いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

文字サイズ
文字を通常サイズにする文字を大きいサイズにする

民主主義圧殺する暴力的な基地建設 佐賀では漁協上層部が組合員の同意なくオスプレイ配備容認  

 佐賀空港へのオスプレイ配備や馬毛島への米軍空母艦載機訓練場整備、南西諸島へのミサイル基地配備など、日本全国で地元住民の口を封じ、問答無用で軍備増強を押し付ける暴力的手法があらわになっている。これらの計画をめぐって防衛省や米軍は「国防のため」「国民を守るため」と宣伝した。だが米軍再編計画決定から15年以上へた現実は「国民を守る」どころか、日本全土を米本土防衛の弾よけにするものでしかなかった。そもそも在日米軍再編で日本はどのように変貌してきたのか、記者座談会で問題の性質を整理した。

 

◇        ◇

 

  佐賀空港へのオスプレイ配備を巡る防衛省の手口はあまりにも強引すぎる。佐賀空港をめぐっては同空港建設時(1990年3月)に佐賀県有明海漁協が佐賀県と「自衛隊との共用はしない」という公害防止協定を結んでいた。それは第二次世界大戦を経験した先人の痛恨の悲願が込められ、佐賀空港が爆撃対象になるようなことは未来永劫認めないという強い意志にもとづく協定だった。この公害防止協定があるため、いくら防衛省がオスプレイ配備を進めようとしても計画は動かなかった。

 

 だが2年前に就任した西久保組合長のもとで非公開会合が何度も持たれ、公害防止協定見直しに向けた密室協議が始まった。当然、漁師や地域住民の猛反発にあい、10月中旬は「繁忙期はいったん置く」という拮抗状態になっていた。ところが今月1日、ノリ漁で漁業者がもっとも忙しい時期を見計らって、漁協総会での採決もしないまま、西久保組合長と気脈を通じた上層部だけで「公害防止協定」の見直しを決定した。

 

  すると大手メディアが示し合わせたように「漁協が容認した!」と1面トップで一斉に扱い「もう決まったこと」「反対しても無駄」という既成事実化を煽った。漁協の組合員からすれば、まともな説明もなく賛成もしていない公害防止協定見直しが勝手に決められ、オスプレイ配備計画が動き出し、その結果、有明海のノリ漁が壊滅的打撃を受ける問題だ。この対応のどこが「国を守る」「国民の安全を守る」なのかだ。

 

  米軍空母艦載機訓練場建設が動く馬毛島基地問題を巡っても、住民無視の動きは露骨だ。馬毛島のある西之表市では昨年1月の市長選で基地反対を公約に掲げた八板市長が当選したが、防衛省は八板市長を一本釣りし「基地推進」へとり込んでしまった。八板市長は「基地反対」といわなくなり「時期がくれば賛否表明する」とどっちつかずの対応を続け、賛否表明をしないまま基地建設手続きを進める手法をとった。

 

 9月議会では馬毛島基地建設に歯止めをかける「切り札」とされていた馬毛島小中学校跡地(市有地)を防衛省に売り飛ばす議案成立を主導し、「行動を見れば裏切りだ」「選挙公約を守らないなら市長を辞職せよ」と住民から怒りが噴出した。「基地反対」の公約で当選して「基地推進」をやるのだから「選挙詐欺」ともいえる行為だ。「北朝鮮や中国は独裁だ」「日本やアメリカは民主主義の国だ」とメディアはよくいうが、日本の現実はとても民主主義といえるようなものではない。

 

  佐賀でも馬毛島でも基地建設反対の声は強く、住民は諦めていない。だから上層部だけ一本釣りして勝手にことを進めたり、選挙公約を覆して強引に諦めさせようとするわけだが、これは戦時中、日本の国民みなが戦争には反対なのに、無理矢理戦地にかり出していった手口とまったく同じだ。この暴力的で民主主義を否定する手口こそ国民を戦争に動員し、国民を死地に追いやる軍隊、そして戦時国家の性質そのものだ。

 

米軍再編計画の全体像

 

