いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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「神に選ばれた国」と「神に選ばれた民」に未来はあるか  国際教育総合文化研究所・寺島隆吉

1 はじめに

 

 一昨年、九州を本拠地にして活動しているデータ・マックス社の経済情報誌『IB: Information Bank』から、「先生の訳書『アメリカンドリームの終わり』を拝読し、ぜひ本著を弊誌読者に紹介したい」との取材依頼があり、そのインタビューの記録を私のブログ「百々峰だより」でも紹介しました。
*「今日のアメリカは、明日の日本である」2018新春特別号
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-3 1 2.html

 

 ところがその後、再び上記の経済情報誌『IB』の記者から次のようなメールが飛び込んできて驚喜させられました。というのは今度は「九州本部の社長から、新春号に続いて夏季特集号でも、ぜひ先生のお話をというリクエスト」だというのですから、私にとっては驚愕の極みでした。

 

 しかも夏季特集号の大きなテーマは「大転換」で、政治・経済・社会・文化の分野での大転換を探るというのです。

 

 そこで私の頭に浮かんだのは「三つの大転換」でした。一つ目は「アメリカの現実を知ろう」、二つ目は「世界の流れを知ろう」、三つ目は「日本の良さを知ろう」です。

 

 日本の知識人は、ともすると「日本はだめだけどアメリカはすごい」と言ったりしますが、アメリカ国内の崩壊ぶりは、チョムスキーが『アメリカンドリームの終わり』で述べているとおりです。

 

 他方、国外でもシリア情勢を見れば分かるとおり、アメリカの失敗と孤立化は世界的に露呈しつつあります。

 

 その一方、日本は劣化しつつあるとはいえ、今でも世界で稀に見る長寿国であり高学力の国なのです。その証拠に、拙著『英語で大学が亡びるとき』(明石書店)でも詳述しましたが、OECD学力調査では、日本はトップクラスで、アメリカは最底辺です。

 

 したがって日本政府は、いたずらにアメリカの後を追うのではなく、日本の現実をふまえ、しっかり地に足をついた考えを持って欲しいと思います。世界でもうらやましがられている清潔で安全な社会を、維持・発展させなければならないからです。

 

 しかし残念ながら、この「三つの大転換」は、予定されていた夏季特集号のテーマが「時事国々、新先進国の台頭」に変えられたため、せっかく次のインタビューに備えて書きためつつあった原稿も宙に浮いてしまいました。そこで、その一部を私のブログに載せました。

 

 ところが、そうこうしているうちに、長周新聞から「2019年度の新年号のために何か書いていただけないか」との依頼があったので、この原稿に手を入れて載せていただくことにしました。しかし三つのテーマで書いたものはあまりに長いので、ここでは最初の二つにしぼらせていただきます。

 

 (ちなみに、「大転換」の代わりのインタビューは、「なぜ文科省は自発的『植民地化』に邁進するのか」というテーマでおこなわれ、その内容は下記に載せてあります。興味のある方は御覧いただければ幸いです。)
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-3 2 3.html?sp

 

 

2 アメリカ「民主主義」神話の崩壊

 

2―1

ドナルド・トランプ

 では、私が「アメリカの現実を知ろう」としてあげた一つ目の「大転換」とは何でしょうか。それは、「大統領は、アメリカ国民の意志に従って選挙され、その国民の意向に沿って政治をおこなうものであり、その理想型がアメリカである」という神話が、今や完全に崩壊したということです。

 

 このことを最もよく示してくれたのがトランプ大統領の誕生でした。

 

 選挙の下馬評ではヒラリー・クリントン女史が「アメリカ初の女性大統領」として当選が確実視されていました。

 

バニー・サンダース

 ところが自称「社会主義者」のバーニー・サンダース氏が「ヒラリー候補はウォール街と結びついている」と批判し、彼女を裏で支援しているのが共和党と同じ財界・特権階級であることを暴露してから、流れは大きく変わり、彼女に代わってサンダース氏が民主党の大統領候補になる可能性が出てきました。

 

 この頃から大手メディアの攻撃はサンダース氏に集中し、終盤のカリフォルニアの予備選挙では投票が始まる前から「ヒラリー女史が圧倒的優勢、当選確定」という報道が流されるまでになりました。

 

 このような風圧の中で、サンダース氏はついに膝を屈し、共和党候補として勢いを増しつつあったトランプ氏を勝たせないという理由で「ヒラリー女史こそアメリカで最良の候補者だ」という声明すら出すまでに変質してしまいました。

 

 一握りの富裕層・特権階級に富と権力が集中している現状に不満を感じて、サンダース氏の選挙運動に精力を注ぎ始めていた没落中産階級の人々や若者は、このようなサンダース氏の裏切りに失望し、その多くの票がトランプ氏に流れたと言われています。

 

 サンダース氏が民主党の候補者になっていたら、富豪として有名だったトランプ氏と互角に闘うことができ、大統領に当選していたかも知れないと言われているのも、このためです。

 

シリアで傭兵を激励するヒラリー・クリントン

 民主党の幹部はヒラリー女史を「アメリカ初の女性大統領」として売り出し、彼女を共和党の候補者と対決させることを、予備選が始まる以前から、裏で密かに決めてしまっていました。

 

 サンダース氏が各州で予備選を確実に勝ち抜いていくのを何とか阻止しようと、民主党の幹部が様々な工作をしたことも、今ではウィキリークスなどで暴露されています。

 

2―2
 しかし何と驚いたことに、ヒラリー女史は「ウィキリークスはプーチンの手先だ。トランプもプーチンの傀儡(かいらい)だ」と言って、大統領として公約を果たそうとするトランプ氏の手足を縛ることに、いまだに全力を注いでいます。

 

 1%(チョムスキーによれば実際は0・1%)の富裕層・特権階級を基盤にしている共和党のなかで、トランプ氏が共和党の予備選に勝利した背景には、氏が富豪であるにもかかわらず、主として白人の没落中産階級に「昔の豊かなアメリカを取り戻そう」と呼びかけたことにありました。

 

 裏切られたと感じたサンダース支持者の少なからぬ人たちが、トランプ支持者に変わった要因も、トランプ氏の呼びかけが「アメリカは外国に余計な手出しをして、戦争や政権転覆などにお金を使いすぎている。だからロシアと手をつないでシリアの戦争を一刻も早く終わらせるべきだ。軍隊をシリアから撤退させ、戦争に無駄遣いしている巨額のお金を国内産業の復興に回そう」ということにありました。

 

 不思議なことに、自称「社会主義者」を名乗り、アメリカ国内の富裕層・特権階級を攻撃していたサンダース氏でさえ、このような呼びかけを予備選でおこなっていないのです。

 

 外交政策では「シリアのアサド大統領は早く去るべきだ」という軍産安保複合体の要求、政権転覆の政策をそのまま掲げていたのでした。

 

 ですから、トランプ氏が大統領になったときにおこなわれた氏への強力な攻撃は、「トランプはプーチンの傀儡だ。ロシアが裏で密かに選挙介入したからこそトランプは大統領になれたのだ」というものでした。さらに、それに大手メディアも大々的に悪乗りすることになりました。

 

 アメリカが外国の選挙に介入したりクーデターや要人暗殺を企ててきた長い歴史をもっていることは、ウィリアム・ブルム『アメリカの国家犯罪全書』(作品社、2003)に詳しいのですが、それを全く棚に上げて、ヒラリー女史の選挙敗北をロシアのせいにするというのは、まったく「天に唾する行為」と言うべきでしょう。「亀は自分の甲羅に似せて穴を掘る」と言い換えてもよいかもしれません。

 

マイケル・フリン

 ところがトランプ氏は大統領になった途端に選挙時の公約をくつがえし、国家安全保障問題担当大統領補佐官として自らが任命したマイケル・フリン(元陸軍中将、元国防情報局DIA長官)を解任して、タカ派の人物と入れ替えてしまいました。

 

 フリン氏は、「ロシアと協調し、アサド政権と闘っているイスラム原理主義を一掃すべきだ」と主張してきた人物ですから、このような人物を解任することは、トランプ大統領が裏からの圧力に屈したことを示す典型的事件でした。

 

 こうしてフリン解任を皮切りに、トランプ大統領は次々と自分の任命した補佐官や閣僚を解任し、シリア紛争を終結させるどころか、この姿勢を逆転させてしまい、シリア政府の援助要請を受けてシリア内部で闘っているロシア軍やシリア政府軍をミサイル攻撃するまでになりました。

 

 公約だった「アメリカ第一主義」を逆転させて、トランプ氏が元大統領オバマ氏がとっていたのと同じ政策=「外国への干渉・侵略」に乗りださせた裏の勢力は、“Deep state”「裏国家」「闇の政府」と呼ばれています。

 

 このような「裏の勢力」が存在すること、それが“Deep state”という名称で、公の場で論議されるようになったことは、アメリカの歴史上かつてないことでした。

 

2―3
 今までも大統領の候補者が「裏の勢力」によって秘密裏に決定され、それがお祭り騒ぎの大選挙戦で、「アメリカ史上初の黒人大統領」などといったかたちで「売り出されてきた」ことは、公然の秘密だったわけですが、それが最も露骨なかたちで暴露されたのは、クリントン女史が「アメリカ史上初の女性大統領」というかたちで売り出され、大手メディアが、こぞってヒラリー支持の報道を繰り広げたときでした。

 

 というのは、先述したように、選挙戦が始まる以前から民主党幹部が「次の大統領はヒラリー女史だ」と決めていたこと、予備選でもサンダースにたいする露骨な選挙妨害を裏で工作していたことが、ウィキリークスその他で暴露されたからです。
(このためアサンジ氏は、エクアドルに新しい親米大統領が誕生したことによって、亡命したはずのロンドンのエクアドル大使館で今や幽閉状態です)。

 

 そのうえ選挙が終わったあとも、トランプ氏を大統領の座から引きずり下ろそうとする動きは止むことがありませんでした。それは現在も執拗なかたちで続けられています。

 

 もちろんトランプ氏の言動に問題がなかったわけではありません。それどころか大言壮語で、かつ矛盾する言動、間違った意見も少なくありませんでした。

 

 しかし氏の「アメリカはこれまで外国に干渉しすぎてきた。これからは政権転覆などに手を出すのではなく国内再建に精力を集中する」という主張は、大筋では正しいものでした。

 

 ところが、それを許せない勢力がアメリカ国内に存在するのです。それがいわゆる“Deep state”「裏国家」「闇の政府」です。

 

 しかし、このような「裏国家」「闇の政府」という名称と存在は、すでに述べたように、公の場で明らかにされ議論されたことは今までありませんでした。

 

 ところが今では民主党の元下院議員であり元大統領候補として2004年の予備選でも善戦したデニス・クシニッチでさえ、“Deep state”という言葉を使って今のアメリカの政治を鋭く批判するようになっています。
*闇の政府’Deep state’がシリアの紛争を求めて、これを推進している
https://on.rt.com/9 4a9

 

 クシニッチはラリー・キングのインタビューに応えて「シリアの紛争をわざと長引かせているのは、ペンタゴン、CIA、国務省の連中だ。彼らは自分たちの考え方にしたがってトランプ大統領を動かしている。しかし彼らは国民によって選挙で選ばれたのではない。これは実に憂慮すべき事態ではないか」と語っています。

 

 クシニッチ氏は、ここで“Deep state”を「CIA、ペンタゴン、国務省の連中」として、彼らを名指しで非難しているのですが、「CIA、ペンタゴン、国務省の連中」を裏で動かしている真の勢力は「軍産複合体」「0・01%の超富裕層」ですから、もっと鋭くDeep state”のなかみを分析し追及すべきでした。

 

 しかし、いずれにしても、この大統領選挙の過程とその後の進展で明らかになったことは、アメリカの大統領は民衆が選挙で選ぶものではなく裏で密かに誰を次期大統領にするかが決められていること、裏の勢力の意向に沿わない人物が選ばれた場合、 その人物は“Deep state”の言いなりになるか、さもなければ「消される」運命にあるということです。

 

 このことがアメリカ国民だけではなく、世界中の心あるひとたちの目にはっきりと見える形になったことは、何度も言うように、アメリカ史上かつてなかったことでした。

 

 これは、トランプ氏が大統領選に立候補したことによってもたらされたもので、氏が勝利しなければ、アメリカの裏舞台がこれほど劇的に暴露されることは、たぶんなかったでしょう。

 

 これは実にトランプ氏の「大きな功績」であり、世界の「大転換」として私がこれを第一に挙げたいと思う所以です。

 

2―4
 この節を終える前に、最後に付け加えておきたいことが三つあります。

 

 その一つはトランプ氏が大統領になった直後に解任されたマイケル・フリンについてです。元DIA(国防情報局)長官マイケル・フリンについて櫻井ジャーナルは2016年11月19日の時点で次のように書いていました。

 

 「ドナルド・トランプはマイケル・フリン元DIA長官に対し、安全保障担当補佐官への就任を要請したとAPが伝えている。

 トランプは、ロシアとの関係修復を訴え、シリアではバシャール・アル・アサド体制の打倒ではなくアル・カイダ系武装集団やそこから派生したダーイッシュ(IS、ISIS、ISILとも表記)と戦うべきだと主張しているが、そうした判断はフリンのアドバイスに基づいている可能性が高い。

