いかなる権威にも屈することのない人民の言論機関

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「命と暮らしを守る拠点・大阪市を潰してはならない」 平松邦夫元大阪市長に聞く

 平松邦夫(ひらまつ・くにお) 1948年兵庫県尼崎市生まれ。同志社大学法学部卒。1971年に毎日放送に入社し、キャスター、北米支局長、役員室長を経て、2007年の大阪市長選に出馬。民間から戦後初となる大阪市長(18代)に就任。4年間の任期後、2012年に公共政策ラボを立ち上げ、公共の果たすべき役割についてシンポジウム、セミナーなどを開催。現在は、既成の政治団体の枠組みをこえて、住民自治を実践するための任意グループ「大阪・市民交流会」の共同代表として活動中。

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虚飾に満ちた「都構想」の危険性と地方自治の向かうべき道

 

 大阪市では、二度目となる「大阪市廃止・特別区設置」の是非を問う住民投票が11月1日に迫っている。大阪全体の命運を左右し、一度決めれば元に戻すことができない重大な制度改変であるにもかかわらず、「一強」状態にある大阪維新の会がトップを握る行政からも虚実入り混じった推進キャンペーンが展開され、市民からは混乱や苦悩の声が多く聞かれる。本紙は、今回の「都構想」をめぐる問題点、地方自治のあり方などについて、元大阪市長の平松邦夫氏にインタビューをおこなった。

 

◇          ◇

 

大阪市役所前に設置された住民投票の告示板

――「大阪都構想」をめぐる2回目の住民投票を迎えているが、現状をどのように認識されているか?

 

 平松 いわゆる「都構想」の住民投票は、維新の会を立ち上げた橋下徹市長の下で2015年におこなわれ、反対が70万5585票、賛成が69万4844票で、わずか1万票差で反対が上回った。この住民投票は「公選法を準用」という緩い基準であるため、資金力を持つ維新が宣伝物とメディア戦略を使って圧倒的な物量作戦を仕掛けたが、大阪市民の冷静な判断が勝り、大阪市を守り抜いた。通常の選挙では50%前後の投票率が66・83%とかつてなく高く、全有権者のうち賛成、反対、棄権がそれぞれ3分の1ずつに分かれるという結果だった。

 

 だが、あれから5年が経過し、大阪市、大阪府ともに首長を維新の会が独占し、市議会でも議席を増やすなど「独裁体制」を盤石なものにしている。橋下氏は、前回の住民投票を「一度きりだ」といって敗北後に政界を引退したが、昨年4月には松井知事と吉村市長が任期途中で辞任し、わざわざ統一地方選(市議会、府議会)の日程に合わせて、相互に入れ代わるスワップ選挙という前例のない荒業を仕掛け、府市議会での「数」と4年先までの府市首長ポストを確保した。

 

 しかも、この選挙において彼らは「大阪市を廃止する」という都構想の具体的な中身は何ら説明しなかったにもかかわらず、選挙に勝つと「民意を得た」といって「勝つまでジャンケン」ともいえる2度目の住民投票に持ち込んでいる。32億円もの公費を投じておこなわれた5年前の住民投票で、市民が苦しみながら示した「重い民意」はなかったことにしているわけだ。

 

 しかも驚いたことに、前回まで反対していた公明党が今回は「ダブル選で民意が示された」という維新の主張になびき、国政や議会の議席を失いたくないという党利党略を優先して賛成に回った。公明党大阪本部では「賛成多数を目指す」とまでいっている。

 

 その理由は、住民サービスの維持、行政支出を増やさないなど四つの提案が盛り込まれたからだというが、実際の協定書には「特別区設置の際は、住民サービスの水準を維持する」が「特別区設置の日以後は、その水準と内容の必要性や妥当性を検討し、住民サービスの向上に努める」としか書かれておらず、あくまで努力目標でしかない。

 

 市に入ってくるお金の多くが大阪府に召し上げられることに変わりなく、なおかつ4分割するのだから行政支出が増えるのは必至であり、収入が増えないなら住民サービスを削るしかない。しかも、この4条件を無理矢理あてはめたため、新庁舎は建てず、職員はあちこちの特別区役所に分散配置され、さらに現行の区役所まで使うことになっており、どう考えてもまともな行政運営ができる体制ではなくなっている。とても「バージョンアップ」などといえる代物ではない。