  佐賀空港へのオスプレイ配備へつながる米軍再編計画は2006年に日米政府が発表した。
 1995年9月に沖縄で米兵による少女暴行事件が起こり、2004年8月には普天間基地所属の米軍ヘリが沖縄国際大学に墜落した。それは沖縄戦で肉親を奪われた経験や戦後の米軍犯罪・事故への怒りを重ねて「米軍は日本から出ていけ」と基地撤去世論が一気に高まった時期だった。このとき「沖縄の負担軽減」ばかり強調し、いかにも沖縄の米軍基地を縮小するかのような装いで提示したのが在日米軍再編計画だった【在日米軍の主な再編構想の図参照】。

 

  沖縄関連の米軍再編計画は、普天間基地移設(普天間飛行場代替施設建設を辺野古に設置)と米兵のグアム移転(約8000人の米兵とその家族9000人が沖縄からグアムに移転。移転部隊は機動展開部隊等の司令部)が柱だ。グアムに新設する施設やインフラ整備費(算定額102・7億㌦)は日本側が約6割(60・9億㌦)負担すると決めていた。

 

 もう一つは基地返還で、返還対象はキャンプ桑江や普天間飛行場等6施設だった。同時に返還対象施設の機能で在沖米軍が必要とする機能はすべて沖縄県内に移設するとも規定していた。

 

 さらに米軍基地3カ所(嘉手納、三沢、岩国)で実施していた米軍戦闘機の訓練を築城、新田原、百里、小松、三沢、千歳の6空自基地に移転することもうち出した。

 

  首都圏関連では「キャンプ座間に米陸軍司令部を受入れ、そこへ陸上自衛隊中央即応集団司令部を移転」「在日米軍司令部と第五空軍司令部のある横田飛行場に航空自衛隊航空総隊司令部を移転」という司令部移転が最優先課題だった。首都圏に日米共同統合運用調整所(ミサイル防衛拠点)を設置し、横須賀基地に原子力空母を配備する計画もあった。

 

 それと岩国基地への厚木基地移転(厚木の空母艦載機57機、米兵1600人を岩国に配備)だ。岩国では普天間基地の空中給油機12機(米兵300人)を移転させ、岩国周辺へのNLP(空母艦載機夜間離着陸訓練)基地を建設する計画も動き出した。

 

 A この在日米軍再編構想は個別の訓練移転や一部の地域の計画だけ部分的に切りとると、確かに沖縄の基地を返還したり、在沖米軍のグアム移転など「基地縮小」「負担軽減」のような内容もある。だが米軍再編計画最大の肝は陸海空自衛隊を丸ごと米軍の直接指揮下に置き、日本全土を沖縄化することだった。

 

 このころ米軍は「対テロ」を口実に開始したイラクやアフガニスタンへの侵略戦争で犠牲者が続出したうえ、米国内でも反戦行動が拡大し、米軍入隊者が減り、地上戦要員不足に直面していた。ここで日米政府が編み出したのが、日本に米陸軍司令部を移し、そこに自衛隊司令部も統合する計画だった。こうすれば約14万人いる陸上自衛隊員をすべて米軍傘下におさめることができ、一気に地上戦要員不足を解消できるからだ。

 

  岩国への厚木基地機能移転も、岩国基地を空母艦載機受け入れ可能な施設につくり替えて出撃体制を整えたうえ、厚木基地も撤去せずに残す。それは空母艦載機受入れ機能を持つ基地をもう一つ増やすことが狙いだ。しかも米軍基地で実施していたF15戦闘機訓練も最初は米軍基地三カ所だけだったが「基地負担の軽減」と称して自衛隊基地6カ所を米軍訓練場として提供し、訓練場を9カ所に増やした。

 

 普天間基地の辺野古移転も「普天間の危険除去」は口実で、実際は老朽基地を日本に金を出させて最新式の基地につくり替えさせる計画だ。在沖米軍のグアム移転も真の狙いは「ミサイル攻撃の標的になる第一列島線よりも安全なグアムへ米軍司令部と家族だけ移転させておく」というものだった。

 

反対世論を封じる手口

 

 B このような米軍再編計画をめぐり、全国で批判世論が噴出するのはあたりまえだ。政府は2005年に再編計画対象となる米軍・自衛隊基地に隣接する55自治体に説明したが、ここで賛意を示したのは東京都知事の石原慎太郎(当時)だけだった。その後、基地隣接自治体以外でも反対の声が広がり、在日米軍再編計画に反対する自治体数(首長の表明と議会の意見書・決議等)は2005年末段階で100カ所をこえた。