 そのフリンを重用できるなら、軍事的な緊張は緩和される可能性が高い。

 マイケル・フリン中将は退役後にアル・ジャジーラ [中東カタールの放送局] の番組へ出演、自分たちの任務は提出される情報の正確さをできるだけ高めることにあり、そうした情報に基づく政策の決定はバラク・オバマ大統領の役割だとしている。

 何度も書いていることだが、DIAは2012年8月に作成した文書の中でシリアにおける反乱の主力はサラフ主義者、ムスリム同胞団、そしてAQIだと指摘、バラク・オバマ政権が支援している「穏健派」は存在していないとしていた。

 つまり、「穏健派」の支援とはサラフ主義者、ムスリム同胞団、そしてAQI(アル・カイダ系武装集団)にほかならないということだ。

 アル・カイダ系武装集団の主力はサラフ主義者やムスリム同胞団であり、アメリカ政府はアル・カイダ系武装集団を支援しているということになる。

 DIAの報告書ではシリア東部にサラフ主義者の国ができる可能性も警告していたが、これはダーイッシュという形で現実になった。

 トランプ政権へ入るとも噂されているルドルフ・ジュリアーニ元ニューヨーク市長は選挙期間中、「ヒラリー・クリントンはISISを創設したメンバーだと考えることができる」と口にしていた。オバマ同様、確かにヒラリー・クリントンもダーイッシュを操る勢力に属していると言えるだろう。」[引用終わり]

 

 ところが、フリン中将は、上記の報告をオバマ大統領に提出後しばらくして退役しました。

 

 自分の警告が受け入れられなかったから自ら辞職したのか、余計な報告書をつくるなという理由で解任されたのかは不明ですが、そのフリン氏をトランプ大統領は安全保障担当補佐官として採用したのです。しかし御存知のように、フリン氏は間もなく解雇されてしまいました。

 

 これは裏の戦争勢力がいかにフリン氏を嫌っていたかを示す典型的事例でした。このようにトランプ氏は大統領に就任直後から“Deep state”の攻撃にさらされ、それに屈するということを繰りかえしつつ現在に至っています。

 

2―5

バラク・オバマ

 二つ目は元大統領オバマ氏についてです。オバマ氏は「アメリカ史上初の黒人大統領」という宣伝文句で売り出されたのですが、この選挙戦についてチョムスキーは『アメリカンドリームの終わり富と権力を集中する10の原理』で次のように述べています。

 

 「大統領選挙の直後に、オバマ大統領は広告産業からひとつの賞を獲得しました。2008年の市場広告最優秀賞というものでした。つまり、2008年の大統領選挙で最も良い宣伝活動を展開したというのです。
 そのことはこのアメリカでは報道されませんでしたが、国際的な商業紙では、経営幹部は幸福感に満ちて次のように言っていました。『われわれはこれまでずっと大統領候補者を売り出してきた。レーガン政権からずっと大統領選挙という市場で、候補者を(練り歯磨きを売り出すのと同じように)売り出してきた。オバマはそのなかでも最高の成果だった。』
 私は普通、共和党の大統領候補であったサラ・ペイリンの意見に同調はしないのだけれど、彼女がオバマを、『ホープ(希望)とチェンジ(変化)という謳(うた)い文句だけを振りまく男』と呼んで揶揄(やゆ)したとき、彼女は正しかったのです。そもそもオバマは選挙で具体的なものをなにひとつ約束しませんでした。かれが振りまいたのは、ほとんどすべてが幻想で、具体的な提案に欠けるものだったからです。


 オバマが選挙運動の際に振りまいた言い回しをよく見てみれば、そのことがよくわかるはずです。かれの選挙演説のなかには、具体的な政策をめぐる論争はほとんど何もありませんでした。
 それには十分な理由がありました。政策にかんする一般民衆の世論は、二大政党の指導者や金融界の指導者の望んでいるものとは鋭く対立し、大きな溝があったからです。選挙運動が進めば進むほど、オバマの政策は選挙運動に資金を提供してくれる民間企業の利益に焦点を当てるものになっていました。そして民衆の要求はますます周辺部に追いやられてしまいました。」[引用終わり]

 

 つまりオバマという人物は、最初から“Deep state”によって選ばれ、「アメリカ史上初の黒人大統領」として選挙市場に売り出された人物だったのです。

 

 それにしてもオバマ氏の母親は白人なのですから、彼を「黒人」と呼ぶのはいかにも変な話です。オバマ氏の血の半分は白人のものなのですから、氏をなぜ「白人」と呼んではいけないのでしょうか。

 

 ナチスがユダヤ人を扱ったときと同じように、黒人の血が一滴でも混じっていれば「黒人」であるというのは、偏見の極みです。この一般化されている偏見を逆用して選挙市場に売り出そうと工作した「裏国家」の手腕は実に見事と言うしかありません。

 

2―6
 三つ目は、公民権運動・黒人解放運動の指導者として有名だったキング牧師の暗殺についてです。

 

 今からちょうど51年前に(1968年4月4日)キング牧師が公権力によって暗殺されたこと、それがキング師の遺族による裁判闘争で明確に結論づけられたことを下記ブログ(「百々峰だより」2018/0 4/1 4)で紹介しました。
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-3 1 6.html

 

 また、この偉大な勝利判決の翌日、1999年12月9日におこなわれた記者会見は下記のサイト(『寺島メソッド翻訳NEWS』)で読むことができます。
*MLK暗殺裁判判決についてキング家の記者会見
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-8 4.html

 

 ところが、この偉大な勝利判決について言及している大手メディアやアメリカ研究者は皆無に近いのです。

 

 キング師は、「黒人解放運動の指導者」という地位にとどまっていればおそらく殺されることはなかったでしょう。彼が“Deep state”の怒りにふれたのは、アメリカの外交政策に公然と反旗をひるがえし始めたからでした。その立場を明確に宣言したのが、暗殺のきっかり1年前、1967年4月4日にニューヨークのリバーサイド教会でおこなった演説「ベトナムを超えて」でした。

 

 この演説は、ハワード・ジン『肉声でつづる民衆のアメリカ史』下巻、156―164頁に載っています。

 

 ふつうキング師の演説と言えば誰でも思い浮かべるのが、1963年8月28日にワシントンDCで25万人近くの集会参加者を前におこなわれた有名な演説「I HAVE A DREAM」です。しかし内容的にはるかに重要なのは、この「ベトナムを超えて」という演説でした。

 

 キング師がアメリカの内政批判「公民権運動」にとどまっているかぎりは、“Deep state”にとっては、まだ我慢が出来る存在でした。

 

 というのは「戦争は国家の健康法である」と信じ、戦争で国家を維持し財力を貯えてきた“Deep
state”の人たちにとっては、「アメリカの外交=戦争政策に口出しをする人物は許すべからざる人物であり生かしておけない」存在だったのです。

 

 このことは上記のキング一家がおこした裁判でも明確に確認されたことでした。

 

 トランプ氏も「アメリカ第一主義」を掲げ、「国家の再興」という内政問題に関わっているかぎりでは、あれほどひどい攻撃を受けることはなかったでしょう。しかしトランプ氏が踏み外したのは、アメリカの外交(戦争政策)を痛烈に批判し、それを内政(国家の再興)と結びつけたことでした。

 

 トランプ氏が選挙戦で、オバマ政権やヒラリー女史の戦争政策「シリアの政権転覆」を痛烈に批判し、ロシアとの協力・協調を訴えたことは、“Deep state”の逆鱗に触れるものでした。

 

 これは、中国とロシアを包囲するという方針に真っ向から対立するものだからです。これは、時の政府が窮地に陥ったときの、恒例かつ最後の手段に鎖をかけるような政策だからです。

 

 ちなみに、夭折の天才ランドルフ・ボーンによる「戦争は国家の健康法である」という有名な論文も、『肉声でつづる民衆のアメリカ史』上巻、532―539頁に訳出されています。
(また私のブログでも過去3回にわたって、この論文をとりあげて紹介しているので、興味ある方はぜひ御覧ください。)
*「戦争は国家の健康法である」
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-2 9 4.html
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-2 9 5.html
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-2 9 6.html

 

 

3 「神によって選ばれた国」「神によって選ばれた民」

 

3―1
 前節では、「大転換」の一つ目として、トランプ大統領が誕生したおかげでアメリカ国内におけるDeep state”(裏国家、闇の政府)の存在が今や誰の眼にも明らかになったことを紹介しました。

 

 さて、そこで二つ目の「大転換」です。

 

 大国アメリカの「例外主義」(自称「神に選ばれた国」)と世界における孤立がこれほど明らかになったことはかつてなかったのではないか、これもトランプ氏の大きな「功績」ではないか―と私は思うようになりました。

 

3―2
 アメリカが世界の超大国・覇権国家となったのは、第二次世界大戦が終わってイギリスが帝国の地位から転落したときからでした。

 

 こうして大戦後、アメリカは経済的にも軍事的にも世界の帝国となりました。

 

 しかしチョムスキー『アメリカンドリームの終わり』によれば、これは同時に、大戦直後に世界の頂点に立ったアメリカの衰退の始まりでもありました。

 

 とりわけアメリカの経済的衰退ぶりが顕著になったのは、アメリカが金本位制を止めた1970年代からでした。これはアメリカの通貨である「ドルの弱体化」を示すものでもありました。

 

 この「ドルの弱体化」は、アメリカが投資銀行と商業銀行の垣根を取り払い、国内産業の構造が製造業から金融業へと大きく変化していくのと同時進行でした。

 

 製造業の多くは安い労働力を求めて海外移転し、国内産業は大きく疲弊したからです。代わって登場したのが金融資本が乱舞する世界でした。

 

 では衰退する経済力をくい止める手段としてアメリカが選んだのはどんな方法だったのでしょうか。それは産業の動力源である石油を支配することを通じて、世界を支配すること、アメリカの覇権を脅かす国が現れればそれを軍事力で叩き潰すことでした。

 

 世界の産業は石油で動いているのですから、これを占有しさえすれば、刃向かう国を屈服させることができます。

 

 アメリカが、「民主主義の理念」に反して、イスラム王制独裁国家のサウジアラビアを軍事力で支えているのも、OPEC(石油輸出国機構)の盟主であるサウジを通じて世界の石油の流れをコントロールできるからです。

 

 サウジ王室を目下(めした)の家来として使い、石油貿易の決済をドルを使っておこなわせることにより、ドルの弱体化を防ぐことができます。

 

 その代わりアメリカは、独裁王制の下で抑圧されているサウジ民衆が王室転覆に決起したとき、それを鎮圧する仕事を引きうけました。

 

 王室が鎮圧に失敗したときアメリカ軍が出動して王室を支えるという約束をしたわけです。これは同時に高額の武器をサウジに輸出する絶好の口実ともなりました。

 

3―3
 アメリカの覇権を脅かす国が現れればアメリカがそれを軍事力で叩き潰してきたことは歴史が数多くの事実を提供してくれます。

 

 その実例として前節ではブルム『アメリカの国家犯罪全書』(作品社)を紹介しましたが、それを読めばアメリカが犯してきた戦争犯罪、「拉致」「テロ」「暗殺」「拷問」「毒ガス」「クーデター」などの数々を知ることができます。

 

 もちろんアメリカの覇権を脅かす国が現れても、その為政者を賄賂・買収その他で籠絡できれば、わざわざ「拉致」「テロ」「暗殺」などの手段を使う必要はありません。ましてや軍隊を派遣して侵略する必要などありません。

 

 その具体的な手口は、ジョン・パーキンス『エコノミック・ヒットマン、途上国を食い物にするアメリカ』(東洋経済新報社、2007)に詳しく述べられています。

 

 この著者パーキンスは、表の顔は一流コンサルティング会社のチーフエコノミストですが、裏の顔・本当の姿は対象国を経済的に収奪するアメリカの工作員でした。

 

 この本は良心の痛みに耐えかねたエコノミック・ヒットマンの内部告発書です。彼は「買収工作が成功しないときは本当のヒットマン(暗殺者)の出番になる」と述べています。飛行機事故に見せかけて国家元首を殺すこともあったと言います。

 

 この本を読むと、アメリカ政府が多国籍企業と一体になっておこなってきた「買収」→「恫喝」→「暗殺」→「戦争」という流れがよくわかります。常に脅しをかけて言うことを聞かせたり、莫大な利益を約束して懐柔したりします。そして言うことを聞けば国家元首としての地位を与えるというわけです。

 

 アメリカは、第二次大戦後の日本政府の場合、戦犯で刑務所に入れられていた人物を為政者に仕立て上げ、かつ国際法廷で裁かれるべきだった人物を新たな「象徴」として全国巡幸させることによって、みごとな従属国をつくりあげました。

 

 この日本をモデルにしてイラクに乗り込んでいったのがブッシュ二世でした。「大量破壊兵器」を口実に侵略し、「イラクを第二の日本にする」と豪語していました。

 

イラク戦争下、バグダッドを訪れたブッシュ

 しかし、イラクには岸信介や昭和天皇に当たる人物を見つけることができず、この作戦は見事に失敗しました。残されたのは破壊された国土と大量の死者と難民でした。

 

 中南米では、アメリカ軍が経営する軍事学校“School of the Americas”で訓練された軍人が準軍事組織をつくり、クーデターで政権を取った後、腐敗する為政者に抵抗する民衆や活動家を虐殺していきました(チョムスキー『アメリカが本当に望んでいること』現代企画室)。