 

 また、反対の立場に立っていた自民党府連の一部までが賛成をいいはじめた。もともと維新は自民党議員の一部が橋下氏を担いで結成した地域政党であり、ダブル選でも本気を見せなかった自民党本部が、維新体制を維持させる方がむしろ自分たちにとって得策であると見なしていることが背景にある。

 

 こうして政党レベルでは、5年前に比べて反対は極めて少数派になっているが、嘘が嘘である限り、市民にとって本当に大切なものはなにか、真実をいい続ける私たちは「堂々たる少数派」であることに胸を張っていいと思っている。

 

 折しも新型コロナの感染が広がり、多くの市民がいのちと生活に不安を抱えているただなかで、「構想」の中身を正しく理解し、理性的な判断をすることが難しいことがわかっていながら、あえて重大な決断を迫る住民投票をすることが、本当に市民の将来にとって適切といえるのか。メディアもその異常さを指摘しないというなかにあっては非常に厳しい状況といわざるを得ず、大阪市民にとっては大きな正念場を迎えている。

 

「大阪は破綻寸前」は真実か

 

――「都構想」の具体的な中身よりも「維新体制になるまでの大阪は二重行政で破たん寸前だった」と強調することが最大のPRポイントになっているようだが、それまでの市政を担当した経験者として思うことは?

 

 平松 あたかも破たんしていたかのようにいわれているが、大阪市は1989(平成元)年度から一度も赤字決算になったことがない自治体だ。確かに負の遺産を山ほど抱えてはいたが、それは主にバブル期の負の遺産であり、「二重行政」というような行政の仕組みによるものではない。

 

 維新が「二重行政」の引き合いに出すWTC(大阪ワールドトレードセンタービルディング)は、1995年に大阪市を中心にした第三セクターが建設したもので、私が2007年に大阪市長に就いたときにはすでに倒産状態にあり、私が2回目の破綻のボタンを押すことになった。それだけでなくバブル時代に躍った土地信託事業による巨額の赤字もあったが、銀行相手に起こした裁判では、ことごとく銀行側のいい分が通る結果となった。

 

 土地信託事業などというものは、行政が公有資産を運用することによってお金が増えると信じ込んで躍った典型例だ。当時はバブル景気の真っただ中で、金融機関は土地信託事業で大もうけをしている成功例を山ほど持ちこんでくるわけだが、行政側はマイナスが出た場合の責任の所在など細かい部分を吟味せず、それを鵜呑みにして乗ってしまった。これは私が市長になるだいぶ前のことで、それが1990年代のバブル崩壊と同時に軒並み破綻して借金だけが残った。なおかつ土地信託事業は市有地を他に転用する事業であるため、それだけ市の財産も減少した。そのようなことが日本国中ザラにあった時代だ。特に、ある程度の資産を持っていた自治体に多くあった。

 

 一番の問題は、行政が金もうけに走ったことだ。もちろん国が「三位一体の改革」といいながら国庫補助負担金や地方交付税交付金を大幅に削減し、自力の財源確保が迫られるなかで「うまい話」に乗せられてしまったという負の歴史だ。

 

 とはいえ、第三セクターの負債を含めて堅実に返済し、大阪市の市債残高(市の借金)は2004年以降は減少を続けており、維新のいう「赤字で破たん寸前だ」という宣伝は、大阪市を廃止に導くための印象操作以外のなにものでもない。

 

 大阪市は、第7代関一市長(就任期間1923~1935年)の頃にはじまる「大(だい)大阪」といわれた時代をふり返ると、御堂筋の拡幅の他、区画整理事業、公営住宅やバス・地下鉄の整備事業、大学や市場の建設などの都市計画を進め、国からの役人を受け入れず、暮らしを守るために必要な施策を国に先駆けて実施し、後にそれが国の基準になるというような日本の地方自治を牽引してきた歴史がある。その一方、生活保護世帯が全国一多いことや西成あいりん地区での暴動などのマイナス面のイメージばかりが世間でクローズアップされていた。

