」といって協力した。

 

 母親が住む実家の田んぼの草刈りに来ていた萩市在住の男性(60代)は、訴えに快く協力し「阿武の人はたいしたものだ。町長は配備反対をはっきりと表明している。萩市の藤道市長は賛成なのか反対なのか態度がはっきりしない。もしアショアができればこの辺り一帯が他人事ではないよ。ご苦労様」といって女性たちの熱心な活動をねぎらった。

 

 女性たちは、住民一人一人と顔を合わせながら訴えるなかで、「仲間が増えていく気がするね」「みんな協力してくれて手応えがあるね」とイージス・アショア反対の運動に確信を深めながら、戸別訪問を続けた。また自分たちが住む福賀地区より一足早く咲いた集落の花や畑の作物にも関心を寄せながら、半日かけて宇田を回った。

 

 戸別訪問を終えた宇生賀の女性は、「阿武町に住んでいながら、宇田のこの地区に来たのも初めてで、一軒ずつ訪問するのも初めての経験だった。この地域はイージス・アショアの計画地から離れてはいるが、みなさんとても関心を持っておられることがわかった。いろんな意見を聞くことができてうれしかった」と語った。福田の女性は「イージス・アショア配備計画を知ったときから、何かしないといけないのではと思っていたが、町民の会ができてこのように地区をこえて仲間づくりができることは本当にうれしい。私も会設立のために、地元を一軒ずつ歩いた。顔見知りでもあるが協力してくれた。今日は宇田の世話役さんが私たちを案内して回ってくれとても心強かった。明日からの奈古地区は今日のようにすんなりとはいかないかもしれない。厳しいだろうけど頑張ろうね」と意気込んでいた。

 

 宇田を案内した世話役の女性は、「今回、私たちは本気になって動いている。防衛省がいくら説明したとしても、住民やこれからの子どもの命にかかわる問題だ。イージス・アショアの配備計画に対して阿武町民がどのように動いたか、私たちのこの活動はのちに歴史に残ることになる」と話した。女性たちは「今日“自民党員だから”という理由で思いがけずイージス・アショアに賛成する人もいた」「私たちも自民党に関係しているけど、今の自民党の数の力で全部決めていくやり方はおかしい」「国会中継を見ていても、政治家や国家公務員がこれほど嘘をいったり逃げまくる姿をさらすことはこれまでなかった。森友学園の問題も全部うやむやにしてしまった。安倍さんになってから自民党は数の力でおごってしまっている」と口口に論議しながら、「自分たちの町にふりかかった火の粉は自分たちで払わないといけない」と、翌日からの戸別訪問の予定を確認しあった。

 

町民の会防衛相宛に要望書提出

 防衛省は昨年から地元説明会や適地調査、水質調査、電波調査などを進め、配備計画を既成事実化しようとしている。

 

 町民の会はこのような動きに対して、2月22日に防衛大臣と中国四国防衛局長あてに、「イージス・アショア配備に反対する」要望書を次のような内容で提出している。

 

 「降って湧いたように“むつみ演習場へのイージス・アショア配備計画”が何の前触れもなく発表され、幾度かの住民説明会、適地調査のための現地説明会が行われてきたが、防衛省側の一方的な説明であり、地元住民の理解は全く得られていない。イージス・アショアは世界初の電磁波出力であり、人体への健康被害や家畜、農作物への影響、さらにはこれらの影響を伴う風評被害、ブースター落下や他国からの攻撃目標とされることも懸念されることから不安な毎日を強いられている。わたしたちは、“先人が育んできた故郷を次世代につなぐため”、農地の圃場整備、農事組合法人の設立、地域環境の保全等に地域全体として取り組んできました。むつみ演習場への配備は、“町民の安全・安心や平穏を著しく損なうことにつながる”“これまで進めてきた地域づくりの足かせになる”ことから、配備反対を強く求めます」。

 

 そして地元説明会、現地説明会について「住民側に立って丁寧な説明を求め、住民の質問に対し、口頭での説明ではなく文章での回答を求めること」などについて具体的回答を求めている。

 

 宇生賀の女性は、「日本に陸上自衛隊のレーダーが28カ所ある。いずれも人家のないところだ。それなのに日本で初となるイージス・アショアをこんな人家に近い場所に配備することはおかしい。国は自衛隊の土地だからちょうどいいと考え計画したのだろうが、民家やため池があることなど、何も調べなかったのだろう」「イージス・アショアもアメリカに高いお金で買わされて、グアムを守るためのもので、日本には必要ないものだ。防衛省は“地元の理解を得て”というが、理屈の問題ではなくイージス・アショアは阿武町にはいらないということだ。短期間のうちに町民の会を広げていきたい」と語り、全町民を巻き込んで運動を広げていく意欲を募らせている。

 

 なお13日には阿武町議会の一般質問がおこなわれるため、みなで傍聴に行こうと動いている。

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