 

 しかし軍事独裁政権による民衆の抑圧ぶりがあまりにも残虐・凄惨で、評判が悪かったので、オバマ氏は、ウクライナでも、リビアでも、シリアでも、「民衆蜂起」というかたちで政権転覆をはかることにしました。

 

 ウクライナの政権転覆(2014年2月)は、極右勢力や旧ナチスの残党勢力を傭兵として使ったクーデターであったことは、今となっては歴然としてきています。この間の裏事情を櫻井ジャーナル(2017.0 1.1 9 )は次のように述べています。

 

ウクライナでは旧ナチスの残党が傭兵として使われた

 「ソ連が崩壊しロシアを自分の属国だと認識していた時期にもアメリカの好戦派は支配システムを築く努力はしていた。ビクトリア・ヌーランド国務次官補は、2013年12月に、米国ウクライナ基金の大会で、『ウクライナの政権転覆を支援するために1991年から50億ドルを投資した』と発言している。システムの構築にはNGOを利用した。」
(http://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/201508110000/)

 

 リビアの政権転覆(2011年10月)の場合も、アメリカは、カダフィ大佐が「民衆蜂起」を弾圧しているという口実で、フランスを初めとするNATO軍を使って国土を破壊しカダフィ大佐を惨殺しました。

 

 このときはイスラム原理主義勢力を傭兵として使いましたが、その詳細は、物理化学者である藤永茂氏がブログ「私の闇の奥」で生々しく描写しています。
*リビア挽歌(上・下)
https://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/af790e16376731460b2a7f5f493b758c
(2011/0 8/2 4)
https://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/9cd61d906c0c02b82a34d5b70da709f5
(2011/0 8/3 1)

 

 シリアの場合も基本的には同じでした。「民衆蜂起」という体裁をとらせながら、サウジなどの王制独裁国家から送り込まれたイスラム原理主義勢力を傭兵として使いました。

 

 アル・カイダ系武装集団やダーイッシュをアメリカやその同盟国が支援してきたことも、次々と明らかになっています。

 

 例えば、2014年9月に米軍のトーマス・マッキナニー中将はアメリカがダーイッシュを作る手助けをしたとテレビで発言し、マーティン・デンプシー統合参謀本部議長(当時)もアラブの主要同盟国がダーイッシュに資金を提供していると議会で発言しています。

 

 また同年10月にはジョー・バイデン米副大統領がハーバード大学で中東におけるアメリカの主要な同盟国がダーイッシュの背後にいると語り、2015年にはウェズリー・クラーク元欧州連合軍最高司令官もアメリカの友好国と同盟国がダーイッシュを作り上げたと述べています。
(櫻井ジャーナル2017.01.19.http://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/201701190000/ )

 

3―4
 このようにアメリカがウクライナで政変を企て、リビアを破壊し、またもやシリアで政変転覆を企ててきたことは、今では世界中の心あるひとにとっては自明のことになっているのですが、大手メディアはそれを報道しませんから、アメリカ国民のほとんどは(そして日本国民も)このような事実を知りません。

 

 それをよいことに、「シリアのアサド政権は化学兵器を使って自国民を殺害している」という宣伝を、壊れたレコード盤のように繰りかえしてきたのがオバマ政権でした。

 

 この「アサド政権の化学兵器」という嘘は、そのつどロシア政府や独立ジャーナリストなどによって、嘘であることが暴露されてきています。最近でも「ホワイトヘルメット」を使った同じたぐいの宣伝がなされ、すぐにその嘘がばれてしまいました。
*ピンクフロイドのメンバー、コンサートで「ホワイト・ヘルメット」を批判
http://tmmethod.blog.fc2.com/blog-entry-4 1.html

 

 有名なイソップ寓話「オオカミが来る」に、何度も村人をだましてきた少年が、最後には村人から相手にされなくなるという話が出てきますが、この寓話は、そのままアメリカ政府に当てはまりそうです。

 

 今では、アメリカの言動をまともに信じる国は、イスラエルとEU諸国を除けば、世界でも圧倒的少数になりつつあるからです。これも世界の流れを大きく変える「大転換」です。

 

3―5
 ところがアメリカを支持するEU諸国でさえ、いまアメリカから離れようとする動きをし始めています。というのは、トランプ氏が「イランとの間に交わした核兵器協定から一方的に離脱しイランと経済交流する国には経済制裁を課す」と宣言をしたからです。

 

 この協定を10年近くもかけてまとめたドイツ、フランスからは強い抗議の声が起き、イギリスもこれに同調せざるを得なくなってきています。

 

 こうして「化学兵器」「大量破壊兵器」などという口実で中東に内紛をつくりだし、「オオカミ少年」として世界から孤立しつつあったアメリカは、このイランをめぐる問題で、さらにEU諸国の信頼さえも失いかねない危機に立たされました。

 

エルサレムをイスラエルの首都と公式に認めたトランプ

 このアメリカの孤立を、もう一歩さらに強めることになったのが、「エルサレムにアメリカ大使館を移す」というトランプ氏のもうひとつの宣言でした。

 

 これにたいしてもEU諸国は強い抗議の声を上げました。というのは、「エルサレムは国際管理とする」というのが1980年の国連決議だったからです。アメリカの同盟国であるEU諸国でさえ、受け入れることができなかったわけです。

 

 こうしてトランプ氏を大統領にいただくアメリカは、イスラエルと共にますます世界から孤立する道を選んでいるように見えます。

 

 アメリカが大使館をテルアビブからエルサレムに移転させた2018年5月14日は、イスラエルの建国記念日だった一方、15日はパレスチナ人にとっての「ナクバの日」でした。

 

 「ナクバ」とはアラビア語で「大惨事」を意味することばです。ユダヤ人が1948年5月14日、パレスチナにイスラエルを建国した際、70万人ものパレスチナ人が故郷を追われ難民となりました。

 

 トランプ大統領は、よりによって、このような日を大使館移転の日に選んだのですから、火に油を注ぐようなものです。

 

 予想どおりパレスチナ人の怒りは頂点に達し、6週間に及ぶ抗議行動の間、イスラエルによる銃撃で100人以上の抗議参加者が死亡し、数千人の負傷者が出ています。14日と15日の2日間だけでも「衝突の死者は62人に達した。催涙ガスの吸引により死亡した生後8カ月の女児も含まれる」そうです(毎日新聞2018年5月15日)。

 

 これでは、シリアのアサド政権を転覆することに協力していたサウジなどの王制独裁国家も、同じアラブ人イスラム教徒として、さすがに、このようなアメリカやイスラエルの蛮行に目をつむるわけにはいかず、アメリカとイスラエルの孤立ぶりは一層、際立つことになりました。

 

 事実、GCC(湾岸協力会議Gulf Cooperation Council)の一員であったカタールはアサド政権の転覆活動から完全に手を引き、独自の活動を始めています。オマーンとクウェートも、カタールに同調し始めています。

 

3―6
 考えてみれば、アメリカは「先住民を大虐殺し、その土地を奪いながら建国された国」ですから、アラビア半島の先住民であったパレスチナ人を追放・戮殺し、その土地を奪いながら建国されたイスラエルと波長が合うのも当然かも知れません。

 

 もうひとつアメリカとイスラエルの波長が合う理由があります。

 

 アメリカは先住民を虐殺しながら西海岸まで領土を拡大し、それを「明白なる運命」「神から与えられた明白な使命」と考えてきました(ハワード・ジン『肉声でつづる民衆のアメリカ史』上巻、256頁)。

 

 これが、「アメリカは特別な国であり何をしてもかまわない。国際法を踏みにじろうが、それは神から許された行為だから」という、「アメリカ例外主義」の根底を流れる考え方です。

 

 このような考えを土台にして、その後も太平洋を越えてハワイを併合しフィリピンまでも領有するようになりました。

 

 他方、イスラエルも「ユダヤ人は神によって選ばれた民族であり、エルサレムどころか聖書に書かれているとおりの領土を所有する権利がある」と考えているのですから、アメリカと波長が合うのも当然だったわけです。

 

 この間の事情をチョムスキーは次のように書いています。今後の資料としても重要だと思いますので、長くなりますが敢えて引用させていただきます。

 

 英国や米国の「キリスト教シオニズム」は、「ユダヤ教シオニズム」よりも古い歴史を持つ。

 ちなみに、「キリスト教シオニズム」は神がアブラハムと結んだ契約に基づき、エルサレムがアブラハムの子孫に永久に与えられたとする教理であり、「ユダヤ教シオニズム」はユダヤ人国家を建設しようとする一九世紀末以来の運動だ。

 「キリスト教シオニズム」は英米のエリート層には重大な意義があり、明確な政策も持っていた。ユダヤ民族のパレスチナ帰還を支持するバルフォア宣言もその一つだ。

 第一次世界大戦中に英国のエドモンド・アレンビー将軍がエルサレムを征服した。このとき、アレンビー将軍は米国の報道機関からリチャード獅子心王の再来だと大喝采を受けた。なぜなら、十字軍を率いて聖なる地から異教徒たちを追い出したのは、リチャード獅子心王だったからだ。

 そこで次なるステップは、選ばれた民たちを、神によって約束された土地に返すことになる。

 当時のエリートたちの典型的な見方は、フランクリン・ルーズベルト大統領の内務長官ハロルド・イッキーズの言葉によく示されている。彼はユダヤ人によるパレスチナ植民地化を讃え、「人類の歴史においてこれほどの業績はほかにない」と述べた。

 このような態度は、神意主義者(プロヴィデンシャリスト)の教義を信じる人々の間では、ごく普通のことだ。

 その教義は「神が世界に計画を持っており、神がすべてを計画済みである」とするもので、米国は聖なる指示に従って前進していると信じている。この教義は米国が建国されたときから大衆とエリートの文化の中で強い力を持っている。
(『誰が世界を支配しているのか』137―138頁、寺島が改訳)

 

 チョムスキーは上記でアメリカにおける「キリスト教シオニズム」「ユダヤ教シオニズム」および「神意主義者(プロヴィデンシャリスト)」について説明しているのですが、アメリカとイスラエルの関係について、ここでもうひとつ重要な指摘をしています。それは「キリスト教福音派」および「終末キリスト教福音派」についてです。

 

 「キリスト教福音派」は米国では主流派だ。さらに極端な教義を持つ「終末キリスト教福音派」も米国では大人気で国民に浸透している。

 彼らは1948年のイスラエル建国で元気づけられ、1967年にパレスチナを征服すると、さらに活気づいた。これらすべては終末の時とキリストの再臨が近づいている予徴だと、彼らは見ているからだ。

 これらの宗派の勢力はレーガン時代から強くなりはじめた。(中略)彼らは大きな恐れと憎しみを抱える外人嫌いの国粋主義者で、宗教面でも国際的な基準からみると過激だが、米国内では普通の範曙に入る。

 その結果、アメリカで強くなったのは聖書の予言に対する敬意だ。この新しい政治勢力はイスラエルを支持するだけでなく、イスラエルによる征服と拡大を喜び、情熱的にイスラエルを愛している。
(『誰が世界を支配しているのか』138頁、寺島が改訳)

 

 この叙述を読むと、蛮行を重ねるイスラエルを、なぜ共和党はもちろんのこと民主党すら支持して止まないのかがよく分かります。これではイスラエルと共にアメリカも世界から孤立していくのは時間の問題とすら思えてきます。

 

 このアメリカの「孤立」「停滞」「凋落」を加速させているのが、今まで述べてきたように、トランプ大統領の最近の言動でした。

 

 チョムスキーは、冒頭でも紹介したように、『アメリカンドリームの終わり』で大略、次のように述べています。

 

 「アメリカは第二次大戦で世界の頂点に立ったが、その衰退は終戦直後から始まっている。しかし急激な経済的停滞と凋落は1970年代から顕著となった。それでも軍事的優位は揺るがず、それが覇者としてのアメリカを支えてきたし世界的通貨としてのドルを支えてきた。」(傍点は寺島)

 

 このようなアメリカの「停滞と凋落」を回復すると称してトランプ氏は大統領選に立候補し、当選しました。しかし彼の主張する「アメリカ・ファースト」は、先述のとおり、大統領に就任した早々から Deep state”の巻き返しに会い、政策は180度、逆転することになってしまいました。

 

 トランプ氏は先述のとおり、選挙戦で、「国内の立て直しに専念する。そのため海外に手を出すことはやめ、ロシアと協力しながらイスラム原理主義勢力を一掃し、海外の米軍を撤退させ、軍事費を国家再建にまわす」と公約したのですが、今はオバマ前大統領も顔負けするほどの軍拡に走り出してしまいました。

 

 その後の言動は、ご覧のとおり、アメリカの威信を回復させるどころか、ますます世界から孤立させるものでした。

 

 しかし前節でも述べたように、トランプ氏はいまアメリカ大統領として世界に巨大な貢献をなしつつあるとも言えます。

 

 というのは、アメリカが振りかざしている「アメリカ例外主義」「神から与えられた明白な使命(マニフェスト・デスティニー)」が、このようにはっきりと目に見えるかたちで世界に提示されたことは、かつてなかったからです。

 

 繰り返しになりますが、これはトランプ氏の登場なしにはあり得なかったでしょう。オバマ氏の偽善的な姿勢が、アメリカの真の姿を覆い隠してきたからです。

 