 

  具体的には北海道、青森、茨城、東京、神奈川、石川、広島、山口、福岡、宮崎、鹿児島、沖縄等12都道県の約90市町村が反対姿勢を示し、6道県の約70市町村は議会が米軍再編計画反対の意見書や決議を可決した。横須賀基地への原子力空母配備計画には神奈川県や横須賀市等9自治体が反対を表明し、沖縄県では全自治体の約半数となる22自治体が米軍再編反対の意見書や決議を可決した。岩国市では市長発議で2006年3月に米軍再編の賛否を問う住民投票を実施し、反対4万3433票、賛成5369票、無効879票(投票率58・68%)で反対が圧倒した。

 

  このとき安倍政府(当時)が成立させたのが米軍再編特措法(2007年8月施行)だった。それは米軍再編を受け入れ、計画に従順に従う自治体だけに米軍再編交付金を支給する法律だった。防衛省は2007年10月に再編交付金の交付対象となる33市町を告示し、米軍再編計画に抵抗していた座間市、岩国市、名護市、鹿屋市、金武町、宜野座村、恩納村を対象から除外した。

 

 B 岩国市では米軍再編計画に反対した井原市政(当時)に米軍再編交付金を支給しないだけでなく、すでに決まっていた市庁舎新築工事への補助金35億円も凍結した。さらに井原市長が提出した07年度予算案を市議会で5回も否決し、予算執行を妨害した。このなかで井原市長は「市民に信を問う」と辞任し、2008年2月の市長選で厚木基地移転容認を掲げる現福田市長が当選した。

 

 その後岩国市は米軍再編交付金対象自治体となり、それを財源にして給食費や医療費を無償化した。だがこれは岩国市の財政を米軍再編交付金依存に変え、米軍が次から次に押し付ける基地増強を拒めないように縛るものだった。

 

  名護市も2010年に新基地反対を掲げる稲嶺進市長が誕生すると民主党政府(当時)が米軍再編交付金を全額ストップした。そのため名護市の財政はひっ迫し、交付金で実施予定だった12事業のうち2事業が休止となり1事業は中止になった。だが2018年に自公が推薦する渡具知市長が当選すると米軍再編交付金の交付を再開した。それを財源にして保育料や医療費を無償化した。これも「米軍再編計画を認めなければいつでも兵糧攻めにする」という対応だった。

 

 A こうした圧力のなかで2007年11月に「陸自のキャンプハンセン共同使用反対」を表明していた金武町、宜野座村、恩納村が受け入れに転じた。キャンプ座間の返還を要求し「基地恒久化解消策」を求めていた座間市長は次の市長選出馬をとりやめた。こうした動きは基地建設を認めない首長が当選すれば、市民もろとも兵糧攻めで首を締め上げ、力ずくで基地建設を容認させる強権支配の何ものでもない。しかも米軍再編特措法は2017年3月末までの時限立法だったが、期限切れと同時に有効期限を2027年3月末までに延長している。

 

自衛隊肉弾にする体制

 

  こうして第一段階の米軍再編計画を強引に進めたうえで新たに着手したのが馬毛島への米空母艦載機訓練場建設や佐賀空港へのオスプレイ配備計画だった。馬毛島をめぐっては2011年6月の日米2+2合意文書で「馬毛島が検討対象」「米軍の空母艦載機離発着訓練の恒久的な施設として使用される」と明記した。佐賀関連では2014年7月に安倍政府(当時)が佐賀空港に陸自駐屯地を併設してオスプレイを17機配備する計画をうち出したのが始まりだ。

 

 これは米軍司令部の移転や岩国への厚木基地移転など大規模な米軍再編計画を終え、今度は自衛隊を肉弾として活用する体制作りに乗り出すという動きだった。

 

 そのため安倍政府は2015年9月、「集団的自衛権の容認」を盛り込んだ安保関連法を成立させた。これは「米軍が攻撃された!」となれば、自衛隊が自動参戦する集団的自衛権の行使を認め、自衛隊を米軍の身代わりで戦地に投入するための法律だった。

 

