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電気止められる自治体相次ぐ 燃料高騰し新電力が撤退 下関市では12施設が停止に

 日本国内の発電の7割以上を占める火力発電の発電燃料である石炭やLNG(液化天然ガス)の輸入価格高騰の影響により、これまで格安で電力供給をおこなってきた「新電力」の倒産や事業撤退、供給停止、値上げなどが全国の自治体や企業であいついでいる。突然供給が途絶えた自治体などは、大手電力会社がもうけているセーフティネットである「最終保障供給」へと駆け込み停電という最悪の事態は免れているものの、もともと格安を売りにしていた新電力との契約から、大幅に電気料金負担が増えている。最終保障供給が受けられるのは原則1年以内であり、各自治体は新たな取引先を探して入札をおこなうが、入札不調や最悪の場合には応札なしなど、電力供給の不安定化が深刻な問題となっている。

 

 新電力とは、2016年の「電力小売自由化」以後、小売り電気事業を営むために経産大臣の登録を受け、従来電力小売をおこなってきた電力大手10社(東京電力や中国電力など)以外の新規参入事業者として電気を供給する企業のことだ。

 

 電力自由化以前は、電力大手が発電、送電、小売をおこなっていたが、電力自由化によって小売部門に他の企業が参入。新電力の多くが自社で発電するのではなく、市場取引や発電会社から電気を購入して販売している。また、みずから発電している新電力も、送電設備は電力大手が所有する送配電網を借りる形で供給をおこなっている。

 

 しかし今年1月以降、ウクライナ危機などの影響で火力発電の燃料である石炭やLNGが値上がりし、日本卸電力取引所(JEPX)での電力取引価格が高騰。そのため自社で発電設備を持たない新電力は調達コストが急上昇した。

 

 こうした経緯から、新電力会社がコスト増を理由に電力小売り事業から撤退し、それまで契約していた自治体が突然電気を止められ「電力難民」の危機に晒される事態が増えている。自治体は停電を免れるために大手電力がもうけた救済制度である「最終保障供給」に駆け込み、割高な電力を購入している。また、電力小売り事業からの撤退や停止をせずに事業を継続している新電力も、自治体に対して続々と値上げ通知をおこなっており、各自治体の電気代負担は大幅に増えている。

 

下関市の実情 電気代負担ばかり増え

 

 下関市も今年、新電力の撤退により電力供給が停止された。市内12施設で契約を結んでいた新電力「ホープエナジー」(福岡市)が、3月中旬に突然「約1週間後に供給を止める」と通知して来たのだ。

 

 同社は自治体や公官庁向けの電力販売で業績を伸ばし、昨年の累計電力販売量は全国の新電力のなかで16位と手広く事業を展開していたが、燃料高騰の影響で業績が悪化し、最終的に300億円の負債を抱えて破産した。

 

下関市役所

 供給停止の通知を受けた下関市は、市が管轄する庁舎1カ所、教育施設1カ所、水道や環境施設などの「インフラ施設」10カ所の計12施設の電力供給が停止することになった。突然一方的に電力供給を断たれた下関市は、その時点から中国電力ネットワークの最終保障供給を利用して電力供給を受けている。

 

 最終保障供給を受けられる期間は原則1年以内だが、申請すれば延長も可能だ。しかし料金は中国電力ネットワークの標準メニューよりもさらに2割高く設定されており「電力供給は保障するがその分料金は高い」という保険のようなものだ。また9月分の最終保障供給料金はさらに値上げされることも決まっており、このまま供給を受け続ければ電気料金負担が大きくなるため、下関市も新たな契約先を探す必要に迫られている。

 

 だが、契約状況は厳しい。同市が倒産したホープエナジーと契約していた12施設をめぐっては、すでに施設の担当課ごとに新たな契約のための入札をおこなっている所もあるが、下関市側の要求額に見合うものはなくいずれも高額だったため、すべて入札不調に終わっているという。担当部署によると、「年度期間中ということもあり設定金額を大幅に上げることは予算的に難しい」という。

 

 また、倒産したホープエナジー以外にも、下関市は多くの新電力と契約しており、昨年度末時点で本庁舎を含む74施設で新電力から電力供給を受けている。基本的に公民館など小規模施設で使用する低圧電力は対象となっておらず、高圧電力を使用した比較的大きな施設が新電力と契約しているという。こうした施設の電気料金についても、新電力会社から「値上げ通知」が続々と届いているという。

 