 まだまだ核戦争の危機が完全に消えたとは言えませんが、絶対的帝国として世界に君臨していたアメリカが、これを機会に、その流れを多極主義へと転換することになるとすれば、世界の平和にとってこんなよいことはありません。

 

3―7

 

3―7―1
 この節を終えるにあたって、最後に付け加えておきたいことが二つあります。

 

 その一つ目はエルサレムについてです。

 

 トランプ氏はエルサレムを新しくイスラエルの首都と認めると宣言し、アメリカ大使館もそこに移転しました。

 

 そもそも、1947年11月29日の国連総会で、エルサレムは国際管理地区ということになっていました。

 

 しかし1967年6月の第三次中東戦争でイスラエルがエルサレム全域を押さえた以降は、イスラエルが実効支配し、そのうえ1980年には、イスラエル議会がエルサレムはイスラエルの首都と決議しました。

 

 これにたいして、143対1でその決定の無効を決議したのが、1980年の国連総会でした。これを踏みにじったのが、今回のアメリカ大使館エルサレム移転です。

 

 このことがアメリカとイスラエルをいっそう孤立化させることになったことは、何度も述べてきたとおりです。

 

3―7―2
 もうひとつ付け加えておきたいことは、なぜ中東問題が理解しにくいのかということです。

 

 シリアを初めとする現在の中東問題が理解しにくい理由のひとつは、アメリカが裏でイスラム原理主義勢力を育てながら表向きはそれを叩き攻撃するという高等戦術をとっているからです。

 

 ソ連軍がアフガニスタンに侵攻してきたときは、同じイスラム原理主義勢力を「自由の戦士」と称して裏で軍事訓練をし、武器を供給しながら彼らを支援しました。

 

 共産党・共産主義=悪という通念が、アメリカのみならず西側の世界では一般的でしたから、これは非常にわかりやすい構図でした。

 

 ましてソ連軍がアフガニスタンに「侵略」したとなれば、それをたたく絶好の口実になります。

 

 しかし、この戦略を考案したブレジンスキーは、後に「実はイスラム勢力を使ってソ連軍をアフガニスタンにおびき出したのは私だ」とインタビューで自慢しているのです。ビンラディンも、このような中で育てられた人物でした。
*ジョン・ピルジャー「タリバンを育てたアメリカ」その1~3
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-271.html
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-272.html
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-2 7 3.html

 

 しかしソ連が崩壊した現在、アメリカの軍産複合体を維持するためには新しい敵が必要になります。それで標的になったのがイラクのサダム・フセインでありリビアのカダフィ大佐でした。いずれも「自国民を殺害する残虐な独裁者」というふれこみで、人道主義をふりかざしてイラクやリビアに乗りだし、独裁者を倒すという構図です。

 

 ところが、これらは全て嘘だったことが後で明らかになってきました。イラクやリビアは、サウジなどのイスラム原理主義の王制独裁国家と違って、世俗主義の国家であり、選挙もありましたし女性でも大学に行けました。

 

 現在、攻撃されているシリアも同じです。シリアが化学兵器を使っているというのも、すでに述べたとおり、すぐ嘘だということが暴露されてしまいました。

 

 だとするとシリアを攻撃する口実がなくなります。そこで考え出されたのが、シリアで残虐な行為を繰りかえしているイスラム原理主義勢力を「テロリスト」だとして、これを成敗するという口実です。

 

 昨日の「自由の戦士」が今日は「残虐なテロリスト」として宣伝され、そのためのビデオも制作されました。

 

 このようにアメリカは、自分の侵略を正当化するために新しい高等戦術を次々と編み出してきています。

 

 ですから、大手メディアだけを見ていると余りにも理解し難いことが多く、頭が混乱してきます。今では人権NGOという一見すると中立的な団体までつくって敵を悪魔化しますから、ますます混乱させられます。

 

 だとすると、いま私たちは容易ならざる時代に突入しているのだと言えるでしょう。よほど腹をすえてかからないかぎり真実は見えてこないからです。

 

 

4 大転換する朝鮮半島

 

4―1
 前節でも述べたとおり、トランプ氏は大統領選挙戦で、「国内の立て直しに専念する。そのため海外に手を出すことはやめ、ロシアと協力しながらイスラム原理主義勢力を一掃し、海外の米軍を撤退させ、軍事費を国家再建にまわす」ことを公約したのですが、今はオバマ前大統領も顔負けするほどの軍拡に走り出してしまいました。

 

 その後の言動は、アメリカの威信を回復させるどころかますます世界から孤立させるものだったことは、先述のとおりです。

 

 私がこのようにアメリカの孤立化を紹介して間もなく、「神によって選ばれた民」「神によって選ばれた国」の孤立化をさらに歴然と示す二つの出来事がありました。

 

 ひとつは、キム・ジョンウン(金正恩)朝鮮労働党委員長とトランプ大統領との直接対話が、2018年6月12日に、シンガポールで実現したことであり、もうひとつは、国連人権理事会からの脱退を、6月19日に、アメリカが表明したことです。

 

4―2
 キム委員長とトランプ大統領の直接対話が実現したことは世界の平和にとって非常に好ましいことでした。これは、核戦争を回避しようと努力してきたひとたちに大きな希望を与えるものでした。しかし、同時にこれは軍事帝国アメリカの一層の衰退と孤立化を象徴するできごとでもありました。

 

 というのは、これまでトランプ氏は、個人的にはキム氏との直接対話を望むと言いながらも、他方では、Deep state” の意向に沿って「朝鮮が完全な非核化を約束し実行しないかぎりキム委員長とは会わないし韓国との共同軍事演習もやめない」と言明し続けていたからです。

 

 にもかかわらずトランプ氏が一転して前言を翻し、直接対話に乗りだしたのは、韓国のムン・ジェイン(文在寅)大統領が先導して北朝鮮との直接対話の気運を作りだし、北朝鮮も、それに応えて、2018年5月25日に、米英韓中露5カ国の外国記者団まで招いて、核実験場の爆破を公開したからです。

 

 このような北朝鮮による核廃絶の意思表明は、韓国はもちろんのこと平和を望む多くの人々の支持を得ました。

 

 この高まる大きな世論を無視して、経済制裁や武力による恫喝のみを繰りかえしていては、ますますアメリカの傍若無人さが際立って、孤立が進行してしまいます。

 

 というよりも、世界中の世論によるアメリカの孤立化が、シンガポールでの直接対話となって実現したと言うべきでしょう。

 

 ではキム委員長に核実験場の廃棄・爆破を決断させた要因は何だったのでしょうか。これについて櫻井ジャーナルは次のような興味ある説明をしています。(傍点は寺島)

 

 ソ連崩壊後、ミハイル・ゴルバチョフに見捨てられてから生き残りに必死だったであろう朝鮮は、統一教会やイスラエルと手を組み、東アジアの軍事的な緊張を高めたいアメリカにとって好都合なこと、例えば核兵器の開発やミサイルの発射実験を行ってきた。
 こうしたことは中国やロシアから止めるよう説得されていたが、無視してきた。
 ロシアの前身であるソ連に裏切られたという思い、アメリカ軍の強さに対する恐れが朝鮮を動かしてきたのだろうが、昨年四月の攻撃でロシアや中国への信頼が戻った可能性がある。
 しかも、韓国がロシアや中国と連携している。ロシアの防空システムがあれば、アメリカ軍をそれまでのように恐れる必要はないと考えても不思議ではない。
(櫻井ジャーナル2016.06.17.https://plaza.rakuten.co.jp/condor33/diary/201806160001/)

 

 アメリカは、北朝鮮がミサイル実験をするたびに、それを口実に韓国や日本に巨額の武器を買わせ、THAAD(高高度防衛ミサイル)や地上配備型弾道ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」を韓国や日本に配備して中国包囲網を強化してきました。

 

 と同時に、モリカケ問題などで安倍政権が国会で追い詰められているときに、具合のよいことに、いつも北朝鮮がミサイル騒ぎを起こしてくれ、NHKを初めとする大手メディアは、世論の批判が安倍政権に向かわず北朝鮮非難へと集中する役割を果たしてきました。

 

 このことを私はいつも不思議に思ってきました。そもそも貧困に喘いでいるはずの北朝鮮が、核実験やミサイル開発に向ける技術やお金はどこから手に入れたのだろうか。中国やロシアとの関係は悪化していたのだから、どこが裏で支援していたのだろうか。これが私にとって最大の謎でした。

 

 この疑問を解いてくれたように思われたのが、上記の櫻井ジャーナルで指摘されている二つの事実、すなわち「生き残りに必死だったであろう朝鮮は、統一教会やイスラエルと手を組み……」、および「昨年4月の攻撃でロシアや中国への信頼が戻った可能性がある」という説明でした。

 

 まず後者の「昨年4月の攻撃」ですが、これについて先述の櫻井ジャーナルは、「昨年4月の攻撃が中国や朝鮮の考え方に変化を与えた可能性はあるが、それはトランプ大統領の主張とは逆だろう」として、次のように説明しています。

 

 ドナルド・トランプ米大統領は、シンガポールで朝鮮の金正恩労働党委員長との会談を行った6月12日、FOXニュースのシーン・ハニティのインタビューを受けたが、その最後の部分で、昨年(2017年)4月6日にシリアで実行した攻撃について語っている。
 その攻撃とは、地中海にいたアメリカ海軍の2駆逐艦(ポーターとロス)が巡航ミサイル(トマホーク)59機をシリアのシャイラット空軍基地に向けて発射したもの。
 シリア政府軍が自国民に対して化学兵器を使ったという口実だったが、証拠はなく、それが事実でなかった可能性は極めて高い。(中略)
トランプ大統領は昨年4月6日のシリア攻撃で発射されたミサイル全てが目標にヒットしたと主張しているのだが、被害が事実上、なかったことが判明している。
 しかも、ロシア国防省によると、目標に到達したのは23機だけ。いくつかは地上に落下しているが、残りは不明。海中に落下した可能性が高い。
 トランプ大統領の主張とは違い、アメリカのミサイルはロシアの防空システムを突破できていないと言える。[引用終わり]

 

 つまり、アメリカは59機ものミサイルを発射したのですが、目標に到達したのは23機だけで、その6割は撃ち落とされているのです。しかも目標に到達した23機も、事実上は何も被害を与えていません。


 もうひとつ北朝鮮の姿勢を変えさせる事件がありました。それを櫻井ジャーナルは上記の解説に続けて、次のように伝えています。

 

 そして今年(2018年)4月、アメリカ軍は再び偽情報を宣伝しながらシリアをミサイル攻撃した。国防総省の発表によると、攻撃のターゲットはバルザー化学兵器研究開発センター(76機)、ヒム・シンシャー化学兵器貯蔵施設(22機)、ヒム・シンシャー化学兵器(7機)で、全て命中したとしている。

 しかし、「攻撃目標」と「使用されたミサイルの数」が不自然で、現地の様子とも符合しない。

 それに対し、ロシア国防省の説明によると、この攻撃で米英仏の3カ国は103機の巡航ミサイルを発射、そのうち71機をシリア軍が撃墜したという。

 今年は短距離用の防空システム、パーンツィリーS1が配備されていたが、これが効果的だったようだ。アメリカはリベンジを狙って返り討ちに遭った。

 ロシア国防省は攻撃された場所として、ダマスカス国際空港(4機。全て撃墜)、アル・ドゥマイル軍用空港(12機。全て撃墜)、バリー軍用空港(18機。全て撃墜)、サヤラト軍用空港(12機。全て撃墜)、メゼー軍用空港(9機。うち5機を撃墜)、ホムス軍用空港(16機。うち13機を撃墜)、バザーやジャラマニの地域(30機。うち7機を撃墜)を挙げている。[引用終わり]

 

 要するに、発射されたミサイルのうち7割は撃墜されているのです。前回の撃墜率は6割でしたから、大きな前進と言うべきでしょう。しかも狙ったのは化学兵器施設だったとするアメリカの主張が全く嘘だったということも暴露されてしまいました。

 

 そもそもシリアの化学兵器は国際団体監視の下で全て廃棄されているのですから、このような嘘は初めから意味のないことでした。

 

 だとすれば、「ロシアの防空システムがあれば、アメリカ軍をそれまでのように恐れる必要はない」と北朝鮮が考えて、自分もロシアや中国に接近したいと思ったとしても不思議ではないわけです。

 

 まして韓国のムン・ジェイン(文在寅)大統領がロシアや中国に接近し両国と連携し始めているのですから、なおさらのことです。

 

 こうしてキム委員長は急速に中国に接近し、習近平(シー・ジンピン)国家主席との会談に至ったのでした。

 

4―3
 では第二の事実「生き残りに必死だったであろう朝鮮は、統一教会やイスラエルと手を組み……」については、どうでしょうか。

 

 反共団体として名高い統一教会が、共産主義国家として悪罵を受けている北朝鮮と手を組んでいるという事実を、私は、初めは信じられなかったのですが、Yahoo!ニュース(2 0 1 5/8/3 0)が次のような事実を報道していることを知り、やっと納得することが出来ました。

 

 北朝鮮の国営メディアである朝鮮中央通信は8月30日、金正恩第一書記が、韓国発祥の宗教団体・世界基督教統一心霊協会(統一教会)の教祖である文鮮明(ムン・ソンミョン)氏の三周忌に際し、遺族らに弔電を送ったことを伝えた。

 