  この法律をつくって以後、「北朝鮮や中国のミサイルから守る」「台湾有事のとき日本の国境離島を守る」といって南西諸島・九州地域で自衛隊部隊の創設に拍車をかけた。2016年以後の主な動きを見ると、長崎県には「日本版海兵隊」と呼ばれる陸自水陸機動団、サイバー戦をたたかう陸自電子戦部隊、陸自地対空ミサイル部隊を配備。熊本県にも陸自電子戦部隊、陸自ミサイル部隊を配備した。鹿児島県では奄美地域へ陸自警備隊、陸自地対艦ミサイル部隊、陸自地対空ミサイル部隊を配備している。

 

  顕著なのは沖縄・南西諸島地域の増強だ。沖縄本島には巨大な在日米軍基地に加えて陸自警戒管制団や陸自電子戦部隊を配備した。さらに宮古島には陸自警備隊と陸自地対艦ミサイル中隊を新設し、与那国島には陸自沿岸監視隊、空自警戒隊を新設。陸自警備隊を新設した石垣島には、陸自地対艦ミサイル部隊と陸自地対空ミサイル部隊を移転させる計画だ。

 

 この九州一帯から南西諸島につらなる自衛隊部隊の創設は台湾周辺をミサイル部隊でとり囲み、台湾有事が勃発すれば長崎に配備した水陸機動団を佐賀空港に配備したオスプレイに乗せて戦地に送り込むための軍事配置だ。

 

 佐賀や大刀洗はかつて特攻隊を送り込む拠点になった。現在進行しているのもそれと同じ軍事配置だ。こうした攻撃体制の強化を放置すれば、近隣諸国との軍事緊張は高まる一方で、いずれウクライナのようになる危険性は高い。そうなれば日本全土が標的にされるが、とりわけ地上戦闘員を送り込む拠点となる佐賀などは真っ先にミサイル攻撃の標的になるのは避けられない。

 

基地強奪したのが米軍

 

  だが米軍再編計画であらわになった暴力的な基地強奪は最近始まったことではない。米軍は人殺しと暴力が本質で、それはかつての戦争で基地を奪いとるために横暴極まりない大量殺りくをくり返してきたことでもはっきりしている。

 

 米軍による沖縄侵攻作戦は「アイスバーグ作戦」と呼ばれ、それは沖縄を奪いとって日本を単独占領し、中国侵攻の拠点にすることが目的だった。この作戦に基づいて米軍は沖縄に空母16隻、戦艦8隻、巡洋艦16隻、駆逐艦10隻、輸送艦等合計1500隻に及ぶ軍艦と約55万人の兵力を投入し、3カ月にわたって艦砲射撃を続けた。民家も含めて沖縄の地形が変わるほど破壊しつくし、日本側の犠牲者は18万7000人に及んだ。そのなかで生き残った住民をみな収用所に閉じ込めている隙に、土地を没収して金網を張り巡らし、力ずくで奪いとったのが在沖米軍基地だ。

 

 C 基地を奪うための無差別殺りくは日本全国共通だった。広島や長崎への原爆投下、東京空襲、全国空襲で日本全土を焼き尽くした。佐賀でも敗戦間際の8月5日に65機の米軍機が押し寄せて爆撃し400戸以上の家屋を焼き払っている。こうした血なまぐさい殺りくを経て建設したのが全国の米軍基地だ。このような大量殺りくを実行し、一度も謝罪しない米軍が日本の国民を守ることはあり得ない。それどころか今度は在日米軍再編計画に加えて、有事の初動段階で、米海兵隊が鹿児島県から沖縄の南西諸島に攻撃用臨時拠点を約40カ所設置し、そこから対艦ミサイルで洋上の中国艦隊を攻撃する「実戦シナリオ」まで具体化している。

 

 米国は日本を占領したときから日本列島を「米本土防衛の捨て石」「対アジア侵攻の拠点」とする軍事戦略を進めており、力ずくで奪った基地を米軍側が平和的に返すことなどあり得ない。その延長線上で日本列島がミサイル攻撃の標的として晒される危険が現実問題として迫っている。佐賀や馬毛島で進行する住民を無視した暴力的で屈辱的な軍備増強は日本列島全体が抱える共通の問題であり、全国的に結束した行動で覆すしか活路はないところにきている。

関連する記事

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。なお、コメントは承認制です。