 市の担当部署は「現時点では新しい供給先が簡単に見つからないため、値上げ要請は受け入れざるを得ない」といい、電力供給を受ける側が厳しい立場となっている。また、下関市の電気代負担が現時点でどれほど増えているかについて市に聞くと、「現在入札もおこなわれているなかで具体的な数字を示すことはできず、“増加している”としかいえない」とのことだった。

 

新電力の14%が倒産 全国で電力難民が続出

 

 帝国データバンクの調査によると、この間経営悪化により新規契約停止や撤退・倒産した新電力は今年6月上旬時点で104社にのぼった。全事業者738社(8月18日時点)の14%にあたる。こうしたなか、日本全国の自治体でも電力供給が打ち切られて最終保障供給に駆け込んでおり、新たな契約先が見つからないケースが続出している。

 

 宮城県仙台市では今年3月、新電力「エフパワー」と「ホープエナジー」の2社の撤退・倒産をうけ、電力供給が途絶えた。東北電力ネットワークの最終保障供給制度を利用しているが、大幅に電気料金が上がっている。

 

 同市はエフパワーから昨年12月に雨水ポンプ場2カ所の電力供給を今年3月までに打ち切るとの通達をうけた。1月と2月に入札をおこなったがいずれも不調に終わっており、4~9月の電気料金は2施設だけで計約1740万円の負担増となる見込みだ。また、ホープエナジーから供給を受けていた庁舎など6施設の電気料金も4~9月の半年で1290万円の負担増と見られている。

 

 茨城県東海村では、ホープエナジーの倒産により、役場庁舎や小中学校など30の施設で電力供給が途絶えた。契約先を東京電力エナジーパートナー(東京)に切り替えたが、当初2億1391万円と見込んでいた30施設の電気料金は3億5196万円と約1・6倍に膨らむ見込みとなっている。

 

 宮崎県日向市では、市内16の小中学校などに電力を供給していた新電力会社「ウエスト電力」(広島)が撤退し、契約期間途中の今年4月で供給を打ち切った。市は5月から九州電力送配電の最終保障供給を利用しているが、電気代は5~12月だけで当初の予定よりも約2500万円増える見込みとなっている。

 

 日向市教育委員会は、小中学校に対して放課後は教室の電気を消し、教職員は分散せずに職員室に集まって業務をおこなって節電するよう求めている。契約期間中に突如撤退したウエスト電力に対して日向市は、約2500万円の損害賠償を求める裁判を起こす議案を市議会に諮り、6月24日に全員一致で議決している。

 

 ウエスト電力に対しては同様の経緯から福岡県大牟田市も約5000万円の損害賠償請求を決めている。このほかにも福岡県内では、久留米市、うきは市、小郡市、大刀洗町がウエスト電力と契約していたが、これら4市町は同社から和解金(約1500万円など)を受けとることで合意している。

 

 ウエスト電力はこのほかにも、愛知県一宮市、愛媛県松山市などとも契約していたが、これらの自治体との契約はすべて打ち切られている。松山市では市内の浄水場や下水処理などの上下水道施設、小中学校など140施設の電力をウエスト電力に打ち切られている。

 

 この間倒産した数社をあげただけでもこれだけの自治体で電力供給が途絶え、大手電力会社の最終保障供給に駆け込んでなんとか電力停止を免れているという状況だ。安さを売りにした新電力によって、たしかに自治体の電気料金負担は電力自由化以前よりも抑えられていたかも知れない。だが、今回のような燃料費高騰が長期化した場合、新電力にとって電力の安定供給など二の次で、社会的責任を放棄して姿を消していくという現実が露呈した。「自由競争」の名の下に無責任な企業を野放しにする電力自由化という制度そのものの欠陥が問われなければならず、規制強化が求められる。

 

 また、こうした事態が今後も起こり得るという認識の下で、自治体の電力契約は安さだけに飛びつくのではなく、公共のための安定供給を保障するという立場から取引先を吟味する必要がある。

 

輸入燃料高騰でバイオマスも撤退続き

 

 燃料代の高騰によって事業が困難に陥り不安定化しているのは、火力発電だけではない。近年急増しているバイオマス発電も、燃料の木質ペレットや木質チップなどの燃料が高騰していることにより事業撤退があいついでいる。

 