 日本では霊感商法や有名芸能人の「合同結婚式」などで社会問題化した統一教会だが、教祖の文氏は、もともと北朝鮮・平安北道(ピョンアンブクト)出身だ。

 

 社会主義体制の北朝鮮とは、反共団体である国際勝共連合の活動などを通じて長年対立していたが、1991年に電撃的に訪朝。当時の金日成主席と和解して以降、密接な関係を築いてきた。

 

 金正恩氏は文鮮明氏の死亡時と一周忌に際しても弔電を送っている。
(https://news.yahoo.co.jp/byline/kohyoungki/20150830-00048987/)

 

 この記事は、もうひとつ衝撃的事実を報じていました。何と安倍晋三氏や自民党タカ派勢力は、これまで統一教会(および北朝鮮?)と親密な関係を築いてきていたのです。Yahoo!ニュースは上記の報道に続けて、次のような解説を載せていました。

 

 それだけではない、文氏は安倍晋三ファミリーとも親密な関係を築いていた。
 統一教会は観光や自動車生産で北朝鮮を支援してきたほか、北朝鮮が旧ソ連製の弾道ミサイル潜水艦を「スクラップ」として輸入する際にも、同教団系の企業が関与していた。
 また、統一教会は、日本の弁護士グループから「信者らが違法な物品販売等で再三刑事摘発されている反社会的団体」と指弾されている一方、自民党政治家と親密な関係を築いてきたことで知られる。
 中でも、安倍晋三首相の祖父である岸信介元首相は文氏ととくに親密で、最近では、山谷えり子国家公安委員長と国際勝共連合の関係がメディアで取り沙汰された。
 石原慎太郎元都知事も同組織から選挙支援を受け、熱烈な感謝のメッセージを送っている。[引用終わり]

 

 要するに、安倍晋三氏は、表では「力で屈服させろ」と北朝鮮を声高に非難しつつ、裏では統一教会を通じて北朝鮮を支援し、アジアの緊張関係を高め、それを口実に日本の軍拡と改憲(=壊憲)を一気に進めるという、高度な戦術を取ってきたわけです。

 

 (ちなみに、山谷えり子国家公安委員長が関係していたとされる「国際勝共連合」は、統一教会の外郭団体です。)

 

 これはアメリカも全く同じで、「冷酷な独裁政権」と北朝鮮を声高に非難しつつ、「金正恩の斬首作戦」などの軍事演習を繰りかえしてアジアの緊張関係を高め、それを口実に韓国や日本に巨額の兵器を買わせてきました。

 

 と同時にアメリカは、緊張関係を口実に、THAADやイージスアショアなどの超巨額かつ超攻撃的な武器を韓国や日本に配備して中国包囲網を強化する、という高等戦術を駆使してきたのです。

 

 ですから北朝鮮は、このような高等戦術のなかで踊らせられてきたとも言えるわけです。

 

 もっとうがった見方をすれば、キム委員長とトランプ大統領は、「お互いに悪罵を投げつけ合いながら中国包囲網を強化するという猿芝居を演じてきたのではないか」という疑いすら浮かんで来ます。

 

 北朝鮮にしてみれば、このようなかたちで敵対しつつあった中国に恨みを晴らすつもりだったのかも知れません。

 

 しかし、シリアにおけるロシア軍とロシア兵器の目を見張るような働きが、キム委員長の姿勢を大逆転させたのではないか。これが櫻井ジャーナルの意見でした。

 

4―4
 では「生き残りに必死だったであろう朝鮮は、統一教会やイスラエルと手を組み……」と櫻井ジャーナルが指摘している「イスラエルとの関係」については、どうでしょうか。

 

 これについても先述の櫻井ジャーナルは次のように述べています。

 

 中国には一帯一路(海のシルクロードと陸のシルクロード)というプロジェクトがある。かつて、輸送は海路の方が早く、運搬能力も高かったのだが、技術の進歩によって高速鉄道が発達、パイプラインによるエネルギー源の輸送も可能になった。海の優位さが失われている。
 しかも中国は南シナ海からインド洋、ケニアのナイロビを経由して紅海に入り、そこからヨーロッパへ向かう海路も計画している。この海路を潰すため、東の出発点である南シナ海をアメリカは支配しようと考え、日本はアメリカに従ったということだ。
 ところが、2016年6月にフィリピン大統領となったロドリゴ・ドゥテルテはアメリカに従属する道を選ばない。ベトナムなどもアメリカの好戦的なプランから離れていく。
 他方、ロシアと中国は東アジアでの経済的な交流を活発化させて軍事的な緊張を緩和しようとする。
 例えば、今年(2017年)9月4日から5日に中国の厦門でBRICS諸国(ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ)の会議が開催され、9月6日から7日にかけてロシアのウラジオストックで同国主催のEEF(東方経済フォーラム)が開かれた。
 このイベントに朝鮮も韓国や日本と同様、代表団を送り込んでいる。韓国がロシアや中国との関係を強化しようとしていることは明白だ。
 こうしたなか、核兵器の爆発実験や弾道ミサイル(ロケット)の発射実験を繰り返し、アメリカとの軍事的な緊張を高める口実を提供してきたのが朝鮮にほかならない。BRICSの会議やEEF(東方経済フォーラム)が開かれた直後、9月15日にもIRBM(中距離弾道ミサイル)を発射している。
(櫻井ジャーナル https://plaza.rakuten.co.jp/condor3 3/diary/20171115/)

 

 上記の説明にあるように、今までアメリカによる中国包囲網に加わっていたベトナムやフィリピンも、アメリカ離れを始めているのです。

 

 ここでもアメリカの孤立化が進行していることは明らかです。この流れに唯ひとり従っているのが日本政府・安倍政権です。

 

 この路線を裏から支えてきたのが北朝鮮だったわけです。それが中国の北朝鮮にたいする姿勢を一層硬化させてきたことも疑いのないところです。しかし、これについて前記の櫻井ジャーナルは、さらに詳しく、次のように重要な事実を暴露しています。

 

 このところ朝鮮の爆発実験やミサイルの発射は成功しているようだが、少し前までは四苦八苦していた。
 ところが、短期間の間にICBMを開発し、水爆の爆破実験を成功させた可能性があるという。そこで、外国から技術、あるいは部品が持ち込まれたと推測する人もいる。
 ミサイルのエンジンについて、イギリスを拠点にするシンクタンクIISS(国際戦略研究所)のマイケル・エルマンは、朝鮮がICBMに使ったエンジンはソ連で開発されたRD―250がベースになっていると分析、朝鮮が使用したものと同じバージョンのエンジンを西側の専門家がウクライナの工場で見たとする目撃談を紹介している。
 また、ジャーナリストのロバート・パリーによると、エンジンの出所だと疑われている工場の所在地は、イゴール・コロモイスキーという富豪が知事をしていたドニプロペトロウシク市(ウクライナのドニプロペトロウシク州、現在はドニプロ市と呼ばれている)にある。[引用終わり]

 

 北朝鮮が核実験やミサイル発射をするたびに、私は、「そのような技術やお金はどこから出ているのだろうか」という疑問をもち続けてきたことは最初に述べたとおりですが、この叙述で、私の疑問はかなり解消された気がしました。

 

 しかし、ウクライナとイスラエルの関係はどうなっているのでしょうか。北朝鮮とイスラエルは、どのような関わりでつながっているのでしょうか。この疑問について櫻井ジャーナルは、さらに次のような説明を加えています。

 

 富豪コロモイスキーは、ウクライナ、キプロス、イスラエルの国籍を持つ人物で、2014年2月のクーデターを成功させたネオ・ナチのスポンサーとしても知られている。2014年7月17日にマレーシア航空17便を撃墜した黒幕だとも噂されている人物だ。

 国籍を見てもわかるようにコロモイスキーはイスラエルに近い人物だが、朝鮮はイスラエルと武器の取り引きをした過去がある。

 1980年のアメリカ大統領選挙で共和党はイランの革命政権に人質解放を遅らせるように要求。その代償としてロナルド・レーガン政権はイランへ武器を密輸した。その際、イランは大量のカチューシャロケット弾をアメリカ側へ発注。
 アメリカはイスラエルに調達を依頼し、イスラエルは朝鮮から購入してイランへ売っているのだ。この関係は切れていないと考えるのが自然だろう。
 その後も朝鮮とイスラエルとの関係は続き、イスラエルには朝鮮のエージェントがいるようだ。そのエージェントがエンジンの件でも重要な役割を果たしたという情報も流れている。[引用終わり]

 

 アメリカもEU諸国も、ウクライナの政変を、ネオ・ナチによるクーデターだったと、いまだに認めていません。

 

 しかし、これが長年にわたって大金を注ぎ込んでアメリカの仕組んだクーデターだったことは、オバマ政権時の国務次官補ビクトリア・ヌーランド女史が公開の場で堂々と述べたとおりです。

 

 前節でも紹介したように、彼女は、2013年12月13日にワシントンで開かれた「ウクライナを巡る会議」において、「米国は、ソ連崩壊時からウクライナの民主主義支援のため50億ドルを投資した」と語っています。

 

 またヌーランド女史は、2014年4月、テレビ局CNNのインタビューでも、米国は「より強い民主主義的な政府を目指すウクライナ国民の欲求をサポートするために」五〇億ドルを拠出した、と述べているのです。
https://jp.sputniknews.com/us/201701263276021/

 

ヌーランド女史とウクライナの自由党(ネオ・ナチ)指導者のチャニボク

 もし、これが事実だとすれば、アメリカが統一教会やイスラエルと協力しつつ裏で仕組んだ猿芝居に、金正恩委員長もまんまとのせられ、中国封じ込め政策に利用されてきたのではないか、という疑いすら出てきます。
(そして私たち日本人も、この猿芝居に騙され、日本中に鳴り響いた「Jアラート」に翻弄されたことになります。)

 

 とはいえ、いま北朝鮮はアメリカと正面から対峙し、中国やロシアとの関係改善へと、新しい方向に歩み出そうとしていることだけは確かなようですから、その意味でも、アジアにおけるアメリカの孤立化は、ますます鮮明になってきたように見えます。そこで慌てふためいているのが安倍政権です。

 

4―5

 

4―5―1
 以上で、「アメリカとイスラエルの孤立化を示す、さらなる二つの出来事」のうちの前者「朝鮮情勢の大転回」についての説明を終えたいと思います。

 

 しかし、この節を閉じるにあたってどうしても付記しておきたいことがふたつあるので、それを述べて本節を閉じたいと思います。

 

 その一つ目は、オバマ政権時に国務省国務次官補だったビクトリア・ヌーランド女史についてです。というのは、私が本節を書くに当たって、いろいろ調べているうちに、次のような衝撃的記述を見つけたからです。

 

 イラク戦争に失敗してネオコンは退潮した。それでもネオコンは生きていてオバマ政権にも入り込んだ。ネオコンとして今も生き残っているのがビクトリア・ヌーランド国務省国務次官補(ヨーロッパ・ユーラシア担当)である。彼女の夫のロバート・ケーガンがネオコン第三世代の代表だ。…ビクトリア・ヌーランド女史は、明らかにムーニー(統一教会員)である。そしてヒラリー派だ。」(副島隆彦『トランプ大統領とアメリカの真実』178頁)

 

 統一教会の旧名称は「世界基督教統一神霊協会」(今は「世界平和統一家庭連合」と名前を変更)で、アメリカにも支部があることは知っていたのですが、まさかヌーランド女史までが統一教会の一員であったことに驚愕させられました。

 

 これが事実だとすれば、統一教会とイスラエルは、北朝鮮だけでなくウクライナでも暗躍してきたことになります。

 

 ちなみに、ウィキペディアによれば、統一教会は「開祖・文鮮明の姓ムンから、俗にMoonies(ムーニーズ)の名で知られていて」、アメリカでの活動は次のように説明されています。

 

 「1954年5月に韓国ソウルで世界基督教統一神霊協会が創設され、1965年に文鮮明一家と幹部たちは宗教・政治的情宣活動の拠点をアメリカに移し、世界宣教・経済活動を拡大し、巨大な統一運動傘下組織を作った。韓国の多くの少数派宗教団体と異なり、朝鮮半島を超えて世界中に普及したという特異性を持つ。世界193か国に支部がある。…文鮮明は戦闘的な反共産主義者であり、共産主義は神の摂理に基づく民主主義に対抗する悪魔によるものとされた。」

 

 つまり、上記の副島説が正しいとすれば、オバマ政権内のネオコン一派として著名であったヌーランド女史は、ネオコンであるだけでなく、反共陣営・中国封じ込めの一員として、統一教会の一員でもあったのです。これも「事実は小説よりも奇なり」の好例かもしれません。

 

4―5―2
 私は、櫻井ジャーナル(2 0 1 7/1 1/1 5)から下記のような引用をしつつ、北朝鮮がイスラエルから援助を受けながら核実験やミサイル開発をしてきたのではないかと、述べてきました。

 

 「1980年のアメリカ大統領選挙で共和党はイランの革命政権に人質解放を遅らせるように要求、その代償としてロナルド・レーガン政権はイランへ武器を密輸したのだが、その際、イランは大量のカチューシャロケット弾をアメリカ側へ発注。アメリカはイスラエルに調達を依頼し、イスラエルは朝鮮から購入してイランへ売っているのだ。この関係は切れていないと考えるのが自然だろう。」[引用終わり、傍点は寺島]