 

 私が市長になったときにやったことは、多様な人たちが入り混じる大都市ではあるが、直接市民の中に入って話を聞き、その調整役をすることだった。「市民協働」を旗印に掲げて市内を走り回るなかで見えてきたのは、「大阪好きやねん」という市民の郷土愛や自治意識の強さだ。大阪市内には地域振興会(自治会組織)が網の目のように張りめぐらされ、自分たちの力でまちづくりをしていくコミュニティを築いている。

 

 橋下氏が目の敵にしたのもこの地域振興会だった。私と橋下氏がたたかった2011年の市長選で地域振興会が私を応援したことを根に持った橋下市長は、「既得権だ」「無駄遣いだ」といって補助金カットのやり玉にあげた。確かに監査請求をすれば、不明朗なお金の使い道などがいくつか明らかになり、大きな組織になるほど見えにくいという問題はある。だが、それは組織の運営責任者の属人的な問題であり、それが発覚した時点で正していけばよいことだ。市役所にせよ、府庁にせよ同じことだ。だから、私の時代にも情報を公開してオープンな行政組織の改革をおこなったが、橋下氏のようにそれを十把一絡げに「悪」「敵」と決めつけて集中攻撃する方がインパクトが強い。それをメディアが無批判に垂れ流すことによって、逆に虐げられている人たちも痛快さを感じるというトリックだ。

 

 だが、「二重行政を終わらせる」といっていた維新が府と市の行政トップを握って10年になるのに、まだ「二重行政が問題だ」といっている。そもそも日本の統治の仕組みは、国・府県・市町村の多層構造になっている。あって当たり前であり、なくならないものを、イメージだけでさも問題であるかのようにいうので、一体何が「二重行政の無駄」なのかさえわからなくなっている。

 

 例えば、市立住吉市民病院を、2㌔先に府立医療センターがあることを理由に「二重行政の無駄」といって閉鎖したが、住吉市民病院は小児・周産期、府立病院は急性期で専門領域が違う。統合後の府立医療センターが、まともにその代替を果たせているかを検証したメディアを私は知らない。関係者によれば、うまく機能しているとはいえないし、コロナ感染症で総合病院の必要性は増している。社会的弱者である小児・周産期医療を守ってきた大阪市の歴史と伝統を「二重行政」という言葉一つで潰してしまった――ということでしかない。本当に無駄ばかりであるなら検証をしなければならないが、セーフティネットはきめ細かく、多重にある方が住民のためだ。

 

 自治の歴史は、国や府県に対してたたかいを挑み、なおかつ必要なものは自分たちでつくり上げていく制度を築いてきた過程であり、そこでは苦しんでいる人たちにどれだけ寄り添うことができるかが基本にあるべきだと私は思う。

 

2018年に閉鎖された住吉市民病院(大阪市住之江区)

維新による改革の弊害

 

――大阪維新が断行してきた「改革」による具体的な弊害とは?

 

 平松 維新政治の問題はさまざまにあるが、新型コロナ危機を受けて思うのは、府立公衆衛生研究所と市立環境科学研究所を統合したことによる弊害だ。大阪市立環境科学研究所は、関一市長時代のころから急速な工業化による公害が増え、市民の命と健康を守る研究をするために設けられたものだが、これを府立の公衆衛生研究所との「二重行政」といって一つにしたうえで独立法人化までしてしまった。公衆衛生機関で独法化されたのは全国で大阪だけだ。それは個人情報を含むセンシティブな情報や危機管理は、公共がバックアップするべきだという基本理念があるからだ。

 

 独法化(民営化)によって公共から切り離され、職員が非正規になれば当然組織は脆弱化する。人材不足で技術継承や予算確保も難しくなり、コロナの検査を拡充したくてもできないという現場の悲鳴が聞こえている。

 

 今回、特別区に保健所や児童相談所を新たに4つつくるといっても、専門知識を持った人材を確保するだけでも困難なのが現実で、まったく中身がともなわない。

 

