いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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「人道支援」の印籠と自衛隊派遣

 「ロシアによる軍事侵攻が続くなか、政府は、国際機関からの要請を受けて、自衛隊の輸送機をウクライナの周辺国に派遣し、支援物資などを運ぶ方向で調整に入りました」――。NHKがにわかに報じたニュースを聞いて、まず「国際機関」ってどこの国際機関だよ! と疑問を抱いたのと同時に、これがエスカレートした場合に自衛隊がウクライナの後方でNATO側の兵站任務を担わされ、武力参戦に引きずり込まれかねない危うさを感じた。NATOの構成員でもないのに、なぜ自衛隊が駆り出されるのか? という疑問は拭えない。もともとが欧米vs.ロシアの矛盾に端を発した武力紛争であり、そのもとで故郷を追われた何百万人ものウクライナ人が各国に身を寄せなければならない事態に発展している。そのなかで、米英仏などの当事者であり責任を負うべき国々も支援物資を運ぶための輸送機くらいは持っていよう。近隣にいくらでもあるはずなのだ。それなのに、なぜはるばる東アジアの一国にすぎない自衛隊の輸送機にお呼びがかかるのか、ここにきて関与させようとする力が働くのか? と思うのである。

 

 その後の報道で、「国際機関からの要請」とはUNHCR=国連難民高等弁務官事務所からの要請であることが明らかになり、政府としては自衛隊機の派遣は、国際平和協力法、いわゆるPKO協力法に基づく対応になるということで、近く閣議で輸送機の派遣を決定したいというものだった。しかし、それだけでは具体的な活動の中身はボヤッとして煙に巻かれており、曖昧模糊としたまま身を乗り出させる訳にはいかない。その存在はJALでもなければANAでもなく、軍隊だからである。世界196カ国あるなかで、なぜ紛争の真っ最中によりによって自衛隊に要請が来るのか、国連難民高等弁務官事務所はいかなる判断で日本政府に要請したというのかも、何もわからないままである。

 

 イラク戦争では「人道復興支援」として自衛隊が武装した米軍と武器を輸送した過去がある。そうなると戦争遂行のカギを握る兵站を担っているだけである。従って「人道復興」という印籠を突きだして「この紋所が目に入らぬか!」(皆の者、黙れ! 黙れい!)をやっているものの、では、いかなる任務を遂行するのか? は曖昧にできない点である。今回のウクライナにおける紛争では、ウクライナという片側の当事者に既に防弾チョッキを送るという振る舞いをしており、武力参戦に引きずり込まれかねない危険性を伴っていることについて見なければならない。

 

 イラク戦争のときのように、ちゃっかり軍人・武器輸送なんてしたなら、それはロシアから見た場合には完全なる兵站任務であり、攻撃の対象になってもおかしくない。欧米各国が「これでたたかえ!」といって殺人ドローンや諸々の武器をポーランドなどの周辺国まで運び込み、戦闘の長期化を視野に武器支援が加熱している折りに、その「人道支援」も見方によっては様々なのである。武器を投入して煽ることを「正義」「人道支援」といって憚らない者だっているなかで片側に与して、紛争のプレイヤーとして組み込まれた場合、日本社会にとっては引き戻せない一歩になることは明らかである。

 

 紛争が長期化するなかで、数百万人規模でウクライナ国民が難民として彷徨っている現実がある。この解決のためには、結局のところ一刻も早く停戦合意に導く以外に方法などなく、最終的には元々暮らしていたウクライナの地で平穏に過ごせる状況をつくり出す以外にはない。まずはドンパチを治めることが先決で、そのために橋渡しができる非当事者としての第三国の関与が不可欠である。NATOの一員でもない日本としては、世界的に「オマエら米国の犬だろ?」と思われているとはいえ、独自のスタンスを保つこともできるはずだ。戦争に加担するのではなく、それこそ非戦を憲法に謳った国としていかなる武力紛争についても仲裁に入り、無難に鎮めていくために力を尽くすことの方が、世界196カ国のなかでの貢献度は高いはずだ。

 

 「ウクライナ可哀想」からの「ロシアやっつけろ!」の熱狂に乗じた武力参戦――。こうした状況について、いわゆる左翼陣営のなかでも是とする者があらわれ、なんだかハッスルして「自由と民主主義」の「正義」の闘いに感情的に与していく流れがあることにも注意が必要であろう。日和見主義が排外主義に転化し、民族主義の虜となって帝国主義戦争の加担者になっていく――第二次世界大戦でも同じようなことは起こっているのだ。

武蔵坊五郎      

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