 

 しかし、上記の引用で、1980年のアメリカ大統領選挙で共和党はイランの革命政権に人質解放を遅らせるように要求し、その代償としてロナルド・レーガン政権はイランへ武器を密輸したという件(くだり)については、もう少し説明を付け加えないと理解しにくいのではないかと思います。

 

 この「共和党とイラン革命政権との裏取引」について時系列に沿って略述すると次のようになります。

 

(1)1980年の大統領選挙では、現職ジミー・カーター大統領(民主党)とロナルド・レーガン候補(共和党)の間で接戦が繰り広げられていた。
 その当時、カーター政権は、イラン革命(1979)でテヘランのアメリカ大使館が占拠され、大使館員52人が人質にとられるという試練を抱えていた。

 

(2)1980年4月、特殊部隊デルタ・フォースによる人質救出作戦に失敗し、二期続投を目指すカーター政権への大きな打撃となった。
 このため、カーター政権の外交姿勢を「弱腰」と批判する共和党を勢いづかせる結果となった。

 

(3)1980年10月18、19日、共和党の大統領指名を争う予備選に出馬し、レーガン政権の副大統領へ転身を企むブッシュ一世(元CIA長官)は、レーガンの選挙チーム責任者ウイリアム・ケイシー(後のCIA長官)と共に、パリで密かにイラン政府関係者と会談した。
 共和党は、イランの最高責任者ホメイニ師ほかイラン政府関係者に賄賂と武器供給を約束し、人質解放時期をレーガン大統領就任時まで延長するように交渉した。

 

(4)これは、「レーガンが大統領に当選した暁にはお望みの武器を供給するから、それまでは人質解放をしてくれるな」という交渉だった。
 民主党カーター大統領の在任中に人質事件を解決させないことで彼の人気を落とし、接戦を繰り広げていた大統領選挙で、レーガンを当選させるという隠密作戦だった。

 

(5)その結果、この選挙でカーターは敗北し、1981年1月20日、レーガンが第40代大統領に就任した。

 

(6)同日、人質となっていたテヘランのアメリカ大使館員らも無事解放され、生還した。人質解放がレーガン大統領の誕生で実現し、共和党は「強いレーガン大統領」を演出することに成功した。

 

 このような経過を見ると、再び「事実は小説よりも奇なり」です。

 

 イラン革命は「アメリカを後ろ盾とする王制独裁国家に対する革命」でしたから、本来ならイラン政府とは敵対関係のはずです。

 

 にもかかわらず共和党は、自分たちの利益を最優先にして、イランと取引したのです。しかも何と!敵に武器(大量のカチューシャロケット弾)を売るというのですから、信じがたい光景です。

 

 そしてレーガン政権は、イスラエルに調達を依頼し、イスラエルは朝鮮から購入した武器をイランへ売っているのです。

 

 ですから、今度の核実験やミサイル開発でも、北朝鮮とアメリカとの間でどのような裏取引があったか、凡人にはとても推し量ることは出来ません。

 

 レーガン大統領は、この後も有名な「イラン・コントラ事件」で全く同じ手口を使っていますが、ここでも仲介役として暗躍していたのがイスラエルでした。

 

 だとすれば、私たちは何と恐ろしい世界に生きているのでしょう。よほど腹を据えてかからなければ、まんまと権力者がばらまく嘘に騙されてしまいます。

 

5 アメリカが支えるイスラエルの「民族浄化作戦」

 

5―1
 国連大使ヘイリー女史は去る2018年6月19日、アメリカは国連人権理事会から離脱すると表明しました。

 

 トランプ政権は、すでに2017年6月1日、地球温暖化防止の国際枠組み「パリ協定」からの離脱を決め、NATO同盟国のフランスからも強い批判を浴びました。

 

 またトランプ政権は、2017年10月、「反イスラエルの姿勢が目立つ」として、ユネスコからの脱退も表明しました。

 

 アメリカが「反イスラエルの姿勢が目立つ」とした理由は、ユネスコが2011年10月31日に総会を開き、賛成107、反対14、棄権52で、最も新しい加盟国として、パレスチナ国の正式加盟を承認したことでした。

 

 この決議案採択にたいして、アメリカ、イスラエルなどは反対し(日本は棄権でした)、アメリカ国務省は、この採択への対抗措置として、ユネスコ分担金の停止を実行し、さらに2017年10月にはユネスコを再脱退すると表明したのでした。

 

 パレスチナは元々、国連に加盟したかったのですが、常任理事国として拒否権を持つアメリカが、イスラエルの意向をくんで反対し、いまだに国連加盟を果たしていません。しかし国連の下部団体であるユネスコが、パレスチナの加盟を認めたことが、アメリカとイスラエルの怒りを買ったのです。

 

 しかし(2016年3月)、国連加盟国193カ国の中で、136カ国がパレスチナを国家承認しています。常任理事国ではロシアと中国が承認している他、南米ではコロンビア以外、アフリカではカメルーンとエリトリア以外のすべての国が承認しています。またアジアでは、日本、韓国、中華民国、シンガポール、ミャンマー以外の全ての国がパレスチナを承認しています。

 

 つまりアメリカの息のかかったNATO諸国およびアジアにおけるアメリカの属国・同盟国以外はすべて、パレスチナという国を承認しているのです。

 

 そういう意味では、アメリカのユネスコ脱退は、ユネスコが世界の知性を代表する国際機関と認められているだけに、「神によって選ばれた国」イスラエル、「神によって選ばれた民」アメリカの、孤立化を象徴する事件でもありました。

 

 この孤立化をさらに後押ししたのが、2018年6月19日に表明された国連人権理事会からの離脱でした。

 

 地球温暖化防止の国際枠組み「パリ協定」からの離脱、アメリカ大使館の「エルサレムへの移転」と併せて、アメリカの世界的威信を、これほど低下させた事件はなかったでしょう。

 

 言い換えれば、これらの国際機関からの離脱・脱退は、アメリカやイスラエルの強さの現れではなく、むしろ弱さの現れだとみるべきでしょう。

 

 以下、この点について、項を改めて検証してみたいと思います。

 

5―2
 先述のとおり、アメリカ国連大使ヘイリー女史が、2018年6月19日に「アメリカは国連人権理事会から離脱する」と表明したとき、その理由として挙げたのが、「人権理事会の最近の決議数はイスラエルを非難するものが突出して多い」「人権理事会が人権ではなく政治的な偏見によって動いている明確な証拠だ」という点でした。

 

 しかしイスラエルのパレスチナにたいする蛮行、とりわけガザ地区に対する蛮行は目を覆わんばかりの残虐行為に満ちていて、それにたいする非難決議が何度も国連安保理事会で提出されましたが、いつもアメリカによる拒否権の発動で実効あるものになりませんでした。

 

 しかし、このような蛮行は、もうすでに何十年も続いているものです。チョムスキーはすでに『チョムスキーの教育論』(明石書店、2006)の補章第1節「『歴史捏造』の技術を検証する」で、わざわざ「2 沈黙の義務」という項をもうけ、そこでイスラエルの残虐行為を詳しく論じているのです。

 

 この補章そのものは、中米ニカラグアでアメリカがいかに政権転覆活動をおこなったか、その過程でアメリカが特殊部隊を使いながら、ニカラグアやエルサルバドルでどんな残虐行為を展開したかを詳細に説明したものですから、本来イスラエルとは関係ないはずです。

 

 にもかかわらず、チョムスキーは、この節この項で、次のように更なる小項目をたてて、過剰とも思われるほどの頁数をついやして、イスラエルの蛮行を、怒りを込めて糾弾しているのです。
*米国ではタブーとされるイスラエル問題
*イスラエルでは何が起きていたのか
*無罪になった兵士達の蛮行
*米国で当然視されてきた民族浄化

 

 ユダヤ人であるチョムスキーの、ユダヤ人国家とされるイスラエルへの怒りが、いかに激しかったか、これだけでも分かっていただけるのではないでしょうか。

 

 この原書ペーパーバック版が出版されたのは2000年ですから、それから既に18年間も、イスラエルによる似たような蛮行が続いてきたことになります。

 

 しかし実を言うと、「『歴史捏造』の技術を検証する」は、 Necessary Illusionsという本に入っていたものを、編集者のドナルド・マセード氏が、チョムスキーの許可を得て、この原書に再録したものでした。

 

 この本の出版年は1989年でしたから、チョムスキーの怒りは18年前どころか、29年前から続いてきていることになります。

 

 というのは、最近のチョムスキーは、ガザの惨状を「青天井の牢獄」と名付けて、その怒りを表現しているからです。

 

 ガザの惨状は地区そのものが牢獄であり、そのような牢獄のなかで地区住民が毎日を生きていると、チョムスキーは言いたかったのです。詳しくは下記の拙論を御覧ください。
* 血に染まった「青天井の牢獄」ガザ、「民族浄化」としてのパレスチナ
http://tacktaka.blog.fc2.com/blog-entry-105.html

 

 私がこの小論を書いたのは2012年ですが、それから2年も経たないうちに、次の大惨事が起きました。

 

 それをAFP通信(2014年7月24日)は、「パレスチナ側の死者700人超に、イスラエルがガザ攻撃続行」という見出しで次のように伝えています。

 

 「パレスチナ側の死者、700人超に イスラエルがガザ攻撃続行」
 パレスチナ自治区ガザ地区(Gaza Strip)でイスラエル軍が続ける軍事作戦は24日、17日目に突入し、医療関係者によるとパレスチナ側の死者数は718人に上った。同地区で活動する人権団体は、死者の8割以上が一般市民だと指摘している。ガザ地区では同日だけでも、イスラエル軍の空爆で21人が死亡。犠牲者の中には、5歳の女児と3歳の男児を含む6人家族もいた。[引用終わり]

 

 これを受けて、国連人権理事会は、パレスチナ自治政府とアラブ諸国などが共同で提出した「イスラエルのガザ侵攻を非難する決議」を、29カ国の賛成多数で可決し、理事会議長が派遣する調査委員会が国際人道法・国際人権法違反を調べることになりました(2014年7月23日)。

 

 しかし、これにたいして、いつものとおり、理事国ではアメリカ合衆国だけが反対でした。そしてEU諸国と日本など、アメリカの属国である17カ国が棄権しました。イスラエルは「衡平を欠く」と猛反発し、調査に協力することを拒否しました。

 

 これが、アメリカの国連大使ヘイリー女史の「人権理事会は、人権ではなく政治的な偏見によって動いている明確な証拠だ」という実態なのです。

 

 ヘイリー女史は、その場でさらに、中国、ベネズエラ、コンゴ民主共和国を名指しして「最も基本的な権利を明らかに軽視している」と指摘し、こうした国が理事会の参加国になっていることも批判したそうですが、これもまさに天に唾する行為でした。

 

 というのは、アメリカ自らが、「最も基本的な権利を明らかに軽視している」国々、たとえばイスラム教原理主義国家サウジアラビアなどの王制独裁国家を支援し、選挙で選ばれた政権の転覆を謀ってきたことは、今では誰の眼にも明らかになってきていることだからです。

 

 その典型例が、イラクのサダム・フセインやリビアのカダフィ大佐にたいする政権転覆と彼らの死刑または惨殺でした。

 

 初めは、「独裁者が民衆を弾圧している」「大量破壊兵器をもっている」という口実で、この政権転覆を国連が支持したかのように思われましたが、前節でも紹介したように、これらが全て嘘であったことは今では誰でも知っている事実となりました。

 

 アメリカやNATO諸国は、イラクやリビアの成功に味をしめて、今度はシリアのアサド政権転覆に乗りだしたのですが、イラクやリビアの件で騙されたことに気づいたロシアと中国は、今度は国連決議によるシリア侵略にGOサインを出しませんでした。

 

 「アサド政権が化学兵器を使っている」という嘘も繰り返し出されましたが、そのたびにロシアや現地を自分の眼で確かめたジャーナリストによって、その嘘が暴露されていることも先述したとおりです。

 

 アメリカが「オオカミ少年」であることがこれほど明らかになったことは、いまだかつてなかったことです。

 

 たとえば、ノーベル平和賞の候補になり映画化までされた「ホワイトヘルメットと言われる集団」も、アメリカやNATO諸国によってつくりあげられ、支援されたプロパガンダ部隊であったことも、調査報道記者として有名なセイモア・ハーシュによって暴き出されています。
*セイモア・ハーシュは語る「プロパガンダ組織ホワイトヘルメットがアサド政権転覆に従事」
https://www.rt.com/news/431379-white-helmets-propaganda-syria/

 

5―3
 こうして、イスラム原理主義勢力を裏で支えながらシリア侵略をすすめてきたのが、アメリカとNATO諸国、イスラエルおよびサウジアラビアなどのイスラム王制独裁国家でした。

 

 とりわけ自らの立場を、自らの行為で暴露してしまったのが、先述のイスラエルの「ホワイトヘルメット救出作戦」でした。

 

 シリア侵略勢力は、ロシア軍とアサド軍の目覚ましい働きによってますます追い詰められ、今やどうやってシリアから脱出したらよいかを深刻に考えなければならない状況になってきました。

 

 そこへ登場したのがイスラエルだったというわけです。
*イスラエルが「白ヘル部隊」をシリアからヨルダンへ避難させる
https://www.rt.com/news/433924-white-helmets-evacuation-israel/
*「白ヘル部隊」の救出作戦は、誰が彼らを雇っていたのかを明確に示すことになった
https://www.rt.com/news/434052-white-helmets-rescue-hypocrisy/