 また、国の特別定額給付金10万円についても、大阪市は政令市のなかで支給速度が一番遅かった。もともと大阪市はそういうことが得意な自治体であったはずなのに、できなくなっている。

 

 窓口業務の大部分を人材派遣大手のパソナに委託するなど不安定な非正規職員の割合が増え、マンパワー不足も含めて、責任をもってそのような体制をつくる能力が市役所にない。トップといえば「バーチャル都構想」などといって府に任せてなにもやらず、防護服のかわりに雨ガッパ集めをしていた。

 

 全国の政令市を牽引する都市として国に対して支援策の拡充を要求したり、広域行政の予算を市民保護のために付け替えたりできるのに、市役所がみずからその権限と財源を手放すための「大阪市廃止」の旗を振っているのだから信じられないことだ。

 

 役所の職員は「職員基本条例」を含む規律で、政治活動に大きな縛りがあるが、それが地方ではわりと認められていたことから、組合が好き放題やっていたという時代も確かにあった。また、大阪市はかつて「役人天国」といわれ、労働組合の「ヤミ専従」「カラ残業」などがスクープされ、「大阪市役所はなにをしよるかわからん」と思うようなことが横行していたのも事実だ。

 

 そのため私の前職の関淳一市長がその実態に大ナタをふるい、私もそれを受け継いで、たとえ選挙で労組の応援を受けたとしてもその基準を元には戻さなかった。だが、橋下ブームとともに役所のマイナス要素ばかり喧伝されるうちに、公務員バッシングをしていれば自分が「正義の味方」であるかのように錯覚している人が増えている。

 

 だが冷静に考えてほしいのは、近年の東日本大震災、関西では阪神淡路大震災、豪雨災害において、公務員がどれだけ頼りになったか。頼りにならなかった役所は、むしろ平成の大合併で国から合併特例債をぶら下げられて広域合併してしまったため、本来あったはずの地域の情報自体が分散してしまって有効な救助手段や救援体制が築けず、初動で大きなハンディキャップとなった。

 

 役所というのは、いかなる事態でも住民のいのちと暮らしを守る拠点だ。それを「効率化」の名の下に脆弱化させてしまえば、誰が市民のいのちと暮らしを守るのだろうか。

 

 元来大阪市には、暮らしに結びついた都市計画をするために、有能な人材が集まってきた歴史がある。たとえば大阪市水道局は、創設120年の歴史の中で蓄積された高い技術力に支えられている。安心・安全な水を、高低差を利用しづらい平坦な地形でありながら、市域全体の水圧を均一に保って安定供給できるのも、公共のもとで育成された技術者の力があるからだ。「公務員など必要ない」という企業経営的な感覚で行政を切り刻んでいくことが、いかに危険であるかを認識しなければいけない。

 

 また、維新は中小企業支援もばっさり切った。大阪は中小企業の街であり、在阪企業の99%以上が中小企業だ。彼らの活力が大阪経済の源といっても過言でないのに、大阪府のものづくり支援関連予算は4分の1にまで減り、小売商業関連予算も9割も減らしている。

 

 私の経験では、2009年のリーマン・ショックで資金繰りに困る人が増えたとき、信用保証協会が市と府にあったので、中小企業の多い大阪市としては「国が出している支援策を上回る基準を出そう」と呼びかけて独自の制度をつくった。窓口には連日連夜多くの人が詰めかけていたことを思い出す。この信用保証協会も「二重行政」の対象にされて一つに統合された。だから、今新型コロナで大阪市の支援策をホームページで探しても、大阪府のページに飛んでいく。二つあったものを一つに絞ることによって、セーフティネットがそれだけ貧弱になっている。

 

 維新の首長は「大阪府はかつてなく成長している」「この成長を止めるな!」というが、内閣府の県民経済計算のデータ【グラフ参照】を見ると、2009年のリーマン・ショック後に落ち込んだGDP(総生産)の回復幅が、大阪府は他の主要都市と比べても一番低い。府民1人あたりの所得にしても一番下だ。2015年には県民総生産でも愛知県に抜かれ、3位に転落した。客観的なデータを見れば、突出しているどころか、遅れているというのが現実なのに、それを彼らは「成長した」といい切る。

 

 このように彼らの強みは、「嘘」がいくらでもいえることだ。メディアが突っ込むことがないからだ。派手なワンフレーズだけが具体的な根拠や裏付けもないまま報じられ、それを問いただす人間がいないことが市民にとって不幸であるといわざるを得ない。

 

大阪市廃止で失うものとは

 

――その改革の帰結ともいえる「都構想」にはどのような問題があるのだろうか?