 今年2月には、日本製紙が岩国市の自社工場敷地内で計画していたバイオマス発電建設計画を中止した。この計画は発電規模11・2万㌔㍗という大規模な事業で、2017年からアセス手続きを始めていた。しかし燃料の価格上昇により発電コストが増すなどして採算が見込めなくなったことから計画中止を決めたという。同社は秋田市でも11・2万㌔㍗のバイオマス発電建設を計画していたが、2019年に十分な事業性が見込めないことから撤退を決めていた。

 

 また、福井県坂井市でバイオマス発電(発電規模3・3万㌔㍗)建設を計画していたバイオマスフューエル(東京)も今年3月に計画を断念した。燃料のアブラヤシの殻の価格が高騰し、安定的な燃料調達の見通しが立たなかったことなどが原因だという。

 

 今年に入って木質バイオマス発電の燃料となる木質ペレットや木質チップの価格は高騰している。財務省貿易統計によると、昨年の木質ペレットの輸入単価は1㌔あたり19・7円だったが、今年6月時点では同26・4円にまで跳ね上がっている。木質チップも同様に、昨年の19・4円から今年6月は25・5円となっている。

 

下関市彦島で稼働中の「下関バイオマスエナジー」

 

 また、アブラヤシの実から搾りとられる「パーム油」を燃料にしたバイオマス発電所は日本国内に8施設あるが、調達価格が著しく値上がりしているため、そのすべてが昨年春から稼働停止に追い込まれている。

 

 バイオマス発電をとりまく状況が厳しくなっているなか、下関市長府扇町の工業団地では、新たなバイオマス発電建設が進んでいる。「長府バイオマス発電所」は、シンクタンクやコンサルタントを手がける山口大学のベンチャー企業「MOT総合研究所」が企画。そこへ石油資源開発、東京エネシス、長府製作所、川崎近海汽船が出資して設立した「長府バイオパワー合同会社」が事業主体となって運営する。

 

 発電のための燃料はベトナムやタイから輸入する木質ペレットであり、発電規模は約7・5㌔㍗で国内のバイオマス発電所としては最大規模だ。一般家庭17万世帯分に相当する年間約5億2000万㌔㍗アワーの電力を発電する。2024年4月に試運転を始め、翌2025年1月に営業運転を開始する予定で、発電した電力は国の固定価格買取制度(FIT)を利用して中国電力ネットワークに販売する計画となっている。

 

 下関市内では彦島でも今年2月から、九電みらいエナジー㈱、西日本プラント工業㈱、九電産業㈱が出資する下関バイオマスエナジー合同会社が「下関バイオマス発電所」(発電規模約7・5㌔㍗)の営業運転を開始している。

 

 日本国内のバイオマス発電容量は昨年6月時点で530万㌔㍗(原発5基分)だが、政府はこれを2030年までに800万㌔㍗まで引き上げることを目標にしている。今後もバイオマス発電建設計画が国内で増えることが予測される一方で、燃料高騰など発電コスト増による事業計画の中止や、稼働中の発電所の赤字経営も危惧されている。

 

 そもそも、バイオマス発電については「本当にエコなのか」という疑念が世界的にある。「カーボンニュートラル」といって燃料の木材を確保するために世界中の森林を伐採して日本に輸入する。そして木材の加工や陸上・海上輸送のためにCO2を大量に排出する。実際に経産省がまとめた試算によると、北米産の木質ペレットを輸入して発電する場合、全行程におけるCO2排出割合は、輸送が5~6割、加工が3~4割、そして発電による排出は1~2割だった。発電ではCO2をほとんど出さないが、それ以前の行程で大量に排出しているということだ。そして今後さらにバイオマス発電所が増えることで、今以上に燃料争奪戦が激化し、世界中の森林伐採は進むことになる。

 

 バイオマス発電について国連の関係部署も報告書のなかで「燃料の生産から加工、輸送も含めた全行程で見て、温室効果ガスの排出量が化石燃料よりも少ないかを確認する必要がある」と指摘している。またヨーロッパでは、すでにバイオマス発電を「再エネ」として認めない事例も増えている。

 

 新電力にせよ、バイオマス発電にせよ、電力事業をめぐって電力供給という責任を放棄して簡単に撤退や建設計画を中止する企業が増えていることが問題だ。発電コストが増えて採算が合わないからといって手を引くことができるような計画なら、端から日本の電力需要に応えるための事業ではなく「もうけ話」でしかなかったと見られても不思議ではない。重要な生活インフラである電力供給までもがビジネスとなっており、その結果深刻な電力の不安定化を招く事態となっている。

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