 

 このように世界平和にとって誰が脅威かをイスラエルは自らの行動によって示したわけですが、ご承知のように、このイスラエルを強力に擁護してきたのがアメリカでした。それを劇的なかたちで世界に見せつけたのが、「反イスラエルの姿勢が目立つ」という理由による、国連人権委員会からの脱退宣言だったわけです。

 

 ヘイリー女史は、その場でさらに中国、ベネズエラ、コンゴ民主共和国を名指しして「最も基本的な権利を明らかに軽視している」と指摘し、こうした国が理事会の参加国になっていることも批判しました。

 

 ところが皮肉なことに、彼女が強力に擁護するイスラエルは、最近、「国家自決」法を議会で可決しました(2018年6月18日)。

 

 これはイスラエルをユダヤ人だけの国だと宣言する法律ですから、かつてナチスがドイツですすめた「民族浄化」政策を、イスラエルの地で再現しようとするものと言うべきでしょう。
*イスラエルが、ユダヤ人だけの「国家自決」法を、議会で可決
https://www.rt.com/news/433655-israel-nation-state-law-passsed/

 

 イスラエルには、約180万人のアラブ系イスラエル人がいて、イスラエルの人口の約4分の1を占めています。今までは公用語として認められてきたアラビア語を話してきました。

 

 しかし今後は、正式な公用語はユダヤ人が話すヘブライ語だけとなります。つまり約180万人のアラブ人を「二級市民」として扱うことを、イスラエルは法律で正式に宣言したことになります。

 

 これでは、ヒトラーによる「民族浄化」政策や、かつて人種差別国家として有名であった南アフリカ共和国の「アパルトヘイト」とどこが違うのでしょうか。ヘイリー女史は、このようなイスラエルを、どのように擁護するのでしょうか。

 

 これでは、「神によって選ばれた国」と「神によって選ばれた民」の、世界からの孤立は、ますます深刻になることはあっても緩和することはないでしょう。
 (しかし残念なことに、このようなアメリカとイスラエルの行動に、ほとんどいつも歩調を合わせてきたのが我が国の政府なのです。)

 

5―4
 最後に、ヘイリー女史によって、「最も基本的な権利を明らかに軽視している」と名指しで非難された中国、ベネズエラ、コンゴ民主共和国についても、ここで言及しておきたいと思います。

 

 まず中国ですが、アメリカと違って現在の中国は、他国を侵略したり特殊部隊を密かに派遣して住民を虐殺してきたという過去を持っていません。

 

 それに比して、アメリカの過去は実におぞましいものです。先に紹介した『アメリカの国家犯罪全書』はアメリカ人自身による内部告発書です。

 

 たとえばベネズエラについても、アメリカはチャベス大統領を「独裁者」だとして口汚く非難してきました。しかし、チャベスが大統領になってからはベネズエラの貧困層は激減し、教育水準も驚くほどの高まりを見せました。

 

民衆の支持に応えるベネズエラのチャベス前大統領(2008年)

 ところが、2002年4月11日にはCIAの支援を受けて軍部によるクーデターが発生し、チャベスは軍に監禁され、代わりに元ベネズエラ商工会議所連合会議長のペドロ・カルモナが暫定大統領に就任しました。

 

 最初クーデターは成功したかに思われましたが、暫定政権が強権的な支配を強めたため、大統領の支持基盤である貧困層のデモが激化しました。

 

 情勢を見た軍や国家警備隊が寝返り、カルモナは逃亡。クーデターはわずか2日間で失敗に終わりました。

 

 これを見れば分かるように、チャベスの政策はベネズエラの富裕層・特権階級にとっては非常に不愉快なものでした。これはベネズエラの石油資源などに以前から目をつけているアメリカにとっても許せない政策でした。

 

 だからこそCIAはベネズエラにおけるアメリカ大使館を拠点に、何度も不安定化工作を実施しましたが、それが成功しなかったので、ベネズエラの軍部を利用したクーデターを企てたのです。

 

 ウィキペディアですら、このクーデターについて次のように記述しています。
 「このクーデター時、RCTVを含む民間テレビ4局は、チャベス派の狙撃兵による反チャベス派への銃撃事件を捏造し、繰り返し報道した。RCTVのグラニエル最高責任者はクーデター派のこの陰謀に直接、加担していたことが判明している。この報道機関として著しく中立性を欠いた行為が、のちのRCTV放送免許の更新問題を引き起こす原因となった。」

 

 まるで最近のアメリカによるウクライナ政変劇を思わせるような狙撃事件です。

 

 ベネズエラでは、チャベス大統領が癌で死去した(毒物による暗殺だとの説もある)あとを引き継いだマドゥロ大統領も、相変わらず「独裁者」だと罵られ、今でもアメリカによる不安定化工作が続けられています。

 

5―5
 最後は、ヘイリー女史が名指ししたコンゴについてです。これについては、ずいぶん長くなってきたので、櫻井ジャーナル(2 0 1 7.1 0.1 5)の次のような説明を引用するにとどめておきます。

 

 資源の宝庫、コンゴは1960年2月に独立し、6月の選挙でパトリス・ルムンバが初代首相に選ばれる。

 それを受け、コンゴ駐在アメリカ大使のクレアー・ティムバーレークはクーデターでルムンバを排除するように進言するが、同大使の下には後に国防長官となるフランク・カールッチがいた。

 ドワイト・アイゼンハワー大統領は同年8月にルムンバ排除の許可を出している。(David Talbot, “The Devil’s Chessboard,” HarperCollins, 2 0 1 5)
 アメリカ支配層に選ばれたモブツ・セセ・セコが9月にクーデターを成功させ、12月にルムンバは拘束された。
 1961年1月17日、ジョン・F・ケネディが大統領に就任する3日前に、ルムンバは刑務所から引き出されてベルギーのチャーター機に乗せられ、ルムンバの敵が支配する地域へ運ばれた。
 そして、そこで死刑を言い渡され、アメリカやベルギーの情報機関とつながっている集団によって殴り殺された。
 1961年1月26日にアレン・ダレスCIA長官はコンゴ情勢についてケネディ新大統領に説明しているが、ルムンバ殺害について触れていない。[引用終わり]

 

 つまり、民主的に選ばれたルムンバがCIAの暗躍によって殺されたことをケネディ大統領は知らなかったわけですが、アメリカが犯した国家犯罪であったことは間違いありません。

 

 そして今度はケネディ自身が、1963年11月22日に暗殺され、その2年後にキューバ革命の英雄ゲバラは独裁者モブツが支配するコンゴへ入って活動を始めます。

 

 しかし、そのゲバラも、CIAの手引きで、1967年10月9日にボリビアで殺されました。

 

 このように、調べれば調べるほど、アメリカやイスラエルの言う「人権」「民主主義」がいかに偽善に満ちたものであるかが見えてきます。

 

6 ユダヤ人フィンケルスタインのイスラエル批判

 

 それにしても、なぜアメリカは、これほどにまでイスラエルに肩入れしなければならないのでしょうか。

 

 先述のとおり、チョムスキーは『チョムスキーの教育論』の補章で「米国ではタブーとされるイスラエル問題」と述べていましたが、言論の自由を最も声高に叫び、「人権」や「民主主義」を口実に他国に干渉し、クーデターまで企ててきたアメリカが、なぜイスラエルの政策を非難できないのでしょうか。

 

 その理由のひとつとして考えられるのは、(アメリカのキリスト教原理主義とユダヤ教原理主義の奇妙な一致は別にして)イスラエル批判はユダヤ人差別と受けとられるのではないかという恐れでしょう。

 

 もちろんアメリカには通称AIPAC「エイパック」と呼ばれるロビー団体「アメリカ・イスラエル公共問題委員会」があり、全米ライフル協会をも上回ると言われる強力な組織です。

 

 この団体は全米50州に10万人の会員を数えており、またイギリスの経済誌『エコノミスト』によれば、その年間予算は5000万ドルに上るそうです。

 

 そこからの莫大な政治献金を考えれば、この団体の影響力も無視できないことは間違いないでしょう。彼らの意向に逆らうと絶対に議員や大統領になれないと言われているほどですから。

 

 しかし私がここでも問題にしたいのは、そのような政界の話ではなく、「言論の自由」を誇っているはずの学者・言論界の世界でさえ、その例外ではないという事実です。

 

 確かに、ユダヤ人以外のひとがイスラエルの政策や行動を批判すれば、「それはユダヤ人に対する差別・偏見だ」と言われかねないので、なかなかイスラエル批判に踏み切れないのも分からないでもありません。

 

 しかし、いまアメリカで深刻なのは、ユダヤ人でさえイスラエル批判ができないという現実です。チョムスキーはユダヤ人ですが、彼のように堂々とイスラエル批判ができるのは、彼が全く例外的存在だからです。

 

 とはいえ、そのように著名な例外的人物でさえ、大手メディアで発言したり執筆したりすることは、ほとんど許されていません。彼が『Play Boy』という通俗雑誌で発言しているのを見ると異様な感じがしますが、そのような場しかアメリカの一般市民に語りかける場が、彼に許されていないからです。

 

 ですから、博士課程にいる学生がイスラエル問題を取りあげて論文を書くことは不可能に近いと言えます。その不可能に挑戦したのがノーマン・フィンケルスタインでした。

 

 彼の父親はアウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所収監の、母親はマイダネク強制収容所収監のユダヤ人生存者でした。

 

 このようにアウシュヴィッツの生き残り、ホロコーストを身をもって体験した人物を両親にもつフィンケルスタインでさえ、イスラエル批判をやりとげることは容易なことではありませんでした。

 

 彼が、パレスチナ人はもともと存在しなかったとするジョーン・ピーターズの著書『ユダヤ人は有史以来』を取りあげて、プリンストン大学で、それを批判する博士論文を書こうとしたとき、助言を求められたチョムスキーが再考するよう求めたという話は、あまりにも有名です。

 

 チョムスキーが再考を求めた理由は、「そのような課題に挑戦すると研究者としての人生を送れなくなる恐れがある」「そもそもその論文を審査員として引きうける教授がいるかどうか」というものでした。

 

 しかしフィンケルスタインは、その助言を重く受け止めつつも、敢然と自分の目標に挑戦したのでした。そしてチョムスキーの援助も得ながら、名門プリンストン大学から博士号を取得し、なんとかシカゴのデポール大学に職を得ることが出来ました。

 

 このような研究のなかで誕生したのが、世界的話題となった『ホロコースト産業―同胞の苦しみを「売り物」にするユダヤ人エリートたち』(三交社、2004)、『イスラエル擁護論批判―反ユダヤ主義の悪用と歴史の冒涜』(三交社、2007)という2冊の本でした。

 

 彼は前著『ホロコースト産業』では、AIPACなどを中心とするアメリカのユダヤ人エリートが、自らの政治的・経済的利益にそぐわないものに対して反ユダヤ主義のレッテルを貼りつけることで、ホロコースト被害者としての立場を濫用し暴利をむさぼっていると強く批判しました。

 

 また後著『イスラエル擁護論批判』では、ハーバード大学ロー・スクール教授として著名であったアラン・ダーショウィッツ(彼自身もユダヤ人である)の『ケース・フォー・イスラエル―中東紛争の誤解と真実』に対して、虚偽に満ちているとして徹底した批判を展開しています。

 

 しかし、このイスラエルの擁護書を批判したことで、フィンケルスタインはダーショウィッツから、「ユダヤ人の裏切り者」と目されるようになり、その後の人生は、まさにチョムスキーの予言したとおりのものになりました。

 

 というのは、この本が出版された後に、准教授を務めていたデポール大学で間近に迫っていた終身在職権の取得が、大学上層部によって急に否決されるという事件がおきたからです。

 

 こうして彼はデポール大学で教授になる道を閉ざされただけでなく、大学そのものから去るよう追い込まれてしまいました。

 

 他方、ダーショウィッツは、この間、『イスラエル擁護論批判』の出版差し止めをカリフォルニア州知事(当時)のアーノルド・シュワルツェネッガーに依頼したり、出版元のカリフォルニア大学出版局に高額訴訟をほのめかす等の行動をとっていました。

 

 ですから、デポール大学で間近に迫っていた終身在職権を、大学上層部によって急に否決されることになったのも、ダーショウィッツによる裏工作の結果ではなかったのかと、強く疑われている所以です。

 

 いずれにしても、このフィンケルスタインをめぐる事件は、アメリカの誇る「言論表現の自由」「教育研究の自由」なるものがどの程度のものか、それを示す好事例ではなかったでしょうか。

 

 

7 おわりに

 

ボリバル革命20周年の集会で大統領の支持と外国の干渉に抗議するベネズエラ国民(2月)

 いま私がこの小論を執筆している現在(2019年2月5日)、トランプ大統領はベネズエラのマドゥロ大統領にたいして、「グアイド国会議長をベネズエラの暫定大統領として認める」と宣言し、「もし退陣しないのであれば米軍の派遣もありうる」と恫喝しています。

 

 しかし、ベネズエラの国民ではなく他国の元首がベネズエラの大統領を選ぶことができるのであれば、たとえば中国の元首が、トランプではなく、下院議長のペロシ女史をアメリカ大統領として宣言できることになります。このようなトランプ氏の言動は、自分が「ロシアの傀儡」ではないことを証明し、民主党や「影の政府」による大統領弾劾を逃れるための術策とも考えられないわけではありません。