 

 平松 大阪市を廃止して特別区に分割することは、大阪市民にとって損しかない。得する部分は一つもない。協定書や広報パンフレットの中身を見れば見るほど嘘ばかり、というよりも絵空事だ。何の根拠もないことであり、その絵空事のために行政があんな形で旗振り役に回るということ自体が信じられない。

 

 維新の府議会議員がSNSで「冷蔵庫買い換える人に店員さんは性能は説明するが『冷蔵庫のメリットデメリット』なんて説明しない。説明書にも冷蔵庫のデメリットなんて書いてないし説明書に書いてないことをもって不親切と言う人もいない」と発信しているのを聞いて驚いた。なぜ将来にわたる行政の仕組みを変えることが、家電の買い換えと同じなのか。そのような軽薄な感覚で「都構想」を推進する人たちが、市民からの税金で給料を得ていることに憤りを覚える。

 

 大阪市を廃止すれば、住民サービスは確実に下がる。お金がないのだから。国からの地方交付税交付金も増額されない。大阪市単独の場合は、固定資産税や法人市民税という巨額な財源をどう案配するかは、大阪市のそのときの状況による。旧来から大阪市には、関西圏域全体を考えて、広域にこれだけのお金を使おうという判断があった。この広域分の予算だけを府がとるといっても、お金に色は付いていない。大阪市が存続していれば、これだけコロナで失業が増えているなかで「広域に回している余裕はない」ということだっていえるのに、それがいえなくなることをみずから選択することになる。

 

 大阪市が廃止されると都市計画すら自分たちでできなくなってしまう。統廃合した後の学校跡地にタワーマンションが建って人口が増えても、今度は学校がないという問題が起きる。都市計画権限を持っていれば、マンション業者に対して学校用地確保や校舎増築のための費用の一部負担を求めるなどの条例もつくれるが、この権限も住民の声が届きにくい府に委ねられる。

 

 大阪市がなくなることで、膨大な業務を引き継ぐ府の行政も財政も悪化する。特別区では、一部事務組合(四特別区の共同運営)をつくり、「割れない仕事」である介護保険をはじめ140以上もの事業をやるという。膨大な実務に比べて議員数と職員数があまりにも少ないし、そもそも一部事務組合というのは、自治体同士が自発的に協議をして一つ一つ決めるものであり、上から押しつけるためのものではない。

 

 普通に考えて都市圏というのは、核となる都市の市内交通が充実し、安心と安全が確保され、働きやすく、暮らしやすいから企業が入ってくる。たとえ企業が東京一極集中で出て行ったにしても、残っている企業があるから周辺から人が入ってくる。そういう核があって周辺が賑わい潤う。その中心機能が乱れてしまえば都市の求心力を失い、「大阪市」から「○○区」になってしまえば、そこに事業所を置くメリットはなくなる。その影響を考えると、決して周辺もよくなることはないし、「大阪市をなくせば大阪が発展する」というのは幻想だと思う。歴史、文化、伝統を一切考えない人の机上の空論だ。

 

美味しそうにみえる毒饅頭

 

――「都構想」が行き詰まったとき何が予想されるだろうか?

 

 平松 たとえ「都構想」がうまくいかなくても、国の側からすれば、大阪市民の「自己責任」ということになる。だから、どんな結果が出ても責任をとらないで済むように住民投票を義務づけているわけだ。住民投票で賛成が上回って大阪市が潰れ、その後にとんでもない事態になって、その責任は誰がとるの? となったときに、その当時の知事や市長がとるわけがない。「それは全部市民が決めたことだ」という逃げ口上がどこにもある。「そんな詐欺に引っかかった方が悪い」とさえいわれる時代だ。

 

 豊田商事事件をはじめ、どんな巨大詐欺事件でも被害者はとんでもない目にあうわけだが、今回は270万人市民だけでなく、大阪府民全体が対象だ。「都構想」実現後の維新の成長戦略はカジノしかない。本来は大阪市民のゴミを埋め立てるために活用している夢洲(ゆめしま)に、わざわざ土を買ってきて埋めて、カジノを誘致するという。だが、コロナでインバウンドが蒸発し、カジノも頓挫しかけている。

 

 夢洲は万博会場にもなっているが、南海トラフが動けば陸の孤島になることや、巨大台風の襲来なども近年あり、防災面からも、期間中に2800万人を集める場所としてふさわしいのかどうか。2025年に安全に開催できる保証もない。

 

 この数年、お客が来なくて閑散としていた市場や繁華街に、外国人客のインバウンドが押し寄せた。その空前の需要に浮かれるのは無理もないが、見境もなくバブルに踊ってしまえばその代償が必ずやってくる。老舗市場に新規参入業者が入ってきて好き放題にやり、それがコロナで消えると、すぐに撤退して火が消えたようになったケースが各地にあるのではないだろうか。

 

 現在は、法人税制度の下で東京にお金が集まる仕組みであるため一極集中になっているが、だからといって大阪が「副首都」にならないといけない理由などない。大阪は大阪としての特色を発揮すればいいだけであって、それが地域主権や地方分権の本来あるべき姿だと思う。

 

 その意味で大阪は、京都、兵庫、奈良、和歌山、そして水瓶である琵琶湖をもつ滋賀に囲まれ、文化という意味では東京以上に多様で、多重で、多層の文化が集積している場所だ。その独自性をもっと追求するべきだ。東京の真似をする必要はどこにもない。

 

 今行政がやるべきことは、市民一人一人のいのちと暮らしを守るために汗をかくことであって、何の根拠もない夢物語を吹聴して人心を惑わせることではないはずだ。そのツケは政治家ではなく、市民に回ってくるのだ。「都構想」はおいしそうに見えるだけの毒入り饅頭であり、うっかり食べたら後戻りができない。

 

大阪のど根性見せるとき

 

――「都構想」は誰が何のためにやっており、これを跳ね返す力はどこにあるのか?

 

 平松 行政が一政治政党に牛耳られ、行政をチェックするべき議会が、その首長の下で最大会派(府議会過半数)というのが大阪の現実だ。そして現在の「都構想」においても、メディアすらまともにチェックをしようとしない。橋下市政時代の記者会見で、記者が山ほど個人攻撃を受けて恫喝され、その記者に対して橋下信者から新聞社にも山ほど抗議の電話が掛かり、担当記者を変えざるを得ない状況になったとも聞いている。その後遺症が残っているのか、迫力が失せている。

 

 テレビでは吉本の芸人がコメンテーターになり、「二重行政が悪い」「維新になってよくなった」というが、その根拠を求めることは誰もしない。番組内で「その根拠は?」と問われても答えられないような無責任な印象操作を、毎日のようにテレビから垂れ流す怖さ――それは、かつて戦争遂行のために、大本営発表を鵜呑みにしながら若い人たちの命を奪ってしまった歴史を彷彿とさせる。その反省のうえに平和憲法が定められながらも、今再び同じような世相に戻りつつあるような気がしてならない。

 

 モリカケ桜、公文書改ざん、憲法解釈変更など「長いものに巻かれろ」の政治がこの国の基準になっているとしたら、大阪は間違いなくその先頭にいる。大阪から見えているものは、この国の危機的な姿だ。

 

 大阪でも、国歌斉唱の「口パク」を監視する民間人校長として名を馳せて大阪府教育長になった人物が、パワハラ問題で辞職した直後、こともあろうにカジノ参入に意欲的なパチスロメーカーであるセガサミーホールディングスの法律担当役員に就任した。要するに彼らは「今だけ、カネだけ、自分だけ」という価値観を徹底してやっている。根拠もないのに「発展している」「発展する」といい張るのは、ほんの一握りの企業や個人がかつてなくもうけている、あるいはその青写真がつくられているということの証なのかもしれない。