 

 しかし、このような荒唐無稽な言動は、アメリカ大統領だけでなく、そのような言動を支持するアメリカ政界全体の「痴性」(「知性」ではない!)を証明するものであり、世界中にその恥をさらけ出すことになっています。

 

 そのような下劣さはEU諸国も似たり寄ったりで、フランスを初めイギリスやドイツも似たような声明を発表しました。

 

 こうなると、EUを代表するはずのフランス、ドイツ、イギリスの「知性」もその程度だったのかと、世界各国の心あるひとたちはあきれかえっているのではないでしょうか。

 

 その証拠に、イタリアは、「グアイド国会議長をベネズエラの暫定大統領と認める」というEU声明案を明確に拒否しています。

 

 フランスにしても、国内では「黄色いベスト運動」が、マクロン大統領の退陣と新しい選挙を要求しているのですが、マクロン氏はそれを拒否しながら、他方ではベネズエラのマドゥロ氏にたいして退陣と新しい選挙を要求しているのです。

 

 その厚顔無恥ぶりには開いた口が塞がらない思いの国々も少なくないでしょう。

 

 つまり、富裕層・特権階級を代表するEU首脳国(フランスやドイツなど)がアメリカの指示に従おうとしても、他の国がそれを認めようとしていないのです。

 

 まして中国、ロシア、インドなど、アジア、アフリカの諸国で、「神に選ばれた国」の指示に従おうとする国は今のところ見当たりません。

 

 そもそもトランプ氏が大統領選に立候補したときの政策の大きな柱の一つが「今後アメリカは他国の政権転覆に加担しない」というものだっただけに、今回のトランプ氏の言動は、アメリカ大統領だけでなく、アメリカという国の威信を大きく低下させることになってしまいました。

 

 とりわけトランプ氏自身が、「ロシアによる裏からの選挙介入によって大統領になった」と、民主党だけでなく大手メディアにも激しく攻撃されてきただけに、氏の醜態ぶりは特に際立っています。

 

 なぜなら、「トランプはプーチンの傀儡」「ロシアによる裏からの選挙介入」ということにたいして最も激しく反発してきたのがトランプ氏自身だったからです。

 

 そのトランプ氏が、手のひらを返したように、今度は「表から堂々と」クーデターを企てることに加担しているわけですから、「神に選ばれた国」が放つ腐臭に、多くの国は我慢ができなくなってきているのではないでしょうか。

 

 アメリカが放つ強い腐臭は、このような対外政策だけでなく国内政策からによってさらに強められています。

 

 というのは、アメリカ国内ではイスラエルの政策に反対する人は公職に就けなくなってきているからです。

 

 最近でもテキサス州の公立学校教師が「イスラエルの政策を支持しない」という理由で、州法によって公職から追放される事件が起きているからです。
*「いかなる場合でもイスラエルの政策を支持する、との誓約を拒否した理由で職を奪われた教師が提訴」
https://on.rt.com/9koj

 

 アメリカでは、イスラエルによるガザ地区への残虐な攻撃に抗議して、イスラエル商品にたいする「ボイコット・資本引き揚げ・制裁」を呼びかける「BDS運動」が広がりつつあるのですが、これに参加することを禁じる法律が、アメリカの少なからぬ州で法律化されています。

 

 すでに26の州がこのような法律を制定し、さらに13州が同様の法律を制定する予定だそうです。

 

 これを合計すると39州になりますから、アメリカ50州のうち8割近くが「思想信条の自由」を奪われていることになりかねません。チョムスキーが以前から心配していたアメリカの「ファシズム化」です。

 

 これが「民主主義のモデル国」と自称するアメリカ(および、そのような立法を裏で強力に後押しをしているイスラエル)の実態なのです。

 

 このような実態は早晩、世界中の国々に知れ渡ることになるでしょう。日本でも最近、BDSジャパンの発足集会が開かれているからです(大阪12月14日、東京12月16日)。

 

 こうして、トランプ氏の言動や州政府の行動が、ますます世界中のひとたちに、アメリカの真の姿を露呈させることになっています。「神に選ばれた民」と「神に選ばれた国」の孤立化とファシズム化は進む一方です。

 

 ローマ帝国の崩壊を見れば分かるように、「明けない夜はない」のです。それと同じく、帝国アメリカも永遠に続くとは思えません。むしろ「夜明けは近い」とさえ思えてきます。ですから、トランプ大統領に感謝です。

 

 むしろ深刻なのは、このようなアメリカに付き従っているだけの我が国の未来ではないでしょうか。

 

 

〈追加補節〉

「神に選ばれた国」と「神に選ばれた民」と緊迫するベネズエラ情勢

 


 この原稿を書いている2019年2月18日現在、アメリカによるベネズエラのマドゥロ政権転覆の動きは、ますます露骨になってきています。 今までアメリカは政権転覆を企てても、シリア、リビア、ウクライナのように、それを民衆運動によるかたちをとるか、中米ホンジュラスのように、裏で軍部を動かしてクーデターを起こさせるというかたちをとってきました。 

 

 しかしベネズエラの場合、このどちらもうまくいきませんでした。民衆運動のかたちをとろうにも、チャベス大統領が亡くなった後のマドゥロ政権に対する民衆の支持は、変わらなかったからです。

 

 アメリカは経済制裁を加えつつベネズエラを不安定化させ、裏でも白人富裕層を焚きつけて、民衆運動のかたちをとって政権転覆を試みますが、これにも失敗しました。

 

 というのはアメリカによる経済制裁のため、物価高騰と物資欠乏に苦しめられつつも、ベネズエラ民衆はマドゥロ政権に対する支持を変えることはなかったからです。

 

 大手メディアでは、マドゥロ政権にたいする反政府デモが巨大な支持を得ているかのように報道されていますが、この反政府デモに参加しているのは、そのほとんどが白人富裕層であり、有色人種が多数である民衆はその多くが、マドゥロ政権を支持しています。

 

 その一般民衆のデモの方が大きいのですが、大手メディアではほとんど紹介されていません。その実態は下記の『マスコミに載らない海外記事』による次の記事(2019年2月15日)を御覧ください。
*ベネズエラの白人優越主義がトランプ・クーデターの鍵
http://eigokiji.cocolog-nifty.com/blog/2 0 1 9/0 2/post-7 6be.html

 

 


 そこで次の手段が軍部によるクーデターなのですが、アメリカにとって残念なことに今のところベネズエラ軍はマドゥロ政権にたいする支持を変えていません。

 

 そこでアメリカ大統領トランプ氏は裏工作を諦め、表から堂々と軍部に政権転覆に乗りだすよう呼びかけるに至りました。これは国際法に照らしても前代未聞の事件です。それは中国の国家主席がトランプ政権の打倒をアメリカ軍部に呼びかける図を想像するだけでも分かるはずです。

 

 しかも民主党や大手メディアから「トランプはロシアによる選挙工作で大統領になった」と攻撃されているトランプ氏が、今度は自分自らが、裏からどころか表から堂々と、他国の政権転覆に乗りだしているのですから、まったく唖然とさせられます。

 

 そのうえ、もっと奇々怪々なのは、「トランプはロシアによる裏工作で大統領になった」と攻撃してきたはずの民主党幹部や大手メディアが、自国によるあからさまな他国への介入には、まったく異を唱えていないことです。

 

 これほど見事な「アメリカ第一主義」は考えられません。まさに「『神に選ばれた国』は、何をしようがすべては許される」ということを、そのまま絵に描いたような行動ではないでしょうか。

 

 これは弱冠35歳の若者(ベネズエラ国民議会議長フアン・グアイド)を、「ベネズエラの暫定大統領として認める」とトランプ氏が宣言したことにも歴然と現れています。

 

 しかも、「大統領が不在になったとき国民議会議長を暫定大統領にする」という規則はベネズエラ憲法233条のどこにも書いてありません。詳しくは次の記事(『寺島メソッド翻訳NEWS』2019年2月12日)を御覧ください。
*欧州議会のダブルスタンダード   ベネズエラ情勢
http://tmmethod.blog.fc2.com/

 

 ここでも「神に選ばれた国」アメリカの傲慢さと、それに追随しているEU支配層の卑屈さが浮き彫りになってきます。プーチン大統領が、マクロンを気に入らないからという理由で、「黄色ベスト運動」の指導者をフランス大統領の座に据える図を想像すれば、もっと分かりやすいかも知れません。

 

 


 最後に、追記しておきたいことが、もうひとつだけあります。それはトランプ氏によってベネズエラ特別大使に任命されたエリオット・エイブラムスについてです。

 

 エリオット・エイブラムスは、1986年に発覚したイラン・コントラ事件について1991年に議会で聴聞された際に偽証し、そのため有罪になりました。しかし後にジョージ・H・W・ブッシュ大統領により恩赦されています。

 

 ここで問題になっているイラン・コントラ事件とは次のようなものでした。

 

 ロナルド・レーガンは、大統領選挙に立候補したとき、現職のカーター大統領に手柄を立てさせないため、イラン革命で人質になったアメリカ人の釈放を選挙後まで延期するよう、裏でこっそりイラン革命政権に要請しました。そして自分が大統領になったときには、その代償としてイランに武器を売る約束をしたのです。

 

 かくしてカーターは、人質を釈放させることの出来ない軟弱な大統領だと攻撃され、レーガンは、まんまと大統領の座を手にすることが出来たのでした。

 

 他方、レーガンはイランと裏取引をした上に、同国への武器売却代金を、反政府ゲリラ「コントラ」の援助に流用しました。ニカラグアの革命政権を転覆させるためです。

 

 これが後に発覚することになった有名なイラン・コントラ事件です。まるで嘘のような本当の話です。

 

 この件にかんしては以前の節でも紹介しましたが、まさに「事実は小説よりも奇なり」です。

 

 


 しかし事件の奇怪さはまだ続きます。

 

 というのは、アメリカ人を人質にしていたイランに武器を売るというのは、あまりに露骨すぎて、とても出来ない相談でしたから、その仲介役をイスラエルに頼んだわけです。

 

 こうして、イランに武器を売る役割をイスラエルが引きうけ、アメリカはその代金をニカラグアの反政府ゲリラに手渡して、ニカラグアだけでなくグアテマラやエルサルバドルを殺戮・虐殺の荒野に変えたのでした。

 

 これが「神に選ばれた国」「神に選ばれた民」が手を携えておこなった行為です。

 

 たとえば80年代にグアテマラでは、アメリカに後押しされた独裁者エフライン・リオス・モント将軍の下で、先住民の集団虐殺と拷問が行われ、エルサルバドルでもアメリカが訓練した暗殺部隊によって市民が800人以上も虐殺されました。

 

 これらの事件を議会で追及された際、エリオット・エイブラムスは、その虐殺行為を「中米に民主主義を植えつけるという点で素晴らしい成果だった」と擁護したのでした。しかも氏は、その当時、レーガン政権の国務省高官(人権部門担当)だったのです。

 

 選りに選って、このような人物をトランプ氏は、ベネズエラ特命大使として任命したのです。しかし、このような人物を特使に任命したことに対して、民主党幹部も大手メディアも、何ら異を唱えることはありませんでした。

 

 ただし民主党下院議員で、異を唱えた若い女性議員がいました。彼女はアメリカ史上で初の、イスラム教徒の女性議員でした。

 

 彼女は下院外交委員会の聴聞会で、スカーフを頭に巻いたままの姿で、舌鋒鋭くエイブラムス氏の過去を問い詰めたのです。「いまだに、アメリカの過去の行為を『素晴らしい成果だった』と考えているのか」と。
*Ilhan Omar grill US Venezuela envoy n war crimes of previous US-backed coups(イルハン・オマール下院議員が、ベネズエラ特使エイブラムスを、過去のアメリカ支援による政権転覆と戦争犯罪について厳しく追及)
https://on.rt.com/9oba

 

 しかし、この彼女の行為は、共和党どころか民主党幹部からも攻撃されています。何度も言いますが、これがアメリカ民主主義の実態、ファシズム化しつつあるアメリカの現状です。

 

 (とはいえ、このソマリア系アメリカ人のイルハン・オマール議員だけでなく、プエルトリコ系のアレクサンドリア・オカシオ=コルテスのように堂々と社会主義者を名乗りつつ下院議員に当選する若い女性の登場は、真っ暗なアメリカに微かな光を感じさせるものです。)

 

 


 ちなみに、グアテマラに関しては『グアテマラ虐殺の記憶―真実と和解を求めて』(岩波書店)という本があります。

 

 この本の訳者代表だった飯島みどりさんは、中南米を専門とする若い研究者で、まだ岐阜大学に教養部というものが存在していた頃の私の同僚でした。

 

 私は彼女から、しばしば次のように皮肉られたものでした。
 「スペイン語は簡単だけど英語は難しいですね」
 「寺島先生はあのような残酷な国アメリカに、よく行く気になりますね」
 その頃の私は、恥ずかしながら、アメリカの残酷さを(知ってはいたつもりでしたが)充分に知らなかったのです。

 

 そして学会参加を口実に、10年近くもアメリカに通い続けていくなかで、彼女の言い分を自分の眼でしっかり納得できるようになりました。

 

 この小論は、そのような私の中間総括です。(おわり

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