 

 新自由主義的な「お金さえもうければいい」という考え方を至上命題に、それに向かって動くことが正しいのだという言説が世界に広まった。私たちも高度成長時代を経験し、そのときからものづくり産業は海外に出て、安い賃金で低コストでものをつくれるようになったが、そこで生まれたものは格差や貧困の拡大であり、日本国内では法人税まで減税し、「あんたら好きなように金もうけしてや」という。その「あんたら」というのは本当にごく一握りの企業だけだった。

 

 新型コロナで多くの人が職を失ったり、観光業をはじめとする多種多様な業界が落ち込み、福島原発事故に匹敵するような社会的な価値観の変化が起きようとしているこの時代に、これをまだやるのか? だ。足元を見れば地盤がどんどん沈下しているのに、虚飾にまみれた「夢物語」に惑わされ、市民にとって最後の命綱であるはずの「大阪市」という公共の財産を潰して、「今だけ、カネだけ、自分だけ」の殺伐とした大阪にしてしまうのか――ということが今問われている。

 

 私が選挙で負けてから10年近くたってもまだ大阪市民交流会の共同代表として、市内を走り回る機会を与えてもらっているのは、大阪市というすごい力をもった地方自治体、政令市ナンバーワンの実力がある都市を潰してなるものかという強い思いからだ。

 

 権力や財力にものをいわせ、嘘や偽りがまかり通るような世の中をひっくり返すのは、大阪市民のど根性、土性骨だと信じたい。「お任せ民主主義」の諦めではなく、大阪市民一人一人の力によってしか大阪の発展はない。その住民自治の力を突きつけるには住民投票で「反対」と書くしかない。

 

「市民の台所」といわれる黒門市場(大阪市中央区)

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この記事へのコメント

  1. 平松邦夫 says:

    取材を受けた平松邦夫です。これだけ長文の記事を掲載し頂いたことに感謝申し上げます。話せば話すほど、いわゆる「都構想」といわれるものの欺瞞に満ちたやり方や、数さえとれば何でもできるという政党のこわさを身に染みて感じています。
    最後まで読んでいただいた方々に感謝申し上げます。
    11月1日の投票日まであとわずかとなりましたが、投票箱の蓋がしまるまで、活動できるのが普通の選挙と違う点です。何としてでも「大阪市消滅」を防ぎたい思いで走り続けます。

  2. ぱんげあ says:

    平松さん、長周新聞さま、ありがとうございます_(._.)_
    まだまだ諦めずに都にならない都構想、130年以上続く大阪市消滅をを阻止しましょう。

  3. 京都のジロー says:

    改めて長周新聞は凄い新聞だと実感!。マスコミ、メディアが載せないことを
    丁寧に取材し愚直に真摯に報道する姿に夫婦、親子で感動しています。
    私たちの知人、友人に長周新聞を勧めいます、拡げています。
    人手不足、資金不足の苦労は尽きないと思いますが、真実の勇気ある報道
    頑張ってください。

    まずは都構想阻止! 平松さん!山本太郎さん!
    全力で応援します。

  4. 本当にごく一握りの企業だけのお金さえ儲ければいい、公務員など必要ないという企業経営的な感覚で行政を切り刻んで、大阪市民をないがしろにすることを許してはならない。

  5. よっしい says:

    じっくり読ませていただきました。平松さんの理念に感動しました。
    大阪市は旧六大都市で市電事業を唯一最初から公営で行った輝かしい歴史があるにも関わらず、
    民営化されてしまいました。地下鉄とバスが分離しましたがバス事業は今後縮小→撤退しかありえず未来は暗いと思います。
    大阪メトロとか大阪シティバスなんて言うのが恥ずかしい、東京コンプレックス丸出し!
    都構想なんてその最たるもので戦時組織だった東京都の歴史を知っているのでしょうか?
    チャラチャラとテレビに出て大阪モデルだワクチンだと何でも大阪発祥にしたいの?隣の後進国と発想が同じですね。

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